第三十五話「歪んだ愛の告白」
「……あなたは」
ルーカスの声が震える。
だが、逃げない。
「本当に姉さんを愛していたんですか?」
ビリーが顔を上げる。
「愛していたのなら――今も愛しているのなら」
一歩、踏み出す。
「こんなこと、間違っている」
教会の空気が張り詰める。
「姉さんは、こんな未来を望んでいない。
姉さんは、俺の幸せを奪おうとしたりしない」
沈黙。
「あなたの言ったことが真実だとは……認めたくない」
拳を握る。
「だが、もし義兄上の愛では足りず、あなたに縋ったのなら」
喉が鳴る。
「それは、弟である僕のせいでもある」
アレクシスが振り向く。
「歳が離れていて、姉さんは“強くない”のに強くあろうとした。
僕が姉さんに甘えてばかりで、強い人だという幻想に当てはめていた」
息を吸う。
「心に隙間があったのなら――それを埋められなかった僕の責任だ」
視線が落ちる。
「だから……もう終わりにしよう」
静かだが、はっきりと。
ビリーが嗤う。
「終わり? 何を偉そうに――」
「俺の愛も歪んでいる」
その一言で、空気が変わる。
全員がルーカスを見る。
「認めたくはないが、お前の気持ちは分かる」
ビリーの瞳が揺れる。
「俺は、リリエルを小さな頃から愛している」
一息。
「だが、リリエルが俺を愛していないことも知っている」
アレクシスが息を呑む。
「恋人としてではない。
保護者としての情だということも分かっている」
笑う。
自嘲だった。
「それでもいいと思っていた」
月光が、少年の横顔を照らす。
「彼女が手に入るなら、心なんて後からどうとでもなると――本気で思っていた」
わずかな間。
「……今でも、そう思っている」
空気がひりつく。
「この呪いさえ解ければ、リリエルは今も昔も、僕だけのものだ」
マキシムの視線が鋭くなる。
「幸いにも、あの母親がリリエルの美貌に嫉妬して隠し続けてくれた」
声が低くなる。
「だが、彼女がそれを隠さなくなった途端、
次々と男たちが群がり始めた」
拳が震える。
「あのまま誰の目にも触れさせず、
俺だけの世界で、二人で生きていくつもりだった」
静寂。
「愛しているからこそ分かるんだ」
ルーカスの声が強くなる。
「相手の愛が自分と同じではないことの辛さも。
無理に笑ってくれることの苦しさも。
自分ではない誰かに奪われるかもしれないという恐怖も」
ビリーの呼吸が荒くなる。
「全部、分かる」
静寂が重く落ちる。
「だからこそ」
ルーカスはビリーを真っ直ぐに見る。
「俺の呪いを解いてくれ」
その声に、初めて涙が滲む。
「お前と俺は同じだ」
ビリーの瞳が大きく見開かれる。
「歪んでいて、醜い愛だ。
でも――こんな愛の形があったっていいだろう?」
一歩、近づく。
「お前の愛は間違いじゃなかったと、俺が証明してやる」
声が震える。
「だから、終わりにしよう」
そして、絞り出す。
「俺を――添い遂げさせてくれ」
教会の空気が、崩れ落ちる。
ビリーの肩が震える。
怒りか、嘲笑か、動揺か――分からない。
アレクシスは息を呑み、
マキシムは計算が狂う恐怖に、わずかに目を細めた。
夜明けが、すぐそこまで来ている。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
正しい愛と、歪んだ愛。
その境界は、案外あいまいなのかもしれません。
誰もが自分なりに愛していて、
だからこそ、すれ違う。
今回の選択が、どんな結末に繋がるのか。
最後まで見届けていただけたら嬉しいです。
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