11-2 悠星視点 もう誤魔化せない距離
電車を降りたあと。
ホームを出て、いつもの通学路を二人で並んで歩く。
(……あー、まだ感覚が残ってやがる)
さっきまでの満員電車の中での、あの背中越しの距離感が、離れた今でも肌にまとわりついている気がして落ち着かない。
鈴木は隣を歩きながら、何か言いたそうに口を小さく動かしているけれど、結局言葉が出てこないみたいだった。二人の間に、いつもとは違う少し重い沈黙が流れる。
(……今日、静かだな、鈴木。いつもならもっと喋るのに)
いつも通りを装って前を向いて歩きながら、ふと、横目で鈴木の様子を伺う。顔色が悪そうってわけじゃない。でも、明らかに元気がなくて、何か悩んでいるように見える。
(まさか、どこか具合でも悪いんじゃ……)
だんだん心配になってきて、俺は少しだけ間を置いて声をかけた。
「……鈴木」
鈴木が顔を上げる。
「え、なに?」
俺は前を向いたまま、ぶっきらぼうだけど、少しトーンを落として言う。
「今日、静かじゃないか」
鈴木の足が一瞬止まる。
「そう?」
とりあえず返ってきたものの、その声が少し上ずっている。
(おい、やっぱり絶対なんかあるだろこれ)
俺はもう一度、横目でしっかりアイツの様子を見た。
「なんかあったか」
体調が悪いのか、それとも何か嫌なことでもあったのか。まっすぐ聞くのは照れくさいけれど、アイツの異変を放っておけなくて、気にしているのが丸分かりな言い方になってしまう。
鈴木は視線を泳がせながら、少しだけ迷っているようだった。
でも――
「……なんかさ」
小さく声を出す。
「桧山くんといると、ちょっと変で」
一拍。
「うまく話せなくなった」
(――――ッ!?!?)
言った瞬間、鈴木自身が自分で固まっている。
だけど、固まったのは俺の方も同じだった。頭が真っ白になると同時に、心臓が爆発しそうな勢いで跳ね上がる。
(うまく話せなくなった、って……それって、どういう意味だよ……!? 俺と同じで意識しすぎて喋れないって、期待しちまっていいのか……!?)
さっきまでの純粋な心配はどこかへ吹き飛び、胸の奥がめちゃくちゃに掻き乱される。
鈴木は視線を落としたまま、気まずそうに早口で言った。
「ごめん、忘れて」
(……忘れるわけねぇだろ、そんなの)
「忘れて」なんて言われても、もう無理だった。
コイツも俺を意識してくれてるかもしれない。その可能性に気づいた瞬間、胸の奥からぶわっと嬉しさが込み上げてきて、鉄壁だったはずのポーカーフェイスが完全に決壊する。
抑えきれない感情のまま、気づけば言葉が口から溢れていた。
「……俺も」
鈴木が弾かれたように顔を上げる。
「前から、意識してる」
あ。と言った瞬間に思った。
嬉しさのあまり勢いで口走ってしまったけれど、今のじゃ全然足りない。ボソッと呟くみたいになってしまって、これじゃ中途半端で独り言みたいだ。
会話は途切れ、また二人で歩き出す。だけどさっきまでの気まずい沈黙じゃない。お互いの意識が痛いくらいに交差する、熱い沈黙だ。
そうしているうちに、視界の先に校門が見えてくる。
(……ダメだ。さっきのじゃ、俺の気持ちがちゃんと伝わってねぇ。学校に入る前に、男としてケジメをつけなきゃ)
中途半端なまま終わらせたくなくて、俺はふと足を止めた。
振り返る。
「鈴木」
まっすぐアイツを見る。さっきの弱気な言葉を上書きするように、一番伝えたかった言葉を口にする。
「ちゃんと言う」
一拍。
「好きだ」




