第二十話 「ふれっしゅごーれむ よん」
「私の代でこのような事件が起こるとは……なんてついてない」
ウルグスの領主にして伯爵は、その厳つい外見から予想も出来ない泣き言をこぼしていた。
二メートルを越える外見に筋骨隆々の体はほとんど見掛け倒しであり、ネズミを見たといってベットから出てこなかったことも有る。
荒事では役に立たない、が本人と使用人たちの共通見解だった。
「父上、いい加減にしてください。領主ともあろうものがそのような体たらくでは民草に要らぬ不安を掛けます」
すらっとした貴公子のような男が、父親をいさめている。
名はゼノアス・イグニス・ウルグス、列記としたウルグス領の跡取り息子だった。
「なっ何を言うのだ、ゼノアス。歩く死体だぞ、やつら触れると感染するというではないか、私は歩く死体になりたくない!」
金切り声を上げる二メートルの大男の見苦しい様をゼノアスは覚めた目で見ていた。
ついでに使用人もこいつ大丈夫かと言った表情で眺めていたことに領主は何も感じなかった。
「それは都市伝説のようなものですよ。死霊使いが死体に魔法を掛けるのを勘違いしたのがきっかけでしょう。現に感染した死体は一人もいません、仲良く共同墓地に埋葬をしました」
冒険者には決まった住所が無く、スラムもまた同じだ。
彼らは死ぬと共同墓地に入れられ一年に一回神官によって祈りをささげられる。
「既に冒険者の皆さんには討伐隊を組んでもらっております。少々高くつきましたが街を守るため、出し渋りは損でしょう。財務担当も分かってくれました」
そう言うとスーツ姿のロマンスグレーの執事が前に出て説明しまじめた。
「まずゾンビ討伐参戦に金貨5枚。フレッシュゴーレムに金貨100枚、ダンジョンコア破壊に白金貨一枚と金貨30枚です」
「まあ、危険度を考えたらこれでも安いほどだよね」
「仰るとおり。街を拠点にする冒険者だからこそ引き受けたのでしょう。彼らには家を守るという強い意志を持ちますから」
「勝てるのか?」
いきなりの領主の言葉にゼノアスは笑った。
「マルク・ハーマンを動かしたよ。北欧戦線での戦いぶりのすごさ見せてもらおうじゃないか」
「おお、あれは獣王マルク・ハーマン!魔法の効かぬ無敵の戦士よ!無敵の戦士が進むと血の赤が三千と降り注ぐ!獣王の突進を止められるものは無く――」
またもや行き成り声を荒げた父親をゼノアスは覚めた目で見ながら執事に命を飛ばした。
「セバス。父は少々興奮気味だ、お休みなされたほうがよい」
セバスと呼ばれた執事は領主を連れて部屋から退席していった。
「僕の街で死霊使いが暴れている。中央に報告もあるのだしさっさと殺さないとな。
それより何故ここに死霊使いが現れたんだろうか……」
ゼノアスはかつて報告書で見た女を幻視するも首を振った。
「女一人にしては戦力過剰だ。僕も馬鹿だな、そんな想像しか出来ないなんて」
・
「待たせたな、リリーシャ」
鍛冶屋からのグレンから渡された武器は七色に輝くヒヒロイカネ製の武器だった。
リリーシャが普段使っているブロードソードと形状は似ているが想像以上に軽い。
試し切りをさせてもらうと、インパクト時に重量がアップすることが判明してなお安心した。
これなら使っていても大差ない戦い方が出来るだろう。
また、この大陸広しと言えど何処の剣で切れぬものは存在しないことは確実なその武器にリリーシャは歓喜で震えた。
ただそれ以上の物がアイテムボックスに陳列されている事を言ってはいけない。
現地で手に入ることが意味があるのだ。入手元を知られるとやばいレベルの武器など出せるはずも無い。
「このような武器、御作りになるのはさぞ大変でしたでしょう?」
リリーシャの疑問も何のその、鍛冶師グレンの表情は満面の笑みだ。
「なに、金属ってやつはたたけば何とかなる代物よ。今回は溶かすのに苦労したのと、ハンマーを数十個ほどだめにしただけだからな」
その言葉を聴いて「お金はいくらほどでしょうか?」と答えるリリーシャに。
「金はいらねぇ。いい仕事させてもらったからな。こいつで敵を倒しまっくってくれりゃ御の字よ」
「ありがとうございます。この剣大事に使わせてもらいます」
「おう。剣の名前は『エスペランサ』、古代語で『踊る女神』って意味だ、面白いだろ」
グレンのセンスに顔を引きつるが、今は言ってはいけないと思い自重した。
「リリーシャ様!緊急招集です!」
ギルド職員がグレンのボロ小屋に近い、ドアを開いて声を張り上げた。
「あら、ギルドの緊急招集なんて久しぶりね」
リリーシャはのんびり構え、エスペランサ用の鞘を選んでいた。
「いつもだろお前、いい加減文句言ったほうがいいぞ」
鞘と剣の手直しをしているグレンの顔にも呆れ顔が浮かんでいた。
「今度の戦いが終わったから強制ランクアップでもさせてもらうからいいわ」
「いい性格しているよ。お前は」
ギルド職員と出てくる、リリーシャの背中にはブロードソードが担がれ、一瞬で業物とわかるようになっていた。
「敵は?」
リリーシャの言葉に反芻するかのようにギルド職員は答えた。
「ゾンビです、リリーシャ様にはゾンビの殲滅を頼みたいと」
「折角買った剣が汚れるわね」
ギルド職員は笑って「そうですね」としか言わなかった、ランクDならゾンビ退治は相当の苦労がのしのばれるのに。
この人は何時だって飄々としている。元もとの実力が違うんだと納得させて、ギルドに着いて行った。
「失礼します」
ギルドに入ると静けさを伴って視線がリリーシャに交差した。
その視線を無視して、カウンター席で指示していたマルクの前に立つ。
「着たかリリーシャ。お前にはゾンビの掃討をやって貰うつもりだ。何せ奴らは数が多い、A級のパーティーも動いているとはいえ、流石に時間が掛かりすぎる――」
そう言うと、リリーシャの雰囲気が違うことに気が付いた。
「教官。そろそろ私は一人立ちするべきときなんじゃないでしょうか? 私、これでも剣にはいささかながら自信があると考えております。ゾンビ退治などけちな事は言わずフリッシュゴーレムを倒したく存じます」
ギルドの時が止まった。
それは宣戦布告にも似た感覚だった。
「意味が分かっていて言っているのか? リリーシャ」
「教官が私に掛けてくれたご恩を忘れたことはありません。しかしそろそろ教官の手を離れたいと存じます」
一歩間違えば、色恋沙汰の別れ話に聞こえるそれはギルドで受付をしていたマールすらギッよとする内容だった。
「俺は負担か?」
「いえ、自立にございます」
「そうか、分かった。お前は自由に生きろ、ただ何か問題があったら俺に知らせろ」
「ありがとうございます、教官」
リリーシャは笑顔で、礼を言ったが。不覚にもその笑顔にやられる冒険者たちが数人居て、悲しいことに合い方に肘で小突かれている。
「リリーシャ。敵はフレッシュゴーレム。そしてそいつを操る死霊使いだ。特に死霊使いは姿が見えない。だからどんな格好をしているのかは不明だ。しかし、ゾンビの供給源を生み出している関係上、拠点があると推測される。
お前は逆探知を行った魔法使い達の先導で死霊使いを討て」
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