表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/42

挑戦

 ノアはジーク、フィンの兵四千騎を率いて北上し、ワンドマリガ軍と対峙した。遠くから矢を射かけ、少しずつ敵を削る。しかしワンドマリガ軍の主兵力はファランクスという密集陣形を組む重装歩兵だ。時代遅れの陣形ではあるが魔術で底上げされた防御力は高く、遠距離からの攻撃ではあまり効果がない。

「流石に硬いな」

「ああ。正面から崩すのは無理だろうな」

 前回戦った時は狭く入り組んだ道や城塞内部が主戦場だったためファランクスが猛威を奮うことはなかったが今回は違う。

 ファランクスに手間取っているうちに一万騎ほどの貴族重装騎兵がノアたちに襲い掛かる。

「よし逃げるぞー」

 ノアは退却の命令を出し、兵を退かせた。兵は命令によく従い、ノアを追って逃げ出した。

 重装騎兵たちはノアたちを追って走り出す。作戦の総司令官はノイアフォード兵の強さを知っていたから追撃禁止令を出していたが、重装騎兵たちは貴族やその子弟で構成されている。上官であっても自らの家より家格が低い将軍の命令には従わず、軽装騎兵であるノイアフォード兵など簡単に叩き潰せると踏んで命令違反を犯して追撃する。最初は偽りの退却を疑っていた貴族騎兵たちも退却が続き、ノイアフォードが見えてくると警戒を解き、最高速度で攻撃に出た。しかし彼らの進撃は終わる。

「今だ‼ 総員、突撃だ‼」

 近くの丘の陰に隠れていたランジャ率いる三千騎が雄叫びをあげてワンドマリガ騎兵の側面に突撃した。ノア隊も反転して攻撃する。重装騎兵は突撃力や防御力に優れているが機動力に劣る。ランジャ隊の側面攻撃を受けて有効な対処ができなかった。

「ぶっ飛ばせ‼」

「オオ‼」

 二方向から攻撃を受けたワンドマリガ軍は大打撃を受けた。フィンもジークも非常に攻撃的な用兵をする。一瞬で敵の防御を貫き、司令官の元まで辿り着いた。

「貴様がワンドマリガの将か!」

 司令官デーノンは剣を抜いてフィンに斬りかかる。フィンはその剣を受け止める。両者は十度ほど剣を交えた。

「今すぐ貴様とノイアフォードの小僧を殺してその頭蓋で盃を作ってやる!」

「やってみろ」

 フィンの雷光の如き一撃を相手に叩き込んだ。デーノンの剣が右腕ごと地面に落ちた。デーノンの全身に激痛が走る。だが残った左腕で短剣を抜いた。瞬間、彼の首が宙を舞った。右腕と首を失った胴体はそれでもなお挑発的にゆらゆらと体を揺らしていたが馬が動いたことによってバランスを崩し、転落した。

 司令官を失ったワンドマリガ騎兵は敗走し、歩兵との合流を目指した。

「追え! 一人も逃がすなよ」

 追撃令を出し、背を向けて逃げるワンドマリガ軍を追った。士気が高まったノアたちの勢いは凄まじく、ワンドマリガ兵は次々と倒れていった。彼らが歩兵と合流する頃には六割以上のワンドマリガ兵が犠牲となった。

騎兵を蹴散らして歩兵の前に躍り出たノアたちはそのまま直進する。しかし激突はしない。ワンドマリガのファランクス陣形の恐ろしさは圧倒的な防御力と彼らが用いる七メートルほどの長い槍を並べて突進してくることだ。まともにぶつかればノイアフォード兵でも苦戦する。槍の範囲内に入らないようにしながら矢や魔術を叩き込む。ノアは雷を降らせた。降り注ぐ赤い雷を受けてファランクスは大打撃を受けた。

「つ、疲れた…」

「はしゃぎすぎだよ!」

 馬から転落しそうになるノアをユミルが引きずりあげる。やはり終極の赤の力を使うととても疲れる。最初に使ったときに比べると体力の消費は大幅に減ったが、それでも長時間の使用はまだできそうにない。

 その時、歩兵の左側からミラが八千騎の騎兵を率いてファランクスの横側を突撃した。ファランクスは正面からの戦いでは敵なしではあるが、重装歩兵が密集して前に動くため、動きが鈍く、側面からの攻撃に弱い。平原での奇襲だったため、ミラの奇襲はある程度近づいた時点で気づかれていたが、方向転換が間に合わず、手痛い一撃を食らってしまった。普通はこういうことがないようにファランクスの弱点である側面を守るように騎兵が配置されているのだが先ほど壊滅してしまった。任務より己の欲望を優先して命令違反するような貴族騎兵に歩兵であるファランクスを守らせるという軍構造は現実的ではないと言わざるを得ない。ワンドマリガ軍はミラの容赦ない猛攻に崩れつつあった。

「押し込め! 敵はまだ怯んでいるぞ!」

 先頭で槍を振るいながらミラは叫ぶ。彼女の軍略は優れている。だが、武勇もまた一級品だった。ラミナスには及ぶべくもないが一般兵では彼女を止めることはできない。そもそも彼女は不死族だ。彼女が望まない限り、どれだけ強い兵士でも彼女を殺すことはできないのである。

 ワンドマリガ軍の注意は接敵している前方と左側に向いた。予備兵を左側に移動させた瞬間を戦乙女の女王は逃さなかった。

「行くぞ。今こそワルキューレの武勇を世界に響かせる時! 雷光より速く駆け全ての敵を討て!」

突如として森の中から三万の騎兵が飛び出してきてワンドマリガ軍の無防備だった右側に襲い掛かった。彼女たちの突撃は重く、ワンドマリガ軍の陣形を一気に突き崩す。まるで濁流のように敵を飲み込んだ。彼女たちの機動力や攻撃力は優れていた。しかしそれだけではない。強靭な肉体を持ち、多少攻撃を受けても怯まず前進する。

 三万もの奇襲を想定していなかったワンドマリガ軍は瞬く間に崩れ去った。陣形を放棄して北へ逃げる。もうファランクスの脅威は存在しない。あとはそれを追うだけだ。ノアの号令で追撃戦が始まった。いや、追撃というよりは狩りに近い。我先に逃げるワンドマリガ兵の背を貫く。騎馬民族のラントフォード兵は逃げる歩兵にあっという間に追いつける。

 こうしてノイアフォードは侵略者たちを追い返すことに成功した。この戦いはノイアフォード会戦と呼ばれ、国内外の歴史に長く刻まれることとなった。

 国境を越える頃には六割の兵が戦死した。しかし、ノイアフォード兵の追撃は終わらなかった。逃げるワンドマリガ兵を追ってワンドマリガ王国に侵入し、国境付近の城をいくつか包囲した。迎撃すべく出てきた軍はすぐに撃滅され、そのまま城を奪われる。その他の城に関しては増援を待った。

「待たせたな! 小さき盟友‼」

 現れたのはゴウディ率いる巨人族の軍勢。その数七十人。他の巨人兵は指揮官たちに率いられて他の城を落としに行った。

「おー! 来てくれたかー!」

「もちろん。いやぁ、本当は最初から参戦するつもりだったが千年元帥に断られてな…。ノイアフォードだけで敵を倒さねばならぬ、とな。だが…ここから先は好きに暴れてよいのだろう?」

 ゴウディは笑った。

「ああ! 行こう!」

 巨人族の攻撃が始まった。巨大なメイスを振るって城壁を打つ。城壁は揺れ、兵士たちは転落する。もちろん弓矢を放ったが、その程度で巨人は倒せない。城門は軋み、歪み、削れ、抉れた。

「それ、もう一発だ!」

 城門は突破され、城内にノイアフォード兵が雪崩れ込む。城兵を一気に討伐し、中心部を制圧する。城の中も騎馬で器用に走り回るノイアフォード兵の技量はさすがというしかなかった。城はすぐに落ち、ノイアフォードの旗が翻った。その要領でノイアフォード・サンドーン連合軍はワンドマリガ王国東部の城や砦を次々に占領した。ノアは略奪や暴力を禁止した。これを破った者は死罪に処すると定めた。略奪をするならこれまで自分たちを苦しめてきた者たちとなんら変わらない。兵士たちも文句を言わず、それに従った。

 一方、ロクラスの軍はライジスに攻め込んでいた。ノイアフォードのように反撃して攻めたのではない。一万五千の兵を率い、先制攻撃を仕掛けたのである。まさか逆に攻めてくると思わなかったライジス軍は夜襲を受けて総司令官を失って潰走を強いられた。勢いに乗ったロクラス軍は南部の城をいくつも落とし、占拠した。

「がはははははは! 大した事ないのう! ライジス王国軍!」

「ええ、その通りです。一応、我らもライジス軍ですが!」

 副官のマイヨが答える。彼女は三千人の精鋭部隊を率いる部隊長だ。ロクラス軍にはノイアフォード軍以上に優秀な指揮官が多かった。常日頃から戦っているラントフォード軍では無能は指揮官になれないのである。無能な指揮官は部下ごとすぐに戦死する。歴戦の猛者たちがひしめくラントフォード軍に盗賊退治しかしたことがないライジス軍が勝てるはずがないのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ