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新たな盟友

 突然、謁見の間に一人の兵士が駆けこんできた。兵士は焦り、息を切らしていた。王の前に跪き、報告する。

「きゅ、急報! アウレル王国とティンニバル王国が国境を破り、侵入してきました! イスティニ城とンメンナ城を攻撃中とのこと!」

 王の間に激震が走る。王は驚愕しながらも同様することなく兵士の肩に手を置いて尋ねた。

「数は?」

「およそ…六万です…!」

 王の反応は速かった。

「すぐに出撃する! 王都を空にしても構わん! 急ぎ兵を集めよ! ロクソラニ城やペンネ城、イバナ城、ミテラ城からも兵を招集しろ!」

「「ハッ‼」」

 家臣たちも迅速に動いた。さすがは戦闘民族。文官たちまで鬼気迫る表情で走り回り、仕事をしている。ノアたちは王都で待つように言われた。だがそれで黙っているノアではない。ベレボス王の肩を掴んで言った。

「俺たちも戦う!」

「何を言っている! お前たちは恩人で客人だ! 無関係な国を守るために戦わせられん!」

 ベレボスは彼らのことをかなり気に入っているようで戦いに加わることを拒んだ。それでもノアは引き下がらない。

「関係ある! ワナンナの国だ!」

「‼」

 ノアたちは城の外に出てベレボスたちと共に出撃した。兵士を連れてきてよかった。草原の騎兵たちはノアのわがままに応え、歓声を上げて走り出す。

「全く…ノア様といると退屈せずに済みますね…。そこも好きですよ」

 ユナが微笑みながら言う。ウィクトリア兵はノアのために命を懸けることを迷わない。付き合いが短い仲間の国を守るために戦うのにも異論はない。それはノアが損得勘定を抜きにして仲間の為に戦うからだ。彼らの中にはノアに救われた者が多い。そこから生まれる忠義といつか自分が危機に陥った時、彼は迷わず助けてくれるとノアが思わせるからだ。だから彼らはノアの戦いで命を捨てることを厭わない。一時間ほど走り、アウレル王国軍四万が攻めるイスティニ城を視界に捉えた。城兵は約五千人。救援部隊は今のところノアたちを含めて三千人。準備が整い次第まだ増えるという。

「先陣は俺たちがやる!」

 ノアたちはベレボス隊の前に出た。弓矢を構え、一斉に放つ。放物線を描いて飛んだ矢は城を攻めているアウレル軍の後方に降り注いだ。警戒していなかった兵士たちは倒れていく。背後からの奇襲に気付き、振り返った時にはもうウィクトリア兵がすぐそこにまで迫っていた。先頭を走るノアが終極の赤を振り上げる。放たれた赤い雷光が戦場を駆け抜け、アウレル兵を焼き殺す。剣を振るうたびに雷が轟き、兵士たちを沈めていく。剣や槍とは違い、盾を構えていたとしても防ぐ手立てはない。

「ば、化け物だ!」

 アウレル兵たちは雷を纏い、操るノアと彼が率いる無敵の軍勢に恐れをなして恐慌状態に陥った。だが敵将は違った。乱戦を解いて距離をとるように命じ、離れたところから矢の雨を降らせた。しかし彼らはウィクトリア兵の強さを侮っていた。ウィクトリア兵の戦闘服には上位の矢避けの魔術がかけられている。雨あられと降り注ぐ矢をものともせず、前進する。そうして乱れたアウレル軍にシタリ軍が突撃する。王に率いられたシタリ軍の士気は高く、数的不利な状況であっても多くの敵兵を葬った。シタリ軍の戦い方はラントフォード軍と似ていた。まずは弓騎兵が遠距離から矢を降らせて敵の陣形を崩し、そこに突撃する。敵が対応してきたら全速力で離脱する。細部に違いはあるものの高度で洗練されていた。これならばラントフォードに来てもやっていけるだろう。

「よし、退け退けー!」

 アウレル軍が陣形を立て直しかけているのを察知してベレボスは兵を離脱させた。ノアたちもそれに倣い、退却する。追いかけてくるかと思ったが、ノアの雷やウィクトリア兵の強さに恐れをなしたようで追いかけてこなかった。

「よっしもっかい行くか!」

 ノアはラミナスを伴って再び突撃した。飛んでくる矢を雷で撃ち落とし、電撃をアウレル兵に浴びせる。敵が多少強くても雷が直撃すれば即死だ。轟音が駆け抜けるたびに兵士の断末魔が上がる。

「いけー!」

 空から赤い雷が幾条も落ちた。それは兵士を吹き飛ばし、直撃せずとも側撃雷によって気を失って倒れる。容赦のない攻撃に兵士たちは逃げ出した。未知の能力にアウレル軍の将校も打つ手がなかった。城の包囲を解き、南の平原に退却し、様子を見ることにした。それを見届けたノアはシャディーンの背中から落ちそうになった。

「ノア様⁉」

 ラミナスが慌ててノアを抱えた。彼は寝息を立てて眠っていた。その時の誰も知らなかったが、終極の赤は凄まじい力を持った剣だが、その分、使用者の体力を大量に消費してしまうのだ。

「仕方ありませんね」

 ラミナスはノアを後ろに乗せ、帯で縛り付けた。

 やがて二千騎の援軍が到着し、城兵も加え、一万の大軍となったベレボス軍は南に陣を敷き直したアウレル軍三万三千名と対峙する。シタリ軍は三倍以上の兵力のアウレル軍を警戒し、アウレル軍は卓越した騎兵戦術とウィクトリア隊、ノアの雷を警戒し、動かなかった。半日ほど睨みあっていた両軍だが、先に動き出したのはアウレル軍だった。先ほどまで積極的に突撃してきたノアが来なくなったたことから、ノアの能力には制限があることに気付いたようだ。力で押せば倒せると判断し、陣形を組んで前進した。その分だけシタリ軍は下がった。騎兵と歩兵がいるアウレル軍は騎兵ばかりのシタリ軍より行軍速度が遅く、なかなか追いつけない。しびれを切らしたアウレル軍司令部は全騎兵一万二千騎に最高速度でシタリ軍を追わせた。それを見たベレボス王はにやりと笑った。

 撤退を続けたシタリ軍は小さな森の傍を通った。

「追えー!」

 アウレル軍は依然としてシタリ軍を追う。

「将軍! あそこに森があります!」

「あるな。だがそれがなんだ?」

 先頭で追撃を指示するメデス将軍は部下の言葉に短く返した。

「総司令が仰ったことをお忘れですか? 伏兵が潜んでいる可能性がある場所は通過するなと!」

 将軍は部下の諫言を鼻で笑い飛ばした。

「敵は蛮族だ。雷だけを頼りに我が軍に近づいてきたのだ。その雷がおらぬことを我が軍は気付き、攻撃を仕掛けている。奴らは無計画に逃げているだけよ。策などありはせん!」

 そう言い放ち、追撃を続ける。だが森の横を通過したその時、彼は自身の間違いを認めざるを得なくなった。突如森から無数の矢が飛び出し、兵士たちに突き刺さる。森から出てきたのは二千名の歩兵たち。彼らは雄叫びをあげて混乱状態に陥ったアウレル軍に襲いかかった。その機をベレボス王は逃さなかった。全軍に反転を命じ、猛攻を仕掛けたのだ。王自身も大剣を振るって敵を屠る。アウレルの騎兵部隊は一瞬にして瓦解し、一目散に敗走した。シタリ軍はそれを追い、メデスの首をとった。後続の歩兵部隊の矢の射程範囲内に入る前に追撃を止め、引き揚げた。この一戦でアウレル軍は騎兵の八割を失う結果となった。シタリ軍にとっては凄まじい戦果であった。

 一方その頃、王子カンメル率いる一万名の軍が東方のティニンニバル王国軍の侵攻を食い止めているという知らせが入った。カンメルは戦いを優勢に進め、もう少しでティニンニバル軍を追い返すことができそうだという。

「この戦い、勝ったな」

 ベレボス王は葉巻を蒸して言った。

「主力だったアウレル軍にはこの軍を倒し、城を落とす力はもうない。騎兵は壊滅し、残った者もいつ雷が落っこちてくるかわかったものでもないから不安であろう」

 ノアはまだいびきをかいて寝ている。

 彼の言う通り、アウレル軍の作戦本部はこれ以上の侵攻は不可能と判断して追撃を警戒しながら国境を越えて戻って行った。時を同じくしてティニンニバル軍も退却していった。アウレル軍の撤退時の陣形は堅固で、追撃すれば痛手を受ける。ティニンニバル軍の退却は一見して総崩れだった。しかしそれは見せかけであった。カンメルは追撃を禁止したがそれを無視した中隊が追撃し、突如反転したティンニバル軍に包囲されて全滅した。

 何にせよ戦いは終わった。王都に戻った時にはすでに深夜だった。兵は戦勝を祝して控えめな宴会を開いた。

 翌日の昼、ノアは目を覚ました。そして食事を要求し、いつもの倍以上の料理を腹に収めた。

「ふー、食った食った! いやー、あの剣使うとめっちゃ疲れるな」

「急に寝たからびっくりしたぜ」

 デザートの林檎をノアから奪い取ってロイトが齧る。

 ノアたちは再び王の間に呼び出された。昨日の謁見の続きだという。今度はベレボス王はすでに玉座に座っていた。

「よく来てくれた。お前たちには世話になってばかりだ」

「いいよ。気にすんな」

 ノアは笑った。行軍ばかりの部下たちのいい息抜きになっただろう。

「そういやなんで人類同盟に入んねーんだ?」

 特に意味はないが尋ねる。世界人類同盟に加盟していれば大っぴらに攻められることはなくなる。現在進行形で攻められそうになっているノイアフォードや実際に攻められたメレモロ城のことは抜きにしても今より安全は保障されるはずだ。

「いやー、アウレルと関わりのある一族を傘下に入れたらアウレルが加盟に反対するようになってなー」

「追い出せばいいじゃん」

 懐から取り出したオレンジを頬張る。

「関わりがあるといってもドン引きするくらい搾取されてただけだ。それに向こうから傘下に入りたいと言ってきた。助けを求めてきた奴を助けん訳にもいかんだろ?」

「まーなー」

 ノイアフォードには世界中から圧政に耐えかねて逃げてきた民がいるが彼らを見捨てるようなことはしない。

「俺、国を作るんだ。ノイアフォードに。国ができたら同盟組もう!」

「ほう?」

 ベレボス王は身を乗り出した。

「美味いもんとか交換したりよ、他の国に攻められたら互いに助け合おう!」

「ははははは! いいな、それ! 気に入った!」

 王の上機嫌な笑い声が響いた。

「その話乗ったぞ。同郷の誼からじゃない。お前だから乗るんだ! ワナンナ、お前、俺の代理としてノイアフォードでノアを支えろ!」

「え、いいんですか?」

 ワナンナは目を輝かせた。彼は彼でノイアフォードを気に入っていたようである。たった一か月ほどしかいなかったが彼なりに楽しんでいたらしい。

「ああ。寂しくはあるが…しばらく見ない間にお前、逞しくなったじゃないか。良い出会いだったんだろう?」

 ワナンナは力強く頷いた。


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