第四十一話「守るべきもの」
マキシムは、アレクシスが館を駆け出す後ろ姿を、
塀の陰からじっと見送った。
「……くそ、呪いを解いたのか――」
低く呟き、拳を軽く握る。
ビリーの意味深な言葉が、頭の中で蘇る。
〝マキシム、この結果だけは必ず教えてくれ。
この賭けは、セレスが望んだことなんだ!“
きっと、ルーカスは失敗するのだろう。
リリエルを巡る戦いは、
俺とアレクシスの二人に絞られたことを、
瞬時に察知した。
マキシムはセバスチャンに声をかける。
平静を装い、アレクシスからの伝言だと嘘を吐いた。
“リリエルの療養を王都から近い、マキシムの館へ引き継がせる”――
それがアレクシスからの正式な指示だと。
「アレクシス様、御本人からの指示だと証明するものがない以上、私どもは――」
「セバスチャン、我らの長きに渡る友情を疑うのか?
リリエル嬢の状態を、王都の医師に急ぎ診てもらう必要があると、何故分からない?」
セバスチャンの瞳が揺れる。
この混乱の中で、正しい判断を下さねばならない立場だ。
「マキシム様、アレクシス様の指示だと、本当に信じてよろしいのですね?
先程は、そんな事は言っておられませんでした!
リリエル様は、今は落ち着いておられるのに、急ぎ診てもらう必要があるのでしょうか?」
声を抑え、落ち着いた調子で問う。
マキシムは眉をひそめるが、何も返さず頷いた。
「マキシム様、救護班が到着しました!」
セバスチャンの動揺をよそに、
早馬で知らせたリリエルの迎えが、絶妙なタイミングで到着する。
「今、リリエル嬢を連れて行く。外で待機しろ!」
「マキシム様、本当にアレクシス様からのご指示なのですか?」
「くどいぞ、セバスチャン!何度も言わせるな!
呪いの後遺症を甘く見るな。リリエル嬢に何かあった時、セバスチャンお前に責任が取れるのか?」
押し黙るセバスチャンの肩を軽く叩き、
マキシムは急ぎ、リリエルのもとへ向かう。
温室を抜けた先――光が差し込む室内。
呪いが解け、穏やかに眠るリリエル。
「……リリエル」
思わず呟く。
胸を締めつけられるような光景。
彼女の無防備な姿と、静かな息遣い。
それだけで、すべての苦労が報われた気がした。
マキシムは静かに近づき、そっと手を差し伸べる――
守るべき存在を、目の前にした者の覚悟の手つきで。
「セバスチャン、連れて行く。後のことは任せろ!」
颯爽とリリエルを抱きかかえて去るマキシムに、
セバスチャンはただ立ち尽くすことしかできなかった。
マキシムの狡さとアレクシスの誠実さが相反する会になりましたが、
今後の展開も気にかけて下さる方は、ブクマとフォローをして貰えると嬉しいです!




