第三十六話「愛されない葛藤」
「……同じ、だと?」
ビリーの声が、かすかに揺れた。
嘲るように笑おうとして――笑えない。
ルーカスは目を逸らさない。
「同じだ」
静かに、繰り返す。
「俺たちは、愛が返ってこないかもしれない相手を、それでも手放せなかった」
ビリーの喉が鳴る。
「ふざけるな……」
だが、その声は弱い。
「お前に、俺の何が分かる」
「分かるよ」
ルーカスは一歩近づく。
「毎日、胸が締め付けられる感覚。
笑っている彼女を見て安心するのに、その笑顔が自分のものじゃないかもしれないと考えてしまう恐怖」
ビリーの指が震え始める。
「やめろ」
「無理して優しくされる辛さも分かる」
ルーカスの声が揺れる。
「朝から晩まで彼女のことしか考えられなくて。
毎日、恋しくて、会いたくて、愛されたくて――
頭がおかしくなりそうになることも」
沈黙。
「だから、お前を否定しきれない」
ビリーの呼吸が乱れる。
「俺は……」
声が割れる。
「俺は、セレスに選ばれたかっただけだ」
あまりにも幼い願いだった。
「どんなセレスも愛していたんだ。
ただ、俺を見てほしかった」
視界が滲む。
「一度でいいから……俺を」
血と涙が混じる。
「子どもが出来たと聞いた時、初めて“幸せな未来”が見えたんだ」
拳が震える。
「俺とセレスと赤ん坊」
声が崩れる。
「なのに……なんで、堕ろすんだよ……」
その場に、膝をついた。
初めて、嗤いではない涙が落ちる。
ルーカスの瞳が揺れる。
アレクシスは息を止める。
マキシムでさえ、言葉を失う。
ビリーは顔を覆う。
「俺は……ただ、あいつと生きたかっただけなんだ」
嗚咽が混じる。
「セレスは、俺のせいで死んだ。
だから……せめてアレクシスが他の女を愛せないようにすれば、
それがセレスに出来る俺の償いだと思った」
かすれた声。
「ルーカス。
お前が婚約者との惚気を、セレスからよく聞いてたんだ」
息が乱れる。
「愛されてるやつが、許せなかった」
目を伏せる。
「知らなかったんだ。お前も苦しんでるなんて。
お前の歪んだ愛を壊して……悪かった」
教会の空気が、静かに崩れる。
夜明け前の蒼い光が、四人を包む。
初めて――
ビリーは“敵”ではなく、
ただの、未熟な男になった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
誰かを「愛していた」ということと、
誰かを「見ていた」ということは、
同じではないのかもしれません。
物語は、もう少しだけ続きます。
見届けていただけたら嬉しいです。




