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9・ゾンビ映画のお約束

日が昇り、沈み、また昇り始めた頃。

ようやく…ようやく全てのゾンビのアレを抜き取り終わった。

部屋にはアレを抜き取って倒れているゾンビの姿が死屍累々と広がり畳が見えない程だ。

ゾンビの姿が未成年の少女にしか見えないから犯罪現場としか見えない。

鼻が慣れてしまったのか、ゾンビの体液も気にならなくなってしまった。

なんだか俺自身が汚れてしまった気分だ。


変人は暇つぶしと言わんばかりにスマホで遊んでいた。

なんだか…なぁ。


大半は起き上がってどこかに消えていったが数が数だけに部屋の畳を隠すには十分のゾンビがまだ居る。

気付けばゾンビに襲われていた男も残っておらず、全てゾンビと変わったのだろう。


「凄いぞ、兄弟!

 これだけの純度の高い心の結晶が!

 全てのエロゾンビから取れたんだぞ!

 世界が違うとは言え、だ!

 あぁ、楽しみだ、楽しみだ!」


早く家に帰って風呂に入って寝たい。

心身ともに疲れた俺はそれだけを考えていたが変人は違うらしい。

天井近くまで積み上がったアレの山の周りを興奮気味に飛び跳ねていた。


色といい、形といい…どう見ても何かの内臓の山にしか見えない。

そんなスプラッタな山の周りを嬉しそうに飛び跳ねる髪の塊は誰が見ても怪しげな儀式を行う妖怪の類にしか見えない。


ゾンビが暴走すると聞いていなかったら、こんな面倒な作業をしなかっただろう。

日本の危機は去った。

後は行きに乗ったトラックで帰るだけだ。


「さぁ、兄弟!

 疲れただろう!

 この心の結晶を食べて英気を養え!」


「…は?」


変人はアレの一つを掴むと俺に食えと迫って来た。

いや、それは食える物じゃないだろう。

元男とはいえ、少女の子宮に入っていた物を食えと?

しかもヤクザの精神が固まったものだろう。

腹を壊す以前の話だ。

俺の増強素材と言っていたが食うとは聞いてない。

魔法の類でどうにかできないのか。


「兄弟、これを全て食えば魔力の貯蓄限界が大幅に改善されるのだ!

 さらにさらに、魔法の範囲もぐんと拡がる!

 これほどの純度なら日本の北から南まですっぽり余裕で魔法が届くようになるだろう!

 魔力が増えればより強力な魔法が使えるし、全国行脚をしなくともアズマノイワの名を広げられる!

 良いこと尽くしだ!」


今のままで十分だろう。

女性限定とはいえ、怪我や病気を治せるのだ。

これ以上、魔法が強力になっても手に余ると思うのだが。


何より、この量を食べきるのは無理だ。

俺は図体はデカいが少食なんだ。

それこそ、変人の方が俺の倍以上に食う。

小柄な割によく食うのだ。


「それにだな。

 このまま心の結晶を放置すれば…

 実態の無い怪物が誕生するぞ?

 魔法以外で倒す手立ての無い怪物さ!

 この数なら…国を滅ぼすレベルになる!

 にしし、タスケテ」


「…はぁ」


なんでそんな危険なモノを造ってんだ、この変人は。

助けてじゃないんだよ。

ゾンビ本体を放置すれば男が消えて、ゾンビのアレを放置すれば別の怪物が誕生するなんて最初に説明するべきだろ。

絶対に今後は俺が納得するまで説明してもらう。

そして何としてもヤバいモノには反対しよう。

…常に問題がないか考えないといけないとなると今から億劫になる。


俺は渋々、心の結晶とやらを一つ掴む。

臭いはないが、見た目や手触りから食欲を湧かせる要素がない。

さらに子宮から取り出したという事実と汚い畳に直置きされていた事が嫌悪感をマシマシにする。


とはいえ、放置して怪物が誕生しては今までの苦労が水の泡。

決死の覚悟で口に運ぶ。


…本当に口の中に入ったか?

手に有った感触が突如として消えた。

落とした訳ではない。

噛じろうとしたが何かを噛んだ感覚もない。

ただ、歯と歯が当たる音しか聞こえなかった。

試しに口に近づけてみるが、口を閉じていると消えず、口を開けるとさっきと同じように消えた。


「兄弟、それは物質化してるが魔力!

 決まった動作さえすれば魔力はカタチを失って取り込まれるのさ!

 そう、空気を食べると思って頑張れ!」


これなら…まぁ、いけるか?

汚い物が口の中に入る訳ではなさそうなので、口を開けたまま、両手でアレを口の近くへ持っていく。

…なんて間抜けな光景なのだろう。

汚物を食べる事に比べたらマシなのだろうが。


「兄弟!

 食べながら聞いてくれ!

 この赤羅組をエロゾンビを使って調べた!

 人身売買を主力にしてたらしく捕まった女が結構な数、居たぜ!

 色々と加工されているが俺達の魔法でどうにでもなる範囲だ!

 にしし、信者獲得のチャンスだ!」


「そうか」


加工という言葉や魔法が必要な事に引っかかりを覚えたが助けられたなら良い事だ。

変人が急かさないという事は命に関わる重症ではないと信じているぞ。


信者にするのはともかく、困っている人には手を差し伸べるべきである。

…性欲に支配されたゾンビをどう使ったのか不安に思うが無視しよう。


「それと一体だけエロゾンビが暴走しててな」


「は?」


思わずゾンビのアレを食べるのを止めて変人の方を見る。

変人はスマホでとあるニュースを見せてきた。


「刑務所の集団脱走?」


「赤羅組に逮捕者が居たらしくてな。

 刑務所が制御魔法の範囲外に有ってだな。

 刑務所に突撃したエロゾンビが暴走した!」


…パンデミック発生してんじゃねぇか!?

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