10-1 りこ視点 いつもと同じ朝なのに
次の日の朝。
電車で顔を合わせる。
いつもなら軽く一言くらい交わすのに、今日は少しだけ間があった。
「……おはよう」
りこが先に声をかける。
「……おはよう」
返事は返ってきたけれど、それだけだった。
会話は続かない。
昨日のことを思い出してしまって、どうしても少しだけ意識してしまう。
電車が動き出す。
りこはカバンを前に抱えながら、小さく息を吐いた。
(気まずい……)
そう思っているのは、自分だけなのかもしれない。
だけど――
悠星はいつも通りだった。
何も言わず、いつもの位置に立つ。
りこの前。
混雑から守るような場所。
電車が揺れる。
後ろから人の圧力がかかる。
けれど、その圧力は途中で止まる。
いつもと同じように。
悠星の背中があるから。
りこはそっと視線を上げた。
見慣れた制服の背中。
昨日のことなんてなかったみたいに、変わらずそこにいる。
(……なんでだろ)
避けられていない。
距離を取られてもいない。
それが少しだけ嬉しかった。
また電車が揺れる。
りこはほんの少しだけ力を抜いた。
背中に体重を預けるほどではない。
でも、前ほど身構えなくなっている自分に気づく。
(……安心する)
その感覚だけが、胸の奥に静かに残った。
電車を降りたあとも、二人は並んで学校へ向かう。
会話は少ない。
だけど、不思議と嫌な沈黙じゃなかった。
歩きながら、りこはふと思う。
(……好きなのかもしれない)
胸の奥で形になり始めた気持ちに、ようやく名前がついた気がした。




