第十九話 「ふれっしゅごーれむ さん」
「リル?!」
吹き飛ばされたリルを、視界に捉えるが直にそれは隠された。
巨大な人影がリルの体を覆い隠していたからだ。
「何者さね?!」
人影は巨大な羽を持と黒い体と赤い目を持ち、貴族服に身を包み口元から牙を生やしていた。
そのギラギラした目がラヴァリエ達を捕らえる。
「目を合わせるな! 悪魔は魔眼で人を操るさね!」
ラヴァリエの言葉に、リルを除く三人は目を悪魔の胸元に反らした。
その言葉に悪魔と呼ばれた男は憤慨したように答えた。
「悪魔とは酷いな。吾輩は由緒正しい吸血鬼であるからして」
吸血鬼、という言葉に討伐対象になっていたなと考える。
ただリルを奇襲した手際から、相当の実力を持っていると思われた。
「リルを殺したさね!」
「まだ生きているからして、吾輩に咎められる理由は無いからして。邪魔だからどかしただけとも言う」
「死んでないし……姉御、酷い」
リルがうめき声を上げて、起き上がる。
ラヴァリエはリルを無視して吸血鬼に剣を突きつける。
「変な奴さ! 戦うのかい?! それとも戦わないのかい?!」
「戦う理由は……居るからして!」
そう言った瞬間、吸血鬼の背後から数本の剣が飛び出してきた。
美しいローブに身を包んだ、その人物は剣を振り回しながら吸血鬼に迫る。
しかし吸血鬼はそれを短剣で受け、余裕で避けると、短剣を突き刺した。
その短剣捌きはラヴァリエの目から見ても見事で、優秀な戦士と言った印象だった。
「ひゃわわわ!」
一人リルは地面を転がるように戦闘を回避した。
「ゴガア!」
ぐらりと体制を崩す人影の顔があらわになり、継ぎ接ぎだらけの顔と窪んだ目が晒された。
「フレッシュゴーレムだって?!」
そのフレッシュゴーレムは怒りに満ちた表情で吸血鬼を見ていた。
それは地獄の苦しみを味わうかのような苦悶の表情で、見ているものを恐怖に貶めるに十分な異形だった。
「馬鹿な?! 二体目のフレッシュゴーレム?!」
ラヴァリエの言葉に吸血鬼は指を振る。
「敵は死霊使いであるからして、フレッシュゴーレムの追加も考えておくべきであるからして」
「そりゃまいったよ、でもあんたを信用したわけじゃないからね」
ラヴァリエの言葉にはまだ警戒感があり、剣先を吸血鬼に向けていた。
ただ心情的には協力してことにあたり、この戦いが終わったら聞くこともいろいろ合った。
「元より信用などされないのが吸血鬼の悲しい性であるからして」
「そんなことどうでもいいじぁねーか! とにかくあいつをやらなきゃ歩く死体がまだ追いかけて来るんだぞ!」
エッダが魔法を唱えようと魔力を高めていく。
「安心されたし、ゾンビは大通りに出れない。あいつらは即席栽培された歩く死体だからして日の光を嫌うからして」
「ああそうかい。だったら夜になったらあふれ出るってことだな!」
エッダの言葉に頷く吸血鬼。
最悪の予想が脳裏をよぎるが今は明確な敵を相手にするのが先だ。
「だったらまずは目の前の敵を倒す! 燃えろ!【ファイヤーボール】」
エッダの【ファイアーボール】が飛ぶ。
十分に強化された魔法は最高威力を持ってフレッシュゴーレムに向かっていった。
【ファイヤーボール】は直撃し、その余波となった爆音と共に熱波がラヴァリエたちを襲う。
しかし直撃を受けたはずのフレッシュゴーレムはまるで魔法が効いてないように無傷だった。
「魔法耐性?!」
「エッダ、下がって歩く死体の相手をしな! こっちはあたしがやるさね! リル、ミッシェル、あんたらもいいね!」
「倒れたのに、扱いが酷い!」
「金貨60枚は確実に手に入れてくださいよー」
パーティーメンバーに後ろのゾンビを相手をさせて自分はフレッシュゴーレムに向き合う。
服装は同じだが、威圧感が違う。意を決して向かおうとすると初手を掛けたのはフレッシュゴーレムのほうだった。
フレッシュゴーレムが飛び掛ってくると、ラヴァリエはスキルを発動させて、フレッシュゴーレムに切りかかる。
「スキル【牡丹】」
スキルによって加速された刀を一回転させ、溜めからの突きを繰り出す。
二度三度の高速の突きの連打を受けるが、しかし大した効果は得られずに、浅く傷口を増やすだけに留まった。
これは決してラヴァリエの能力が低いわけではない、ただ只管相手のフレッシュゴーレムが固いのである。
その体は鋼鉄を超えてはるかオリハルコンクラスに到達している。たとえA級の武器とも言えどもラヴァリエの武器は黒鉄製でしかないのだ。オリハルコンクラスなど伝説の武器に近い、その為通常の武器では突破は出来ない。そう焦りを覚えると、吸血鬼が横に並んだ。
「吾輩も手伝うからして……安心されたし!」
吸血鬼が参戦する、そう言って短剣を振り回しながら、フレッシュゴーレムに立ち向かっていく。
鋼鉄を弾く肉体を持つフレッシュゴーレムに浅くない傷を次々と与えているのは見事と言うほかない。
「正直、助かるさね!」
ラヴァリエも負けず、吸血鬼の傷つけられた傷跡を狙って攻撃を加え始めた。
それに堪らず、フレッシュゴーレムがうめき声を上げて跳躍した。
跳躍した場所はゾンビの中。
逃走を優先させているのか、フレッシュゴーレムの走った後にゾンビが吹き飛ばされるように飛んでいく。
「逃げられたさね? 仕留められなかった?」
凄まじい勢いで逃走するフレッシュゴーレムを眺めながら呟く。
「吾輩、ある中に突っ込むのは勘弁してもらいたいからして。撤退を推奨するからして」
確かにゾンビの真っ只中を逃走するフレッシュゴーレムを追いかけたいとは思わないだろう。
「ちっ、エッダ、リル、ミッシェル。撤退さね!」
「姉御ー赤字ー」
ミッシェルが口をアヒルのように尖らせて抗議してくるが。
ラヴァリエは取り合わず、今日の夜に起こる惨劇に頭を痛めていた。
「煩いさね、今日は夜から大規模討伐が組まれるからそれで稼ぐさね!」
話の途中で吸血鬼が去ろうとすると、ラヴァリエはあせったように彼を引き止めた。
「ちょっと待ちなよ! なんであたし達に味方したんだい、アンタ何者なんさね」
「吾輩、名を名乗れず、それにいつか分かるからして、心配する必要は無いとも言う」
そう言うと、掻き消えるように吸血鬼の姿は居なくなってしまった。
「なんだったさね。あれは?」
人間に味方する吸血鬼など聴いたことが無いラヴァリエは頭をひねりながら後ろのパーティーメンバーを見た。
彼女達は遠巻きにゾンビを日の光に誘導している。
吸血鬼の言ったとおり、路地裏の日が当たる場所に出ると、とたんにゾンビたちが騒ぎ出して逃げ出していく。
「二流の死霊使いが作ったような代物だね。一流は日の光にあたっても動くもんさね」
いや、とも思う。これだけの数をそろえるために無理やり数を増やしたのではないのかとも。
「とにかく報告さね。皆下がるよ!」
その後、スラムの入り口は封鎖され、死霊使い、吸血鬼が敵対関係であることも報告された。
ただその目的は不明。直にウルグスの領主に報告され街は厳戒態勢を引くことになる。




