↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身代わり王子と身代わり花嫁  作者: 七合美緒
23/24

23 終焉

 事件の三日後。アリーシャは事件の全容を知ったのだ。


 まずはランドールが語り始めた。


「驚いた事に、サガ、あいつが今回の事件に大きく絡んでいたんだよ。王子の殺害に協力する理由は金だ」


 ランドールもこの事実に面食らって絶句していたのである。


 サガは見栄を張って豪奢な生活をしていた。当然、いつも金欠だった。親からお金をせびっても足りない。賭博に興じて逆転を狙ったのだが、負けが続いた為に、取り返しがつかないほどの多額の負債を抱えていたのである。


「王党派の両親がいるにも関わらず、サガは、ラウルと結託している法服貴族のドンスから仲間になるように言われて黒衣の男を雇った」


 サガは、王子を亡き者にして国政を混乱させたならば借金を帳消しにすると言われ、その気になったのだ。


「しかし、一度目はアリーシャのせいで失敗している。そのこともあって、サガはおまえを憎み、水の都で亡き者にしようとした」

 

「そして、俺がアリーシャを助けたという訳だ。間に合って良かったな」


 そう言ってケネスがウインクする。


 そう、運河にアリーシャを突き落したのはサガだったのだ。


 ドンスはラウルから活動資金の援助を受けていた。欲深いラウルにしてみれば、戦争による物資の補給や戦費の融資で儲けることが目的だ。


 誰が王になろうと、どうでもいい。


「なぜ、最初に王都で連れ去ろうとしたの? バルモア島で殺す方が簡単よ。どうせ、お祭り日に来る事は分かっていたのよ」


「母親がいる館で王子が暗殺されたなんてことになったら王妃にどんな目に合わされるか分からないぞ。王都で、王子とは知らずに誘拐されて殺されたというふうにするつもりだった、だけど、失敗して、警備も厳しくなってしまう。だから、バルモア島で心中を装って、アリーシャを悪者にすればいいと考えたらしい。流知恵が働く奴だよ」


 おおまかな設計図を描いたのはラウルとドンスで、サガは末端の指示役という事になる。


「なるほど、納得したわ」


「ドンスとラウルは、サガを操り、自分の手を汚すことなく王子を殺すつもりだった。失敗した時、トカゲの尻尾を切るようにサガに罪を着せればいい」


 王子亡き後、革命軍が立ち上がりドンスが権力を握り、いずれ初代皇帝として君臨する予定だったようである。


 ランドールが皮肉交じりに補足している。


「ムスクス夫人は暗殺計画のことは何も知らなかった。彼女はお洒落と恋愛に情熱を注いでいる。あんなに噂になっていたというのに黒魔術もやっていない。残念だったなぁ~、ケネス。無理して、あの夫人のお相手をしたっていうのになぁ。ラウルの手下は息子の方だったとはな」


「サガは、アリーシャをとことん利用しようとしていたんだな」


 花火の夜、庭園でアリーシャを襲って、聖堂まで運ぶ予定だったようだが、失敗したという訳だ。


「しかし、夫人に取り入ったおかげで屋敷にも滞在できたから無駄じゃない。サガとドンスを繋げる物的証拠も押収することが出来た。しかし、俺達にとっては、これからが正念場だよな」


 早いもので、あれから五日が経過しているのだが、少なくとも、あと二日間は歩くことさえも禁止するように言い渡されている。


 医師の言いつけを守ってケネスは、おとなしく療養しており、尋問や事件の処理はランドールが行なった。ちなみに、トルカはランドールの助手として機敏に働いている。


 あんな事があったのだ。さすがに、ムスクス夫人の館には滞在していない。


 島で最も豪華なホテルで療養していたのだ。


 やっとケネスも散歩してもいいと言われたので、バルモア島を出ることになったのだが、ランドールは報告書の作成に追われている


「旅の道中、書類を書くよ。王に報告することが山ほどある」


「頼んだぞ」


 すると、ランドールが魅力的な表情でケネスの方を振り向いた。


「ハラスは僕の部屋にいるよ。異教徒の僕の彼女ということにし民族衣装を着せている。顔をベールで覆っているから、王子にそっくりでも問題ない」


「さすが、ランドールよね。島で出会った異国の美女を連れで旅をしていると言えば、みんな納得するわ」


 ハラスを女装させて王都に連れて行く作戦だ。あの時、毒を飲んだハラスも、今は自力で歩けるほどに回復している。


 さて、それでは、本物の王子がどうなったのかというと……。


 古城を出た後、この島に戻り、警護の者達と共に一日前にバルモア島を出発している。


 王子は、まさか、自分がアリーシャによって誘拐されたとは少しも思っておらず、花火のよく見える小島に招待してもらったというふうに解釈していたのだが、後にランドールが釈明したのだ。


『王子のお命を狙う者がおりましたので、アリーシャとケネスと僕で、あなたをお守りする為に孤島にお連れしたのですよ』


 今朝、王子はサガたちの策謀によって自分の身代わりの者が殺されそうになったことを知って驚いていたという。


『なぬーーー。余の影武者がいたのか。ぜひとも会いたいぞ』


『申し上げます。気の毒な事に、影武者の少年は毒殺されたのです』


 影武者のハラスは毒を飲み干して死んだことになっていた。


 ランドールは言い含めたという。


『警護の者達は影武者の存在を知りません。王子も、そのことは例え母君にも言わないようにして下さい。そうでないと、いざという時、また影武者を使うことが出来なくなりますからね』


『うむ、心得た。しかし、余の身代わりの者はどんな奴なのじゃ?』


『名もなき市民ですよ』


 今後、ケネス達は王子にハラスの生い立ちを話すことはないだろう。


 ハラスの存在は永遠に秘密にしておかなければならない。


 アリーシャ達は、ホテルの自室で話していたのだが、話し終えるとケネスは肩の傷を診てもらう為に近くの医院に向かった。


 アリーシャとランドールはホテルに戻る。トントン、隣室をノックしてハラスを見に行くと、面紗と呼ばれる異国風のベールを外して恥ずかしそうに笑った。 


「やぁ、三日ぶりだね。アリーシャ……。僕は、これから王都に行くそうだよ。王城の地下牢にでも入れられてしまうのかな?」


 その言葉とは裏腹にその表情はサバサバしている。


「何しろ、僕は王子を誘拐した訳だから罰を受けるんだよね?」


「うーん、そのことだが、なぁ、ハラス、聞いてくれ」


 すっかりハラスと仲良くなっているランドールが言った。


「これは、ケネスと僕からの提案なんだが、ちょっと聞いてくれるか? 君は、国家のために、わざわざ王子の身代わりを引き受けてくれたということにしておこう」


「身代わり……ですか?」


 驚いたように瞬きしていた。ハラスは小さく肩をすくめて苦笑している。


「ええ、そうですね。結果的には身代わりになって殺されそうになりました。しかし、君達も知っているように、僕は少年達をお金で買っている。隙あらば、王子を殺してしまいたいと最初の頃は思っていました。僕は、そういう腹黒い人間なのです」


「うそーーーっ! 殺さないって約束したのに!」


「ごめんね、アリーシャ……。本当は裏切るつもりだった。ランドールさえも亡き者にしようかと思った。でも、僕は王子の身代わりになって気付いたんだよ。あの王子も、いろんな危険や重圧を背負っていることを知ったんだ。実際に王子になってみると何かと息苦しかったよ」


 すべてのことは周囲に決められて自由などない。


 王族といえば、食事の時間も読書の時間も執務もスケジュール通りに管理されており、寝室にもずっと付き人がいる。


 トイレも誰かに付き添われたままの状態で行なうのだが、さすがにハラスも驚いたという。 


「僕と血が繋がっている彼も、僕と同じくらい、いや、それ以上に窮屈な日々を送っていることが分かりました。そしたら、長年の恨みや羨望の気持ちも自然に消えました。あいつは、いつ、誰に毒殺されるか分からないんだ。本当に大変だよね」


 ハラスは、毒入りのワインを飲んだが、それは妊娠している時に母親のイリスが飲まされた毒と同じだった。


 耐性がついていたので助かったようである。


 ランドールが告げた。


「ハラス、君の罪はもちろん消えないよ。だからと言って、投獄され、どこかの古城に幽閉されて人生を終えて、それで一体どうなるというんだ? そんなことをしても誰も喜ばない。罪ほろぼしをしたいなら、国政を維持するために王子の黒子の役に徹したみてはどうかな?」


 ハラスが王の息子だと証明するものがない状態で世間に公表したところで、色々な憶測を生んで混乱を招きかねない。


 だから、こうするのだ。


「王妃には君の事を伝えない。いい影武者を見つけたことにして王様に引き合わせる。君の生い立ちに関しては世間には内緒にするが、王にはすべてを話す。それでいいだろう? 王妃と顔を合わせずに済む。変装すれば自由に市街も歩けるよ」


 ハラスはランドールに向かって宣言していた。


「ええ、喜んで引き受けます。その提案をとても気に入りました」


「そうか! それじゃぁ契約成立だな。王様に会わせる役目はケネスに任せるよ。僕は、あくまでも政治とは無関係の大金持ちの遊び人だからねぇ~」 


 そう言いながら、今後も国家の安寧の為に尽力を尽くすに違いない。


「なぁ、アリーシャ。この後、ケネスのことを頼むぞ。あいつ、かなり無理したせいで痛みが続いている。王都に着いてからも僕がハラスのことを診るから心配するな」


 ということで、みんなで帰ることになったのだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。