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メリルの歩み(メリル視点)

誤字報告ありがとうございました。

 ジョルジュ卿とアイリス様の婚姻が本来の予定よりかなり早くなったのは、アイリス様の希望によるところが大きかったという。

 ヘンダーソン伯爵がベッドから起き上がり、どうにか日常生活を送るまでに回復した病状も要因の一つだろう。

 そして何事もなく無事に式を終え、二人は夫婦となった。


 婚姻を早めた理由に、もしかしたらアイリス様の中で予感があったのかもしれないと私は想像している。

 後々、噂の火種が起きたとしても、すぐに消せるように。


 婚姻の儀に一人で参列したカークス様は、どんな想いで二人を見つめていたのだろうか。

 隣にいるはずの私がいないカークス様を、二人はどんな風に見ていたのだろうか。


 文の中にアイリス様への想いや感情は何も伝わって来ないが、少なくともカークス様との間に確かな形があったのは感じる。

 だから触れようとしていない、そんな風に思えるのだ。



 ☆ ☆ ☆



 私がここに来てしばらく後、カークス様が訪れた時の事。

 初めてかもしれない、お互いの気持ちを打ち明けたのは。


『帰りをお待ちしていると申しましたのに、私はそれが出来ませんでした』


『俺が君を待っていたいのだよ』


『私の体調が優れないのはおわかりでしょう?』


『俺の婚約者は君以外にいない。 この先もずっと』


『カークス様の幸せを第一に考えて頂きたいですわ』


『同じ事を君にそのまま言うよ』


『私とカークス様の間に絆を築く事は出来るのでしょうか?』


『ずっと当たり前だと思っていた。 メリルがいつも側にいて、いつか夫婦として生きて行く存在なのだと』


『私もです。 幼い頃に互いの生き方を決められて、それを疑った事は一度もなくて。 ところが寄宿学校でダビデとミアの強い意志を見た時、私はとても羨ましく憧れました。 そしてもしかすると、カークス様もアイリス様とそんな生き方をしたいと思っているのではないか、と。 そう思ったら私に出来ないのがとても悔しくて悲しかったのです』


『ダビデと結ばれないのが悲しいのではなかったのだね』


『私はカークス様以外をお慕いした事はございません。 恋を知らなかった私が勘違いしたとしても、自分の立場は自覚しております。 だからこそ二人の結婚が嬉しかったし、喜んだのです』


『メリル、俺は本当の事を言うと妬んでいたのだよ。 君をそんな風に強く感じさせるダビデという存在が。 そんな時だった、君とは正反対のアイリスに惹かれたのは』


『カークス様は私を誤解してらっしゃるわ』


『そうだね。 うん、そうだったね。 俺はアイリスを通してメリルを見ていたのだろう』


『今もそうなのですか?』


『俺はずっとメリルに恋していた。 同時に、今まで与えられた環境の中で何も疑問に感じる事なく生きて来た。 だからメリルが婚約者なのもメリルとは違うアイリスの魅力についても考えなかった。 ようやくメリルへの想いに気付いたのは、君が俺の側からいなくなってしまってからだ』


『私はもう少しこのままでいたいのです』


『婚約破棄は絶対にしないよ』


『私は貴方の側にいてもいいのでしょうか?』


『待っているよ』


 カークス様はそれだけを言い残して、帰って行った。


 いつか以前のように、彼の隣にいられる日が来るだろうか。



 ☆ ☆ ☆



 それから文のやり取りが始まった。

 カークス様は、ほぼ毎日のように文を書いて下さる。

 ところが配達が毎日来るわけではないから、数日分がまとめて私の元に届く事になる。

 それは日記のような形であったり、報告内容だったり、私への想いであったり。


 だからジョルジュ卿とアイリス様の婚姻の儀が行われたと知って、動揺したのだ。

 アイリス様にとっての幸せは、すぐそこにあったのだから。


 夢は夢であって、現実は幻ではない。

 ダビデの幸せを喜んだのも、アイリス様に同情したのも、カークス様の幸せを願ったのも。


 そうだ、私は同情した。

 カークス様への報われない想いと、悲しそうな夢の中のあの声に。


 きっと私は待っていたのだ、カークス様の瞳に私が映る事を。



 ☆ ☆ ☆



 馬車に揺られて出て行く時の事は何も覚えていない。

 きっとこれは私の運命だったのだ、遠い意識の片隅でそう思った以外は。


 お父様に連れられて別荘で暮らし始めて、約一ヶ月。


 もう戻る事はないのかもしれないとさえ考えた。

 それでもカークス様は途絶える事なく、文を毎日書いて下さった。

 まるでそれは恋文のように。

 そしていつものように庭園を眺めながら思ったのだ。

 あぁ、カークス様の元へ帰りたい、と。


 懐かしさは恋しかったからだろうか。

 馬車の窓から見えるそこが、私の帰りを待ち望んでいたように見える。

 玄関ポーチの前に立つジョージが少し痩せた気がするのはきっと、私が頼りないからだ。

 久しぶりの執事姿に涙がこぼれそうになる。


「メリル様、お帰りなさいませ」


「ジョージ、ただいま帰りました。 長い間の留守ごめんなさいね」


 ジョージも目に涙を浮かべ、それを堪えながら言う。


「無事のお帰りを安堵致しております。 執事として何も出来なかった私が、こうしてメリル様をお迎えするなんて……」


「ジョージ、貴方の顔を見られて本当に良かったわ」


「私も同じ気持ちでございます」


 きっと私のいない間、色々な事があったのだろう。

 ジョージは聞かせるつもりはないだろうが、再び新たな婚約者の日々が始まるのだ。

 それだけでいい。


「さぁ、カークス様が首を長くしてお待ちでございますよ」



お読み頂き、ありがとうございます。

これにて、いったん完結です。

(番外編的な話を書くかもしれませんが)


評価、ブクマ等お待ちしています。

また、同時連載中の「悪役令嬢は大嫌いなアイツと偽装結婚をする」は今後も続きますので、よろしくお願いします。


また新たな連載として、

「転生令嬢~彼が殺しにやって来る~」

こちらを水曜日あたりから始めますので、そちらもよろしくお願いします。

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