第二十一話 「ふれっしゅごーれむ ご」
どぼん、と地下水に入り込んだ足が音を立てて不快なにおいを撒き散らしていた。
現在時刻は夕方、遠距離からゾンビの群れを一掃していると、探索班に情報がもたらされた。
ある場所から特異な魔力が感知されたのだ。
それは紛れもなくこのダンジョンコアの魔力であり、死霊使いが近くに居ることが高い事を示唆していた。
鼻が曲がりそうな、地下下水路でリリーシャ達は魔法使いの先導を受けてゾンビの供給源に移動していた。
地上にある大聖堂への入り口はゾンビの住処になってしまってとてもじゃないが突破できそうに無いからだ。
地下下水道に入り込むと前後して、地上ではマルク・ハーマンが大暴れをしているだろう。
これほど囮に使って頼もしい存在は居ない。
また調査を実行する隊は凄腕がほとんどのベテランぞろいだった。
「ここから5キロと言ったところか、昔は地下大聖堂だったのに今じゃゾンビ生成工場だ」
魔法使いの一人がぼやく。その手には旧式の街の地図を持っていた。
「元々は墓地と繋がっていたそうじゃないか? 敵はそこを利用したんだろ」
概算見積もっても数千体のゾンビか居ると感じて皆が足踏み状態だった。
入れば数千のゾンビの群れに襲われる。勝ち目は薄いが、ほぼ全員の魔法使い達を参戦させた凄腕のパーティーだ。
A級冒険者は確保できなかったが、B、C、級からランクアップまじかの凄腕を参戦させていた。
また彼らを守る戦士たちもベテランが多く、この人数にけんかを売るのはたとえ自分であってもしないと思うほどである。
しかし弱気な人物はどれほど戦力を整えても出来るもので。
「なぁ、マルク教官なら数千の群れも大丈夫じゃないか? だから俺たちは少し様子を見てマルク教官と合流と言うことで……」
いきなり日和やがった。そう他の魔法使いは考え、その言葉を話した魔法使いを非難する。
「俺たちがやらずに誰がやる」
「魔法使いは突っ立って報告する伝令じゃない」
「あたり一面焼け野原にしてくれるわ」
一人私情が入ったがおおむねこんな感じだった。特に火系統魔法に精通するものを集めたため、強気なメンバー構成である。
小さな声は忙殺され、死霊使い討伐の士気が否応にも上がった。
だが士気が上がらない者にもう一人いた。リリーシャである。彼女は後ろを度々気にし頭を掲げていた。
それに気が付いた魔法使いが彼女に聞く。
「どうしたんですか? 後ろを気になされて、何か居るのですか?」
言葉を掛けた魔法使いも見るが、策敵能力の無い彼では何も見つけられなかった。
「いえ、私の気のせいです。ただ後ろに魔の気配があると思ったのですが、直に消えましたし今は感じませんから本当に気のせいでしょう」
違和感を感じていたのは自分だけだということで、とりあえず頭の隅においておく。
魔法使いは、気味悪そうに背後を見ていたが。
「さあ、行きましょう。皆が待っています」
その言葉によって後ろに居た何かは彼らの頭から忘れ去られた。
未だ大聖堂の道の途中なのだ夜が終わる前にさっさと勝負を掛けたい彼らは急ぎ足で道を進んでいく。
・
大聖堂の道を進んでいくと大きな扉が彼らの前に現れた。
盗賊の技能の有る戦士が扉を調べ、魔法使いが【魔法感知】を唱えて何も無い事を確認した。
「おいおい、こんな扉ここにあったのかよ」
「迷宮のボス部屋かよ。明らかにダンジョンコアあんだろこれ!」
「地図では間違いない。ここが大聖堂だ。扉は書いてないが後で追加されたのだろう」
地図を取り出した魔法使いが地図を見ながら何度も確認する。
それをみた他の魔法使いは不安に狩られたように青い顔をしていた。
「俺昔、迷宮に潜ったことあるけどヤバイ雰囲気がそっくりだ」
盾持ちの戦士が青い顔で言う。
「なんのだよ」
「全滅戦」
その言葉を聴き、さっと踵を反しそうになった魔法使いを片手で持ち上げると、リリーシャが笑った。
「敵を全滅させるんですね、わかります」
その笑顔は有無を言わさぬ迫力があった。
・
「開けるぞ」
戦士の数人が共同で扉を開けている。他は奇襲に備えて扉を注意していた。
そこで見たのは、アンデッドウォーリアの軍勢とゾンビとスケルトンが所狭しと存在していた光景だった。
聖堂一杯に存在しているため身動きが取れないのがこっけいだったが、戦力としては絶望的だ。
そして中央にある聖堂の祭壇にはダンジョンコアらしき四角形の宝石が浮かんでいた。
あれがゾンビを生み出す元になっているということは、近くに死霊使いがいるはずだと警戒を最大にする。
「おいっいけるか?」
弓使いに狙撃を頼む。
「当てられはするが壊せるとは思わないでくれよ」
「ヒビでも入ったら儲けモノだぜ」
戦士が豪快に笑う。アンデット系は近寄るか攻撃をしないと敵対行動をとらないためにこんなにのんきに喋ってられるのだ。
弓使いの矢が飛ぶ、それはダンジョンコアに見事ヒットしたが傷一つ出来ることができずに終わった。
しかも最悪なことにこれを攻撃とみなしてゾンビ達が攻撃を開始した。
「マジかよ。多過ぎって話じゃねぇぜ」
戦士がぼやく、他を押しのけてゾンビウォーリアが前進してくる。
皆の心は一つになった、逃げたい、それでもなお諦めないものもいる。
「戦闘を開始します!」
リリーシャだ。さすがに女に一人で行かせるのはばつが悪かったのか周りの人間もついていく。
男と言うのはどうしてか女に格好を付けたい生き物である。
男として女を見捨てるということが出来なかった。
「 盾持ちの戦士隊は前に並びなさい、【ヘイトチャージ】で魔法使いに攻撃させないように!」
「「おう!」」
盾持ちから野太い声が響き渡る。もはやヤケクソである。
いつのまにかリリーシャが指示を出しても文句のひとつも言わない。
「 魔法使い隊は【ファイアーボール】から【ファイアーウォール】を打ち込みなさい、敵を近づけさせないように!」
「「まかせろ!」」
ヤケクソ気味のメンバーたちは大声を出しながら攻勢に出た。
「スキル【メルティスブランド】」
踊る刃を展開させ、リリーシャが剣を縦横無尽に切り込みながらつくっこんで行く。
ゾンビがあたるごとにバラバラになり、そして中央付近になると、背中から抜いた『エスペランサ』に魔力を注いだ。
「スキル【ディバインディングセイバー】」
一振りで稲光と光の乱反射で敵が凄まじい勢いで減っていく。
「すげぇっ! 一騎当千とはこのことかよ!」
戦士の一人が歓声を上げる。
再度踏み込み、爆音を立ててリリーシャが前に出ると、更にゾンビを狩り出した。
首を刎ね、体を両断し、四肢を破壊する、リリーシャの剣技に戦士たちが歓声を上げ続ける。
そのときアンデッドウォーリアの大群が動き始めたが、魔法使いがそれを許すことは無かった。
「リリーシャ殿に当てるなよ!【ファイヤーボール】」
「こちらに来る奴全てを焼き尽くせ!【ファイヤーボール】」
数十人の【ファイヤーボール】を受けたゾンビたちは灰も残さず消滅していく。
「リリーシャ殿に敵を近づけさせるな!【ファイヤーウォール】」
炎の壁がリリーシャを中心に広がっていく。アンデッドウォーリアはあまりの火力で装備ごと灰と化していく。
僅かに前に飛び出してきたアンデッドウォーリアも居たが。
「さっさとくたばれ!」
とばかりに戦士たちに破壊されていく。
もちろん殺到するスケルトンとゾンビ達も炎にやられ弱ったところを前衛の戦士によって潰されていっていた。
「楽勝だ、いける――!」
そう言った、魔法使いの言葉が途中で掻き消える。
不思議に思った、隣の魔法使いが見たのは心臓を抉り出されている仲間の姿だった。
もしよろしければ評価とブックマークをお願いします。
あと感想とかももらえるとうれしいです。
よろしくお願いします。




