表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『婚約破棄の手紙から始まる、辺境伯との再婚生活』  作者: はる乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/63

第三十話「呪いのプレゼントを」

王都の石畳を叩く蹄の音が、三人の焦燥を刻んでいた。


冷え切った月明かりに照らされる旧市街。

その最奥に、朽ち果てた廃教会が亡霊のように佇んでいる。


「待て。正面から踏み込むのは得策じゃない」


マキシムが低く制止する。

だが、アレクシスもルーカスも止まらない。


「ビリーは、きっと俺たちが来るのを待っている。正攻法で行く」


今の二人にとって、理屈は何の防波堤にもならなかった。


重い扉が、重低音とともに開く。


砕けたステンドグラスが月光を弾き、荒れ果てた祭壇の前に、ひとつの影を浮かび上がらせた。


「……遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ」


振り返った男――ビリー。


その姿に、三人は息を呑む。

かつての面影はない。

痩せこけた頬、血走った瞳、ひび割れた唇。


それは生きながら腐敗を始めた、愛の成れの果てだった。


「ビリーッ!」


アレクシスが剣を抜き、切っ先を突きつける。


「呪いを解け。今すぐだ!」


「解け? ハハ……無理を言うなよ、アレクシス」


ビリーは嗤う。


「これは“呪い”じゃない。俺とセレスからのプレゼントだ」


「ふざけるな!」


ルーカスが割って入る。


「お前みたいな狂人が、姉さんの名を軽々しく口にするな!!」


「久しぶりに会えて嬉しいよ、ルーカス。

プレゼントを受け取った気分はどうだい?」


ビリーは静かに尋ねた。


「この“呪い”は、お前に大切なことを気づかせたい――セレスと俺からの、愛ある贈り物なんだ」


「姉さんは、こんなこと望んでなかったはずだ! 

それに姉さんは、あんたなんかにこんな呪いを託すはずがない!」


「ルーカス、お前が知ってる姉は善良なんだろう。

俺が知ってるセレスは、弱くて、醜くて、求めてばかりの――可哀想な人だったよ」


「……それでも、俺はセレスを丸ごと愛していたがな。」


その言葉は、異様なほど澄んでいた。


「俺がどれだけ人生を投げ出しても。

どれだけ小さな頃から、あいつだけを見ていても。

あいつが最後に選んだのは――俺を拒絶するための“二人の死”だったけどな」


這うようにして、アレクシスを指差す。


「お前が憎いよ、アレクシス。

何ひとつ苦労せず、ただそこにいるだけで、

あいつの心を独占していたお前が」


その瞳が歪む。


「お前がリリエルを愛する? 笑わせるな。

それはセレスへの裏切りだ」


「……セレスティーヌを利用するな」


アレクシスの声が震える。


「利用? 違う。教えてやるのさ」


ビリーは立ち上がる。


「愛する者を愛せない苦痛を。

想えば想うほど、相手が壊れていく絶望を」


狂気が廃教会に満ちる。


「リリエルが死ぬのは、お前たちが彼女を想った報いだ!」


静寂。

剣を握る手が、微かに震える。


「……お前を殺せば済む話だ」


マキシムが一歩、前へ出る。


ビリーは唇の端を吊り上げた。


「殺せよ」


その声はやけに穏やかだった。


「俺を殺しても呪いは解けない。

俺は、どのみちセレスの元に行くつもりだ!

早いか遅いかの違いだ!!」


月明かりが、剣の刃を白く照らす。


アレクシスとルーカスの動きが止まった。


――殺せない。


その事実が、二人の剣を凍らせる。


ビリーの笑いが、低く、ゆっくりと広がった。


「ほらな。お前たちは何も選べない。

愛していると言いながら、守ることも、断ち切ることもできない」


誰も動けない。


祭壇の影が、四人の足元を歪ませる。


そして。


沈黙だけが、廃教会を支配した。


――殺せない。


その現実が、すべてを凍らせていた。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

廃教会のシーンは、月明かりの冷たさと、言葉の熱さがぶつかるように意識しました。

「殺せない」という事実が、誰にとっての救いで、誰にとっての罰になるのか

——次回も見届けてもらえたら嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ