8・感染する贄
「おい」
「どうした、兄弟!」
増えた異国の少女の一人をベタベタと触っていた変人に声をかけると、すぐに顔をこちらに向けて反応した。
手だけは少女の下腹部を執拗に撫で回しているが…この際、そこには目を瞑り俺は変人に尋ねた。
「それは…なんだ?」
それとはもちろん、異国の少女の姿をしたナニカである。
元は男であるはずなのだが、こうも他の男に対して欲情しきった行動は姿以外にも認識を歪められているのは間違いない。
最初の一人からどうやって増えたのだろうか。
まさか高速妊娠、高速出産、高速成長ができてしまうモンスターでも造りだしたか?
あんな性欲に支配されたかのような乱交ぶりと変人の魔法という存在を知っている分、恐ろしい想像をしてしまう。
それでは早々に日本の人口の大半が目の前の少女達になってしまうぞ。
せめてこの数を制御できているかだけでも確認しなくては。
「おぉ!
もしや兄弟もようやく気になったのか!?
よし、俺が造った魔物を色々と説明しよう!
…と、言いたいが!
仮にもここは敵地だぜ、兄弟。
詳細は省くし、やる事はやってもらうぞ!」
「分かった」
変人の話に一利あった。
男が集団で少女に襲われていようがここはヤクザの屋敷だ。
いくら男の手足があり得ない方向に折れ曲がり、肌は紫のまだら模様に、全員が赤い泡を吹いて気絶していようが、だ。
いつ、鉄砲や短刀を片手に隠れていたヤクザが特攻してきて反撃してくるかもしれん。
話は安全な場所に移動してからゆっくり聞くとしよう。
「さぁ、兄弟!
時間が惜しいから座れ!」
変人は早速と言わんばかりに叫ぶとそこに座れと色々な体液で汚れている畳に指をさす。
俺は顔を顰めて入ってきた障子の方を確認するがちょうど新たに入ってきた少女達が気絶した男を引きずってどんどん入ってきて待ちきれないとばかりに男に襲いかかっていた。
仕方なく比較的に綺麗な場所を探して座ると変人は足元まで伸びた長い髪が色々な体液で汚れる事も厭わずに嬉しそうに飛び跳ねてやってきた。
「さて、兄弟!
まずはやるべき事だ!
当初の目的通りヤクザにトドメを刺そう!」
いちいちポーズをとってその場で躍動する変人。
近くに居た男の足を舐めていた少女の一人を無理矢理に立たせると俺の方に突き飛ばしてきた。
ベチャッという音と共に目の前に倒れた少女はまるで虫のような動きで俺の方へと高速でにじり寄ってくる。
思わず立ち上がろうとしたが突然、少女はバネ仕掛けの玩具のように飛び上がり正面から抱き着かれてしまった。
そのままよじ登って顔に近付いてきたから手で押さえた。
少女の動きは止まったが、掌をベロベロと舐めだして気持ち悪い。
全身に纏った様々な体液で生臭さも酷い。
「おい、これを止めろ」
「まず、こいつらの名は…エロゾンビ!
ホラー映画によく出るゾンビだぞ、兄弟!」
変人は俺の言葉に耳を貸さずに話を続ける。
俺はため息を吐いて我慢する事にした。
それにしてもゾンビか。
確かに先ほどの動きは理性ある人とは思えないが…エロってなんだ。
そこらで淫行に励む姿を見れば納得しかないが、なんでエロにしたんだ。
「エロゾンビには色々な能力があるが…
今回は同一化の呪いについて話そう!
発動条件はエロゾンビの体液に触れる事!
触れた箇所からジワジワと相手を変質!
最後には新たなエロゾンビの誕生さ!
あぁ、安心してくれ兄弟!
女性と兄弟には呪いは効かないぜ!」
…それは男がいる限り増え続けるという事か?
男を襲うしか頭になさそうなコレが?
俺の上半身によじ登って手をベロベロと舐めている元男が?
…俺が想像していたタイプよりも悪質で最悪のモンスターじゃねぇか?
しかもこれでまだ説明してない部分もあるんだろうから頭が痛くなる。
「さて、ここからが大事だぜ!
呪いの進行で元の精神が邪魔になるから隔離して物質化させてる。
これが兄弟の増強素材に最適なんだぜ!」
「…うぅん?」
「それは子宮に入ってるぞ!
まずは下腹部に手を置いて押し込む!
さぁ、兄弟!
仕事の時間だ!」
「待て待て」
話が理解できないぞ。
「この部屋だけで百体以上!
俺の感覚だと千体近くまで増えてるから!
時間勝負だぜ、兄弟!」
いつの間にか近寄ってきた変人がゾンビを俺からずり降ろし、畳に寝かせ俺の手を掴みゾンビの下腹部に押し当てる。
少し抵抗があったが、泥に沈むようにゾンビの身体の中へ俺の大きな手が入っていく。
ゾンビは獣のような甲高い鳴き声をあげ、ビクンビクンと全身が痙攣しだした。
その顔は涙、鼻水、涎…まるで脳が溶けて体液として排出されていく様な酷いものだった。
手にナニカが当たった。
とても柔らかく弾力のあるナニカ。
「手に触れたか?
それを取ってくれ、兄弟!」
俺は変人に言われるがまま、それを握りゾンビの身体から手を引き上げる。
一際、ゾンビが大きく叫ぶと全身を脱力させて静かになった。
股辺りから液体を撒き散らしているが無視しよう。
手の中には明太子のような赤くて長い内臓のような物が有った。
ゾンビから引き抜いた事と手に伝わる感触からとても気持ちが悪い。
「いいぞ、兄弟!
その調子だ!
残り数百体も頑張ろうぜ!
このままだと暴走するからな!」
確かにこれは時間がかかるなと納得していたら変人が不吉な言葉を堂々と言いやがった。
「…暴走?」
「それは物質化した精神。
すなわち魔力だ!
このままだと兄弟を通してエロゾンビを制御する為の魔法に抵抗力を持つ!
そうなればエロゾンビは手当たり次第に男を襲い始めるぞ!
年中には日本から男が居なくなるだろう。
俺はそれでも良いんだが…」
ふざけんな、変人のバカ!
犯罪者を全滅させる為に国を滅ぼして良い訳がないだろう!
俺は近くに居たゾンビを引っ張り、腹に手を突っ込んだ。
乱暴な動きになるが元犯罪者を気遣う余裕は無い。
今日は徹夜をしてでもこの作業を終わらせねば日本が終わる。




