第48話 俺たちは反乱軍に作られた
灰色の義手は外され、別の卓へ封をして置かれた。
外した時刻、個体番号、出力を遮断したこと、封印の番号、受け取った者。書記が一つずつ記し、ガイルにも読み聞かせる。残った左手は背へ回させず、布を巻いた拘束具で身体の前へ留めた。右の装着部にも肩にも負担がかからない位置を、セシルが確かめている。
ガイルは、右前腕を失った腕を膝の上へ置き、監査院の証言の席に着いた。
ノエラが、彼の前で順に読み上げた。証言を拒めること。話した内容が、ガイル自身の罪を調べる資料にもなり得ること。記録を読み返し、誤りを直せること。代理人や立会人を求めてよいこと。途中で中止を申し出られること。
ガイルは一つずつ聞き終えてから、うなずいた。
「聞いた。話す。俺の意思で」
彼は、国の話より先に、自分の罪から話した。
「輸送隊を襲った。あの指揮は、俺が執った」
護送員を危険へさらし、荷を奪った。ダリオを本人の同意なく連れ去り、縛り、義手を止める技術を出せと迫った。技師を返す条件として、未完成の技を要求した。灰旗団を率いた。
「俺が選んで、やったことだ」
ヴァルドや部下へ、すべてを押しつけなかった。同時に、自分が命じていない記録院への放火まで、引き受けもしなかった。職員を救い、命令書を渡し、逃げずに投降したことで、先の罪が消えるとも言わなかった。
「消えねえよ、そんなもんで」
ノエラは、その供述だけで陰謀を認めなかった。証言は証言、書面は書面として分け、三つの流れを、出所の異なる記録で照らし合わせていった。
一つ目は、恩給停止だった。
同じ位置に欠けのある印章。同じ週へ集中した却下日。一字一句、同じ却下理由。退役兵本人の同意を得て預かった通知と証言。記録院から救い出した恩給処理原簿。そして、ガイルが火から運び、触れた経路ごと記録された内部命令書。
内部命令書には、「戦闘能力を欠くため」という定型文と、処理する期間が指定されていた。その期間と原簿の処理番号が、手元の却下通知の日付と番号へ重なる。確かめられた通知については、担当者一人の偶然な判断ではなく、内部の方針に沿ってまとめて支給対象から外したと判断できた。ただし、すべての恩給却下が同じ命令によるとは、書かなかった。
二つ目は、物資の横流しだった。
封の切られていない箱が、出発時点ですでに不足していたこと。廃棄済みと記された灰色義手の現物。軍需倉庫の出庫票。横流し先から適法に押収した受領証。ハーゲン事件で保全した複写帳簿。継火工房が正規に買った払い下げ部品に残る、倉庫の検品印。
包帯、義肢、共通規格部品。ロット番号と数量を重ねると、退役兵へ渡ったことになっている同じ品が、別の受領先へ流れていた。ハーゲンの管理下で横流しが行われたことは、記録と現物で結ばれた。だが、ハーゲン一人の独断とも、大臣が一件ずつ指示したとも、まだ言えなかった。
三つ目は、扇動者への支払いだった。
記録院で拘束された襲撃者の所持品を、王都警備隊が正式に検分した。所持していた位置、採取時刻、採取した者、立会人、封印番号。その中に、支払い票と受領札があった。
支払い票にある現地協力費の符号、日付、金額を、放棄工場で押収した帳面と、復興省から提出された現地協力費の支出記録へ重ねた。三つで、同じ符号、同じ日、同じ額が一致した。受領者名は書かれていなかったが、受領札の印は放棄工場の帳面にある受取印と同じだった。さらに、その票を持っていた者が記録院襲撃で復興省警備用の合図を使った時刻も、警備隊の記録に残っている。
未知の暗号を、全部解いたことにはしなかった。確かめられたのは、記録院を襲った者の一人が、復興省の現地協力費と同じ処理符号を持つ支払いを受けていたことまでだった。
エッダが三つの流れを、日付の順へ並べた。
恩給を止める。退役兵向けの物資を不足させる。その後に、現地協力費が支払われる。輸送隊と記録院が襲われ、その事件が治安報告へ載る。最後に、「治安悪化後、非常再動員案を提出せよ」という指示が続く。
並べると、仕組みは単純だった。退役兵を困窮させる。金を受け取った者が、その怒りを暴力へ向ける。起きた襲撃を治安危機として記録し、非常再動員の根拠へ変える。少なくとも、確かめた事件と書面は、そういう制度上の連鎖を作っていた。
けれど、困窮させられたことと、自分で襲うと決めたことは、同じではない。退役兵全員が操られたのでも、選ぶ力を失ったのでもなかった。
書面は、一枚の露骨な命令にはなっていなかった。恩給審査、物資処理、現地協力費、治安報告、工房の暫定管理、非常再動員案。別の部署、別の担当、別の文書へ、ばらばらに分かれている。大臣の署名がある紙にも、「反乱させろ」とも「盗め」とも書かれていない。
ノエラは、各書面の末尾にある決裁番号と、次に送られた部署を読み上げさせた。下位の処理票から集計票へ、集計票から大臣官房の事業枠へ。経路の違う書面が、復興大臣の権限下、または大臣決裁へ上がる系統へ収束していた。それは確かだった。グレゴールが個々の犯罪を直接命じたか、すべての書面を読んだかは、まだ分からない。
ガイルが顔を上げた。
「俺たちは、反乱軍にされるよう追い込まれた」
長く押し込めていたものを、吐き出すような声だった。だが、彼はそこで止まらなかった。
「だが、輸送隊を襲うと決めたのは俺だ。ダリオを攫ったのも、俺が選んだ。追い込まれたことは、俺がやったことの言い訳にはならねえ」
利用された被害と、自分で選んだ加害を、両方、自分の口で認めた。国の責任を暴くことを、自分を赦す道具にはしなかった。
レオルは、証言を遮らなかった。即座に許しもせず、代わりに罰を求めもしない。被害者全員の代表にも、判決の代弁者にもならなかった。
ただ一度、事実を尋ねた。
「現地協力を名乗る者が、お前たちへ最初に接触したのは、輸送隊を襲う前か」
「前だ。恩給の却下が届いて、物資が減ったあとだ」
その答えも、支払い票の日付と並べて記録された。ミレーネも、「仕方なかった」とは言わなかった。被害と加害の両方が語られた。その事実を受け取った。
ノエラは、確保した資料を根拠に、監査院の緊急監査条項を使った。復興省へ、非常再動員準備を自発的に猶予するよう勧告する。同時に、審査部へ、準備執行の仮停止を申請した。永久の無効判定でも、有罪の宣告でもない。審査までの停止を求める手続だった。
グレゴールは、正式な書面で勧告の受諾を拒み、仮停止申請にも反対意見を出した。
国境輸送隊への襲撃。王都記録院への襲撃。公的記録への攻撃。現に続く治安上の危険。証拠はまだ調査の途中であり、国防の準備を止めれば職務の放棄になる。非常措置は、現行法の権限内にある。
怒りも、報復の言葉もなかった。だからこそ、簡単には退けられなかった。彼が記録院襲撃を命じたことも、命令術式の認証権者であることも、まだ確定していない。仮停止の判断が出るまで、準備は止まらなかった。
その日の夕刻、新たな記録が届いた。
国家支給義肢の使用者へ、「安全整備のため、王都へ集合せよ」という通知が、すでに発行され、各地へ送られている。発行簿の通数。配送所の受渡し控え。整備広場からの到着人数の報告。別々の記録が、同じ通知と人の動きを指していた。
通知には、不参加の場合、今後の恩給確認と保守適格審査で事情を確認する、とあった。明確な罰とは書いていない。だが、恩給と修理を必要とする者にとって、自由に断れる文ではなかった。
王都の整備広場には、もう、多くの国家支給義肢の使用者が集まり始めている。
まだ、義手も義足も動いてはいない。非常令も発せられていない。
ミレーネは、発行簿に記された人数を見た。それから、暮れかけた窓の外へ目を向けた。広場の方角に、整備を待つ灯りが、いくつも集まっていた。




