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10-2 悠星視点 変わらないふりをしている朝

(あー、気まずい。気まずすぎる……!)

次の日の朝。いつもの車両で、鈴木と顔を合わせた。

いつもなら軽く一言くらいは交わすのに、今朝は二人の間に妙な、じっとりとした間がある。

(昨日の今日だぞ……あんな密着事故のあとで、どの面下げて話しかけりゃいいんだよ……!)

脳内で激しい自己嫌悪の嵐が吹き荒れていると、鈴木が先に小さく口を開いた。

「……おはよう」

(ッ……!)

「……おはよう」

俺も慌てて返した。それだけ。会話はまったく続かない。

あの一件があったからか、鈴木はいつもより少しだけ距離を置いている気がする。近づきすぎないように、カバンを律儀に胸の前に抱えて、ほんの少し身を引いている……ように見えた。

(だよな……やっぱり意識するよな。嫌がられて当然だ……。でも!)

俺は、いつも通り鈴木の前に立った。何も言わず、いつもと同じ、彼女の「壁」になる位置。

(ここで俺まで気まずそうに離れたら、男として終わりだろ。アイツをあの混雑に放り出すなんて、絶対にできねぇからな)

ガタコン、と電車が揺れ、いつものように乗客の波が押し寄せてくる。

でも、止まる。俺が体幹をフルに活かして全部せき止めているから、俺の背中の後ろだけは、ちゃんと安全なスペースが保たれているはずだ。

(……怒ってない、よな? 避けられてるわけじゃないよな……?)

背中側からは何も声は聞こえない。鈴木が今どんな顔をしているのか、何を考えているのか、前を向いている俺には1ミリも分からない。だからこそ、余計に背中側の気配に全神経が集中して、胸の奥がずっとざわざわと落ち着かない。

また電車が大きく揺れる。人の波にさらに強く押されて、二人の距離が強制的に詰まった。

(――っ!?)

鈴木が、ほんの少しだけ身体の力を抜いた気配がした。

背中に伝わる重みが、昨日までと少し違う。

気のせいかもしれない。

でも――。

(……嫌われて、ないのか?)

背中から伝わってくる確かな感覚が、脳裏に焼き付いて離れない。

やがて電車を降りた。

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