第四十九話「選ばれるのではなく」
「……マキシム様」
ぽつりと、こぼれた。
マキシムの腕の中で、リリエルは俯く。
「そんなふうに正直に言われたら……」
そんな弱い姿を見せられたら、
振りほどくことなんてできない。
震えているのは、彼の手か、自分の胸か。
分からない。
「まだ会って間もない俺に、
こんなことを言われても困るのは分かっている」
マキシムの声は低く、かすれていた。
「でも……こうして抱きしめていられる今が、
嬉しくて仕方ないことも、分かってくれ」
それは、飾らない本音だった。
ずっと愛から一番遠い場所に立っていた男が、
ようやく辿り着いた安息の地が、
リリエルの温もりだと思うと――
胸が、少し痛んだ。
「少しだけ……もう少しだけ、このままでいてもいいだろうか?」
「……」
リリエルは、ゆっくりと顔を上げる。
「あの……」
まっすぐに、彼を見る。
「調べてまで、知ろうとしてくださったこと
……ありがとうございます」
マキシムの瞳が揺れた。
「……俺は卑怯な男だ」
「マキシム様……?」
「アレクシスに嘘をついて、君をここへ連れてきた」
苦く吐き出す。
「そのことも、きちんと話す。
だから――もう少しだけ、このままでいさせてくれ」
リリエルの指先が、そっと彼の袖を掴む。
無意識だった。
「……はい」
言葉が詰まる。
脳裏に浮かぶのは、青い花の香り。
強く、まっすぐな瞳。
自分を守ろうとしてくれた人。
胸が、きゅっと締めつけられる。
「リリエル……俺を選んでくれ」
どれほどの時間が過ぎただろう。
マキシムはそっと腕を緩め、彼女の頬に手を伸ばす。
その仕草は、どこまでも優しかった。
「こんな私の事を、そこまで思って下さって、ありがとうございます。ですがマキシム様の想いを、軽く扱いたくないのです」
リリエルはゆっくりと顔を上げる。
「考える時間を、いただけますか……?」
沈黙のあと、マキシムは息を吐く。
「君が考えてくれるのなら、いくらでも待つさ」
声が、わずかに柔らいだ。
もう一度だけ、彼はリリエルを引き寄せる。
一瞬だけ強く。
だがすぐに、力を緩めた。
「……それでいい」
低く、かすれた声。
「待つよ」
そっと額を寄せる。
「今度は、待てる」
その温度に、胸がまた揺れる。
これは優しさだ。
誠実さだ。
間違いなく、本物だ。
――それでも。
心の奥に、名をつけられない感情がある。
それが、強く胸を締めつけていた。
マキシムーー!な会でした!
リリエルは、どんな答えを出すのでしょうか?
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