出陣
ミラたち文武官の仕事は山積みだった。今回、三万もの兵士が入ったので軍制についても考えなければならない。また、ロクラスやノアがライジス本国より反乱軍と認識され、ライジスとワンドマリガ両国から攻められることになる。
「ライジス本国は儂の軍が潰す。だからお前はワンドマリガを潰せ!」
伝球による通信でロクラスが言った。声に闘志が漲っている。
「え、潰すの?」
「軍を潰したところで何になる。やるなら徹底的に叩け! 根元まで潰せ。中途半端が一番駄目じゃ! わかったか!」
「わかった。じゃ、よろしく」
ロクラスは麾下の武将フィンと配下の三千名の兵をノイアフォードに送った。今日をもってノイアフォード軍に編入される。
「本日より若の麾下に加わります。引き連れてきた将兵共々存分にこき使ってください」
フィンは狼のように鋭い顔つきの青年だった。体は細身で背は高く、引き締まっている。卓越した槍の技術を持つ戦士である。突撃や攪乱に長けた武将で、これまで魔王軍との戦いで幾たびも活躍していた。
これで兵士は充分揃った。ノイアフォード軍一万五千名とワルキューレ軍三万。計四万五千。予想されるワンドマリガ軍は約五万五千。これなら勝負になる。しかもワンドマリガはワルキューレがノアの配下に降ったことを知らない。武器や医薬品、食糧の補給路も整えてある。兵士たちは戦意を高めている。
ミラは勝利を確信した。少数で多数を相手にするのは愚策であり、彼女の好む所ではなかったがないものは仕方ない。魔王軍に備えて南部戦線に配置している軍を動かすわけにはいかないのだ。それに一万の数の差を補って余りあるほどの「個の才覚」がノイアフォードに集っている。
二週間後、ワンドマリガ軍五万六千が国境を越えてラントフォードに侵入した。時期を同じくしてライジス軍七万も王都から南下してラントフォード領を目指した。
ノイアフォードには四万五千の兵とそれを率いる諸将、ミラ、ランジャ、ファーレン、ジーク、フィン、フィリア、ウェルハン、セレイラ、セーネが立つ。頼りになる武将たちだ。そして彼らを統べるのは領主ノア。
偵察兵が本陣にワンドマリガ軍の位置と規模を詳細に報告する。必要な情報は全て揃った。兵士たちは緊張を身に纏いながら出陣の号令を待っていた。
「出陣の号令を。演説のようなものを兵士たちは期待しているかもしれませんね。我が君」
ミラが言った。
「やだよ。演説とかしたことない」
ノアは首を横に振った。
「まあまあ。格式ばったものは必要ございませんし我が君には期待しておりません。緊張している兵たちの背を軽く押す程度でよいのです」
若き領主は苦い顔をした。それでも自分の我儘についてきてもらうのだ。嫌だなどと言っている場合ではない。伝球を各部隊に繋ぎ、自らに付き従う四万五千の騎兵たちに向かって叫ぶ。
「これはノイアフォード最初の戦争だ。他の誰でもない俺たちの戦いだ。難しいことは考えなくていい。俺もあんまりよくわかってねえ」
気の抜けた声が各兵士たちに届く。緊張していた兵士たちは馬鹿らしくなってつい笑みを零してしまう。
剣を咥えた不死鳥の旗が揺れる。それこそ自由を求めて戦う者たちの旗印。兵士たちの勇気を燃やす。
「敵は俺たちより大軍だ。でも心配すんな。お前らには俺がいる。俺にはお前らがいる。だから頑張ろうぜ。出陣だ!」
「オオ!」
兵士たちは武器や拳を突き上げて叫んだ。恐れるものは何もなかった。どうせ勝っても負けてもいつか死ぬのだ。であれば死ぬその時まで走り続けていよう。そういう者たちだからこそノイアフォードに集ったのである。
ノアらはノイアフォードを出立する。住民らは総出で彼らを見送った。
「領主様! ワンドマリガの奴らを蹴散らしてください!」
「ご武運を!」
住民たちの声に戦士たちは背を押され、戦場へと向かう。
戦いの火蓋が切って落とされる。この日、世界の歴史が大きく変化する。




