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8-1 りこ視点 ありがと
朝の電車。
いつもの位置。
気づけば今日も、悠星が前にいる。
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りこはカバンを前に抱えながら、その背中を見る。
(今日もだ)
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言葉にしたことはない。
でも最近は、なんとなく分かる。
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自分が守られているような気がすること。
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電車が揺れる。
少し強めの揺れだった。
人の流れが一瞬だけ押し寄せる。
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思わず身構える。
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けれど――
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前に押し出されることはなかった。
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視線を上げる。
目の前には悠星の背中。
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(……大丈夫)
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不思議とそう思えた。
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前みたいに慌てない。
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悠星は何も言わない。
ただ、ほんの少しだけ足の位置を動かしたように見えた。
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りこはその動きを見つめる。
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(こういうとこなんだよな)
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特別なことを言うわけじゃない。
目立つことをするわけでもない。
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でも、
そういう何気ないところに目が向いてしまう。
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電車が次の駅に近づく。
少し人が減る。
二人の間にも、ほんの少しだけ余裕ができた。
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りこは小さく声を出した。
「……ありがと」
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悠星は振り向かない。
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「別に」
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短い返事。
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それだけなのに、
なぜか少しだけ優しく聞こえた。
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りこは何も言わない。
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でも――
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(この人、やっぱり優しい)
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そんな気持ちは、
前よりずっとはっきりしていた。




