表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その町、異形につき注意  作者: りーぱーさん
18/24

十八、新緑の村

 暖かな日差しの合間に、冷たい風が吹き抜けてゆく。そんな午前九時ごろ。


 相変わらずこの村には何もない。自動販売機やコンビニはもちろん、街灯も、舗装された一本の道路にか細く灯るのみ。信号も存在しないはずだ。


「最近はあったかくて快適だねー!」


 楽しそうに飛び跳ねながら歩く咲を見ていると、ふと背景に目がゆく。


「ん? どしたの? 伶奈。」


 咲が私の変化に気が付き、声を掛ける。しかし何があったわけでもないため、返答は曖昧に返した。


「そういえば向こうに大きな溜池があったわね。」


 なんとはなしにその溜池へと向かうことに。田園地帯を抜けて、(わだち)の跡を辿りながら森の中へ入ってゆく。雑草が生い茂ってはいるが、車の出入りがあるおかげで轍を歩けばさほど問題にも感じない。


「おー、見えてきた。」


 私の言葉を聞き、二人は辺りを見渡した。


「え? どこ? 見えないけど。」


 そう帯刀が呟くと、私はハッとして立ち止まった。彼女達はキョロキョロと辺りを見渡している。


「あれ? ……確かに見た気がするんだけど。」


 疲れが取れていないのだろうか。そんなことを考えていると帯刀は、


「たしか溜池はもう少し先にあるわよ。」


 と言って、向き直り歩き出す。二人はそれ以上追求せず、さっさと目的地まで歩みを進めた。……ふと呼ばれた気がして振り返る。そこには、大きな岩に囲まれた溜池。


「あ、やっぱりここだったんだ! ほら、間違いないよ。」


 あからさまにそれは存在しており、何故見落としたのか、いささか疑問は残るところではある。池に近寄ってみると、何かが動いたのか、泥が舞い上がっている。しかし異臭等はまったくなく、全体的に見るとなかなか綺麗だ。池の真ん中には大きな岩が見えるが、あの場所に行くには泳ぐ以外にない。


「へぇー、結構綺麗じゃん? あ、魚も泳いでる。」


 前のめりになって池の中を覗き込む。水面に小さな魚が数匹。


「そうだ、ここは地下で川に繋がってるからね。」


 不意にかけられた声に一瞬たじろいだが、その声には聞き覚えがあった。私が母と喧嘩した夜に現れ、私を励ましてくれた謎の声。しかし前回同様姿は見えず、声だけが真ん中の大きな岩の裏から聞こえていた。


「あ、あの時の……えと、あの時はありがとうございました。」


 少し挙動不審気味に声を掛けてみた。すると、一呼吸置いて返事がくる。


「よいよい。それよりも、母君とは仲直りできたか?」


 そういえばママとはあれ以来まともに話していない。気まずい空気になり、話すに話せないと言ったところか。しかし今回の一件で、今は母が恋しい。


「まだ……でも帰ったら話すつもり。」


 短い返事であったが、彼は嬉しそうに相槌をうった。


「きっと母君も楽しみにしているだろうな。」


 私は少し笑いながら、彼の話に返事をする。暫しの間が空いて、彼が口を開いた。


「さあ、ご友人が待っているよ。呼び止めて悪かったね。」


 彼の言葉にハッとして振り返る。そこに道はなく、二人の姿は見当たらない。


「あ、あの、貴方は!」


 大きな水飛沫が上がる。それと同時に岩陰から巨大な影が、私の足元にある岩の下に潜って行ってしまった。


 呆気にとられていたが、我に返り周囲の状況を確認する。辺りにはやはり道らしきものは見当たらず焦りを感じたが、丘の向こうから私を呼ぶ二人の声がする。


 私が丘を登って顔を出すと、先程までいた道が見え、そこで咲と目があった。


「うわぁ! もう、びっくりさせないでよぉー。一体どこにいたのさ。」


 倒れた木を乗り越え、呆れ顔でそんなことを言っている咲の元へ。


「しかしあれね。本当に消えるのね。少し引くわ。」


 その顔をやめろと帯刀に言いたくなるのを堪え、一先ず体についた葉っぱ類を払い落とした。


「ほら、この先よ。行きましょ。」


 何事もなかったように歩き出す帯刀。私と咲は彼女の後に続く。


「ねぇ伶奈、どこ行ってたの?」


 咲の表情からはうまく好奇心が取り除かれていたが、私の目は誤魔化せない。


「んー、ヒミツー。」


 そう言って私はケラケラ笑った。


 しばらくすると無数の幹と新緑に混じり、鈍色(にびいろ)がコントラストに加わる。


「ほら、到着したわよ。」


 暗く淀んだ水面にカエルの声が一つ。日が差しこんでいるにもかかわらず、池の雰囲気はどんよりと曇っていた。


「なんか、いい雰囲気じゃないね。」


 ボソッと一言、咲が放った言葉に私は思わず頷く。


「流れのない水場なんてそんなもんよ。」


 帯刀がそう言い終えた辺りで、風がピタリと止んだ。静寂が三人の気配を際立たせる。何かがこちらの様子を伺っている気がする。


 ……しかし、しばらく帯刀の隣に座って様子を伺っていたが、ついにソレが姿を現すことはなかった。


「……何かいたよね。」


 今回ばかりは流石に咲も気が付いたらしく、私の言葉に無言で頷いた。一方の帯刀はというと、一つ鼻で笑い立ち上がると来た道に向かう。


「ほら行くわよ。私がいなくなったら出てくるかもしれないわ。」


 とりあえず未知との遭遇は勘弁してほしいので、咲と一緒に走って帯刀を追いかけた。


 その日の昼下がり。私と咲は一度家に帰ることに。


「悪いね、長居しちゃって。」


 私がそう言うと、帯刀は少し名残惜しそうにしていたように見えた。


「問題ないわ。またいらっしゃい。」


 二人と一人、手を振り合って別れる。激動の数日だったなとしみじみ思う。たがとりあえず一通り終わった。終わったのだ。これが、オカルト研究部なのだ。これが、帯刀婭里寿なのだ。なんだか楽しくなっている自分がいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ