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『婚約破棄の手紙から始まる、辺境伯との再婚生活』  作者: はる乃


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第二十話「隠された光は、誰のもの?」父ジーク視点

?ジークは、分かっていた。


妻が、壊れていることも。

娘が、怯えていることも。


最初から、何もかも。


ナーシャを娶んだのは、家のためだった。

だが、誓いを交わしたその日から、

彼は「愛そう」と、何度も自分に言い聞かせてきた。


同じ寝台に入り、

同じ食卓を囲み、

同じ時間を積み重ねていけば――

いつか、心も追いつくと。


頭では、そう信じていた。


だが、心は違った。


彼女の期待を孕んだ眼差しは、常に張り付くように向けられ、

他の女性と話そうものなら、感情を露わにして泣きじゃくる。


向けられる愛は、あまりにも重く、

応えようとすればするほど、

自分の心が、静かに冷めていくのが分かった。


そして、娘が生まれた。


金色の髪。

金色の瞳。

光を抱いたような、幼い命。


――天使のようで、いまにも壊れそうで。

荒んだ心を、一瞬で溶かしてしまうほど、愛らしかった。


ナーシャに向けられない愛情を、娘に注げば注ぐほど、

妻の視線は冷たくなる。

娘を褒めれば、声は尖り、

慈しめば慈しむほど、

彼女が追い詰められていくのが、痛いほど分かった。


やがて、跡取りを望む重圧が、

日に日にジーク自身をも、すり減らしていった。


その頃には、ナーシャに触れることすら、嫌悪感を伴うようになっていた。

息子が宿ったと知らされた時、

肩の荷が下りたように、心が軽くなったのを、否定できなかった。


その日以降、

彼女の部屋へ足を運ばなくなった。


頭では、分かっていたのに。

心も、体も、それを拒絶していた。


(……私が、悪いのか)


何度も、自問した。


分かっていた。

自分が、妻を救えないことも。

娘を、守りきれないことも。


だが――

手を伸ばせば、必ず誰かを傷つける。


だから、ジークは選んだ。


無関心という、

最も卑怯で、

最も安全な仮面を。



ある日、書斎に置かれた手紙の束の中に、

見慣れぬ封筒が、紛れ込んでいることに気づいた。


差出人の名を見て、

息が止まる。


(……ミラー)


公爵夫人。

かつて、人生でただ一人、

心から愛した女。


――そして今もなお、

心の奥で、愛し続けている女。


封筒には、彼女の息子の名が記されていた。


――ルーカス。


胸の奥が、軋む。

後悔と、懐かしさと、

許されない安堵が、同時に押し寄せる。


震える手で、封筒を取り、

誰の目にも触れぬよう、静かに隠した。


(この縁だけは……)


他の手紙は、

ナーシャの手によって、破られていく。


だが、これだけは。


ジークは、何も言わず、

何も変えず、

ルーカスとの文通だけは、

ナーシャに気づかれぬよう、巧みに取り計らい続けた。


それが、娘に残せる――

そして、自分自身が救われる、

唯一の光だと、信じて。


卑怯だと、分かっていた。

逃げているとも、知っていた。


それでも。


何もしないよりは、

何も残さないよりは、

まだ、ましだと――

自分に、言い聞かせるしかなかった。

この物語には、

完全な悪も、完全な被害者もいません。


誰もが「正しい」と信じた選択を重ね、

その結果、誰かを傷つけてしまった。


続きが気になる方は、ブクマして貰えると励みになります。

宜しくお願いします!

※この作品には、

家族関係・心理的抑圧の描写が含まれます。


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