7-2 悠星視点 たまたま、か
(ふぅ、今日もなんとか耐えきった……)
いつものように鈴木を背中でガードしきり、学校の最寄り駅で下車。そこからはいつも通り、なんとなくつかず離れずの距離を保ったまま登校し、教室に入った。
自分の席に座ってカバンを机にかけ、一息ついた時のことだ。
少し離れた鈴木の席のまわりに女子グループが集まり、何やらキャッチャカ雑談を始めた。ぼんやりそっちを眺めるでもなく眺めていると、一人の女子がふいに鈴木に問いかけた。
「ねえ、最近さ、桧山くんと一緒に来てない?」
(――ッぶ!?)
心臓がドンッと跳ねた。机の下で思いきり足がビクついて、危うく机をガタッと鳴らすところだった。ポーカーフェイス、ポーカーフェイスだ俺。必死に教科書を出すフリをして、聞き耳を立てる。
鈴木も一瞬だけ、ぱちくりと目を瞬かせて驚いているみたいだ。
「え?」
「付き合ってるの?」
(ブッフォ……!!!)
おいおいおい、女子の直球ストレート恐ろしすぎるだろ!
付き合ってる!? 誰が!? 俺と鈴木が!?
一気に顔が熱くなるのが分かった。心臓のバクバクが耳の奥まで響いてくる。頼むから周りの奴らにこの動揺がバレませんように、と祈るような気持ちで鈴木の口から出る言葉を待った。
ほんの少しの間。
鈴木は戸惑うような素振りも見せず、ふわりと軽く微笑んで答えた。
「ううん、付き合ってないよ。たまたま電車がよく一緒になるんだよね」
「へえ、そうなんだ」
女子たちの会話はそれだけであっさりと終わり、次の話題へ移っていった。
(……だよな。たまたま、か)
鈴木の「付き合ってないよ」という即答に、ホッとしたような、でも胸の奥がチクリと痛むような、なんとも言えない感情が広がっていく。
そりゃそうだ、あいつからすれば、ただ毎朝同じドアから乗ってきて、なんとなく前に立っているだけの同級生。付き合っているなんて話になるわけがない。
(……つーか、俺が勝手に同じドアで待ち伏せして、勝手に前に立ってるだけだしな……)
完全に俺の一方通行な独り相撲。鈴木にとってはただの「偶然」なんだ。
そう自分に言い聞かせながら、悠星は小さくため息をついた。
ふと顔を上げると、窓際の席に座る鈴木が、どこか考え込むように外を見ていた。
何を考えているのかは分からない。
分からないけれど――
なぜか、その横顔が少しだけ気になった。




