第五十話「俺の気持ちは変わらない」
マキシムは、静かに語り始めた。
「王都に送られた種は、ルーカスの名を騙ったものだった」
「だが、実際に仕組んだのはビリーだ」
リリエルの呼吸が止まる。
「その種から咲いた花が――呪いの花だ」
甘い香りを放ちながら、月のない夜のように真っ黒な花。
「あの花の影響で、お前は倒れた」
指先が震える。
「あの花は……セレスティーヌが、ビリーに頼んだものだ」
一瞬だけ言葉を選ぶように、間が落ちる。
本来なら、そこにもう一人の名があった。
だが――今は伏せる。
「だが、安心してくれ」
声が強くなる。
「呪いは、俺と……アレクシスで解除した」
一瞬、わずかに声が低くなる。
「完全とは言えないが、もうお前の身体に害はない」
リリエルは言葉を失う。
安堵と恐怖が同時に押し寄せた。
「アレクシス様は……」
「事情があって、今はお前の側にいられない」
はっきりと言う。
「だから、俺が独断で連れ出した」
迷いのない告白だった。
「……お前たちは、契約の婚約者なのだろう?」
その言葉に、胸がざわつく。
「一年後には、アレクシスのもとを離れると聞いている」
一歩、距離を詰める。
「なら、このままここで――俺と暮らしてほしい」
静かだが、揺るがない声。
「お前の気持ちが俺に向くまで、何年でも待つ」
「だから……すぐでなくていい。
いつか、結婚したいと思っている」
空気が止まる。
「じきにアレクシスも来るはずだ」
「その時は、きちんと話し合う」
逃げるつもりはないと、はっきり示すように。
リリエルの視界が、ぐらりと揺れた。
ビリー。
呪いの花。
倒れた理由。
それを解除したのが、二人だという事実。
アレクシスが側にいられない事情。
連れ去られた自分。
そして――求婚。
情報が多すぎる。
心が追いつかない。
「……私は……」
言葉が出ない。
マキシムはゆっくりと近づき、そっと彼女の額に唇を落とした。
「……っ」
驚きに目を見開くリリエルをよそに、
彼は穏やかに微笑む。
「今日はもう休め」
「一度に話しすぎたな。まだ全てを伝えきれたわけでもない」
指先で頬を軽く撫でる。
「整理する時間も必要だろう?」
そう言って、背を向ける。
扉の前で一度だけ足を止めた。
「俺は、いつでも側にいる」
低い声が落ちる。
「俺の気持ちは変わらない」
扉が静かに閉まる。
部屋に残されたのは、静寂と、
かすかな青い花の残り香。
リリエルは震える指で、そっと額に触れた。
そこに残る温もりが、現実だと告げている。
――俺の気持ちは変わらない。
その言葉が、やけに重かった。
マキシムの愛が重い。
ルーカスの愛も重めだったのですが、
ここに来てアレクシスは、どんな感じの展開で
来るのでしょうか?
と、次の次くらいにはアレクシスが登場するので
お楽しみに!




