表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『婚約破棄の手紙から始まる、辺境伯との再婚生活』  作者: はる乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/63

第四十二話「空白の記憶」

アレクシスは館を駆け出してから丸一日、 

馬に乗り続けた。


睡眠を取ったのがいつだったのか思い出せない。

不眠不休で酷使し続けた身体に、

残る力をすべて注ぎ込む。


「さすがに……遠いな」


掠れた声が朝靄に溶ける。


やがて、王都近くのルーカスの館が視界に入った頃には、空は白み始めていた。

塀を越え、舗道を踏みしめる足音が朝の静寂を切り裂く。


目的地は――ルーカスのもと。


理由は自分でも分からない。

だが、急がなければならない。

それだけは、はっきりしていた。


「ルーカス! いるんだろ? アレクシスだ! 大丈夫か!」


側近が駆け寄る。


「アレクシス様!!

ルーカス様は昨日から混乱されておりまして……

誰も近付く事が許されておりません。

とてもお会いできる状態では……ないのかと。」


頭が真っ白になる。


姉の好きな花を間違えたのか?

そんなはずはない。


「行かせてくれ! ルーカスの元に!」


二人の関係を知る側近たちは、

短い沈黙の末、無言で道を開けた。



館の一室。


ルーカスは椅子に座ったまま、

何もない空間を見つめ涙を流し続けていた。


胸にぽっかりと空いた空洞。

何が悲しいのかも分からない。

ただ、自分の中にある“何かが欠けている”ことだけが、

はっきりと分かる。


「ルーカス――」


廊下から声が響く。


「邪魔をするぞ!」


振り返ると、そこにアレクシスが立っていた。

息を切らしながらも、瞳には決意と焦燥が宿る。


ルーカスは泣き腫らした目をこすり、

不思議そうに首を傾げた。


「……お義兄さん、こんな朝からどうされたのですか?」


「ルーカス!お前は覚えていないのか?

どこから覚えていて、どこから忘れてしまったんだ?」


「何のことです?何を言ってるのですか?」


アレクシスは一瞬、言葉を失う。


「……ルーカス。君の姉が好きな花の名前は?」


「何を、突然。

……白愛花ですが。

母が愛した花を、姉さんも同じように好きだと言っていました。

それが、どうしたんですか? 突然来たと思ったら花の名前なんて……」


アレクシスは静かに息を吸う。


「……リリエルのことを覚えているか?」


その名が、空気を震わせる。


ルーカスの胸が、ほんの一瞬だけ強く脈打った。


だが、それはすぐに霧のように消える。


「リリエルとは、確かお義兄さんが預かっているご令嬢のことですよね?

名前は聞いたことがありますが……まだ紹介された記憶はありません」


静寂が落ちる。


アレクシスの動揺をよそに、ルーカスはどこか穏やかに微笑んだ。


「お義兄さん。姉のことで後妻を娶らないと聞いておりますが……どうぞ自由になってください。

僕にとっては、いつまでもお義兄さんであることに変わりはありません。過去に囚われず、

どうか幸せになってください。僕や姉さんのぶんも」


「ルーカス……」


なぜだろう。


お義兄はんが羨ましくて仕方がない。

理由は分からない。

分からないのに、胸が痛い。


涙がまた、静かに零れ落ちる。


「必ず……幸せにしてあげてくださいね」


会ったこともないはずの彼女の幸せを、

なぜこんなにも願ってしまうのか。


アレクシスは拳を握りしめる。


「ルーカス、安心しろ。

彼女は――必ず俺が幸せにする!」


その言葉は、誓いだった。


そして同時に、

二人の道が決定的に分かれた瞬間でもあった。


何とも切ない愛の形ですが、

ルーカスの分もアレクシスには幸せになって貰いたいですね。

この後も、新たな展開が続いていきますので。

気になる方はフォロー、ブクマして貰えると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ