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6・新たな拠点

今日は市民体育館に行かなくて良いらしい。

軽トラに乗せられて数十分、ある建物へと連れて来られた。

もちろん、俺は荷台に座っている。

普通車だと座席を倒しても入りきれないからな。

日光と風が気持ちいい。


運転手は見知らぬ女性だった。

俺が着ている物と同じオレンジ色の生地にアズマノイワという白い文字が書かれた服を着てる時点で嫌な予感しかしないが聞かなければ俺が認知する事は無い。

俺はアズマノイワの信者なんて何も知らない。


「さぁ、新天地に着いたぜ!

 兄弟も降りて来いよ!」


「…どこだ?」


到着地は|人気〈ひとけ〉の無い団地だった。

とはいえ、寂れた団地というよりも建てられて間もない真新しい団地というべき場所だ。


「ここはアズマノイワの新たな拠点となる場所さ!

 信者からの贈り物だぜ!」


それはこの団地の一部屋だけだよな?

この団地まるまるなのか?

高校生に贈るプレゼントにしては度が過ぎてないか?

変人が魔法で相手を洗脳でもして奪ったのだろうか?

それとも魔法の対価として取引でもしたのか。


俺が宗教関連の犯罪から足を洗う方法を考えていると変人は迷わず団地の奥へと進んでいく。

入口で立ちっぱなしになる訳にもいかず、変人の追っていくと広場にサイズ感がおかしい小屋が建てられていた。


俺が屈まなくても入れる玄関。

俺が屈まなくても良い天井。

風呂もトイレもベッドもデカい。

何もかもが俺が使っても不便の無い大きさだった。

寝室の壁の一つが全て窓になっていること疑問はあるが、俺にはとても魅力的だ。


「どうだい、兄弟!

 良い部屋だろう!」


「あぁ」


これには素直に感動した。

自宅でも身を縮めて暮らしていたからこんなに伸び伸びと過ごせる部屋に憧れていた。

信者からの贈り物でなければ、どれだけ嬉しかった事だろう。


「気に入ったようだな、兄弟!

 今日から住むから良かったぜ!」


「は?」


俺がこの小屋に住む?

何を言っているのだ、この変人は。

いや、住みたくないとは言っていないが。

つまりは俺はここで一人暮らしをするって話か?


「おいおい、兄弟。

 拠点って言っただろ?

 今日から俺達はここに住むのさ!」


「…お前もか?」


「当たり前だろう?」


同棲かぁ。

こいつ、よく家に泊まり込んで来るから慣れてはいるが、うるさいからなぁ。

前は妄言だと断じて聞き流して無視していた内容だったが、これからは注意して聞かないといけなくなると考えると億劫になる。


「兄弟の母親には事前に伝えていたぜ!

 快くGOサインを出してくれたぞ!」


「…そうか」


俺、家から追い出されてないか?

母親は変人をどこか信頼してる節があるから納得はするが。

どうせ、俺が変人の面倒を見てあげろって事だろう。

俺は変人の保護者じゃないのだが。


「入居者は信者に限定するけど兄弟は希望はあるか?」


「希望?」


俺が聞き返すと変人はニヤニヤと笑い、手をワキワキとさせていた。


「にっしし、そりゃあ…ね。

 ここは兄弟のハーレム団地になるからな!

 可愛い系から綺麗系、ロリに未亡人と色々なタイプを揃えてみせる!

 いやぁ、今から楽しみだ!」


俺は大きくため息を吐いた。

それはお前の願望だろうが変態。

とはいえ、相手は魔法が使える変態だ。

面倒だが変態の暴挙は俺が止めるしかないか。


「あまりバカなマネはやめろよ」


まぁ、無理そうだが。

俺が言ったところで止まるような奴ではないと理解している。


「さて、今日のメインがまだ残ってるぞ!

 着てくれ、兄弟!」


まるで遊園地ではしゃぐ幼児のように小屋から飛び出す変人。

またもやため息を吐いて渋々と変人の後を追う。


団地プレゼントやハーレム団地とかでいっぱいいっぱいなのだが。


「来たか、兄弟!」


「おい、これって…」


変人を追いかけて入った部屋には何人ものガラの悪そうな男達が寝転がっていた。

声こそは出ていないが口をパクパクと開き、必死の形相でこちらを睨んでくる。


あきらかに変人の魔法を使われて倒れている人達だった。

しかし、俺の記憶が確かならば男には魔法が使えなかったのではないか?

いや、使いたくない、だったか?

どちらにしろ変人単独でも魔法が使えるようになったのだろうか。


「病院や兄弟の家族に罠を張っててな!

 兄弟の妹を攫おうとしてたから捕まえたぞ!

 今から魔法で記憶を読むから手を貸せ!」


「よし、やれ」


思考する前に言葉が出ていた。

人の家族を攫おうとする奴がどんな目にあおうが俺には止める理由がない。


変人は俺の手を掴むと近くの男の額に触れ、ブツブツと呪文を唱えていく。


「…おぉ兄弟、こいつはヤクザの下っ端だぜ!

 詳しく知らないみたいだが、十中八九、目当ては兄弟だろうな。

 魔法で弄って手駒にしよう!」


「任せた」


俺が応えると食い気味に変人は呪文を唱え始めた。

男からゴキリと硬いモノが砕ける音やジュブジュブと液体が動くような音が聞こえてくる。

もし男が声が出せていれば絶叫が部屋に響いていたかもしれない。

それほど男は苦悶に満ちた表情だった。

他の男も怯えた様子だが犯罪者に慈悲は無い。


「にっしし、ちょうど兵士が欲しかったんだ!

 前世で適任の奴を知ってるからな!

 これで俺の世界征服はまた一歩進むぞ!」


変人は興奮気味に叫ぶ。

変人は魔法が存在する世界のモンスターを作り出そうとしてるようだ。

俺は変化していく男がどんな姿になるか気になって目が離せなかった。

やがて、男の体はどんどん縮み…幼い異国の娘へと変わり果てた。


髪は黄金の糸のような長髪に。

顔は異国の美人が約束された綺麗さに。

瞳は宝石のような鮮やかな緑に。

細い手足に、少し膨らみのある胸に。

肌は少々不健康そうな青白い色に。


姿が縮みながら変わっていく。

人体に害のありそうな効果音が見た目とのギャップがひどい。

そしてガラの悪そうな男は俺達よりも年下な綺麗な女の子になった。


変人はその様子をニタニタと嗤いながら鼻血をボタボタと出していた。


…こいつ、最後に自分の欲を優先したな?

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