表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『婚約破棄の手紙から始まる、辺境伯との再婚生活』  作者: はる乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/63

第二十八話「偽りの共闘と、忍び寄る不協和音」

王都へと続く街道を、二頭の馬が激しく駆けていた。


先行するアレクシスの表情は、硬く、暗い。

離れていても、胸の奥でリリエルを想うたびに、

彼女が苦しんでいるのではないかという恐怖が彼を支配していた。


自分は彼女を救うために戦いに行くのだと、

必死に情愛を「義務」という氷で塗りつぶそうとしている。


一方、後から合流したマキシムの様子は、どこか違っていた。


「……マキシム、連絡は済んだのか」


アレクシスが馬を並べ、前を見据えたまま問う。


「ああ。完璧にな。早馬を出し、王都の屋敷の連中に“特別な賓客”を迎える準備をさせておいた」


その声は、心なしか弾んでいるようにも聞こえた。


「賓客? ルーカスの保護か?」


その瞬間、わずかな違和感が胸をかすめる。


ルーカスの保護程度で、緊急の早馬を使う必要があるのか。

屋敷への通達にしても、そこまで急を要するだろうか。


思考が、一瞬だけ立ち止まる。


だが――


脳裏に浮かんだのは、蒼白なリリエルの顔だった。


血に染まった唇。

か細い呼吸。


(今は疑っている場合ではない)


呪いを解くことが最優先だ。


その一念が、芽生えかけた疑念を強引に押し流した。


「……まあ、そんなところだ。万全を期しておくに越したことはないだろう?」


マキシムは不敵に笑い、手綱をさばく。


だが彼が王都に出した指示は、ルーカスのためではない。


瀕死のリリエルを、アレクシスの屋敷から自らの屋敷へと運び入れるための、最高の医療スタッフと私兵の配置。

そして、アレクシスの介入を一切許さないための“物理的な障壁”の準備だった。


(……気付いたか?)


横目でアレクシスを窺う。


だが次の瞬間、彼の視線が前へ戻るのを見て、マキシムは内心でほくそ笑んだ。


(いや。お前は今、彼女のことで頭がいっぱいだ)


「マキシム」


不意に、アレクシスが呼び止める。


「なんだ?」


「……なぜ、そんなに清々しい顔をしている。我々はこれから、親友の裏切りを暴き、リリエルの命を懸けた賭けに挑むのだぞ」


鋭い眼光がマキシムを射抜く。


長年の付き合いだ。

アレクシスは、マキシムが本気で危難に立ち向かう時の“研ぎ澄まされた冷徹さ”を知っている。


だが今のマキシムから感じるのは、それとは違う。


何かを奪い取ろうとする、狩人の昂ぶり。


マキシムは一瞬だけ目を細めたが、

すぐにいつもの不遜な笑みで受け流した。


「……わかるか? ようやく、この数週間の苛立ちが解消されると思えば、多少は顔に出るさ」


「そうか。お前の執念には感謝している」


アレクシスは再び前を向いた。


疑念を抱く余裕すら、今の彼にはない。

ただ一刻も早くルーカスに会い、呪いの源を断つこと。


それだけが、リリエルを救う道だと信じている。


(悪いな、アレクシス。……お前が愛ゆえに“離れる”ことを選んだあの瞬間、お前は彼女を俺に譲ったんだ)


マキシムは背後で微笑みを深め、馬の腹を蹴った。


二人の友情という名の薄氷が、目に見えない速さで、

音もなく割れ始めていた。

その亀裂の音に、気付いているのはマキシムだけだった。


偽りの共闘と、忍び寄る不協和音

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ