十七、友人宅にて
街灯もない田舎の田んぼ道を、三人並んで歩いてゆく。何故こんな場所にいるのかというと、帯刀が家に泊まっていかないかと誘ってきたのだ。誘ってきたときの帯刀は少し挙動不審で、見ていて面白かった。誰かを自宅に招くという経験がなかったのかもしれない。ちなみにパパには泊まると伝えたが、実際は終わり次第帰るつもりだった。
「ねぇ、家の一軒も見当たらないんだけど……本当に大丈夫なの?」
咲が不安げに質問する。
「この辺りはもうみんな寝てるから、見えないだけでぽつぽつ家はあるのよね。」
砂利を踏む音が必要以上にうるさく鳴り響く中、私は明かりを田んぼに向けたりして遊んでいた。
「ふふ、夜に田んぼを見ると妖怪が出るわよ?」
そうなことを帯刀が呟く。
「もしかしてさ、それ田々厄のこと?」
咲は何かしら知っているらしい。聞いたことあるようなないような、そんな名前を口にする。
「そうそう、田々厄。よく知ってるわね。この村の出身者しか知らないと思ってたわ。ヤツは夜な夜な田んぼに現れるらしいんだけど、この辺りの年寄りが言ってるだけで、私は見たことないけどね。」
彼女曰く、数年に一度夜中に田んぼを見て回り、決めた一角を不作にするのだそう。しかし見回る田々厄を見てしまうと、ここら一帯が不作になるという厄介な存在らしい。
「へぇー……実際に見た人とか、実害はあったりするの?」
すると、私の質問に帯刀は大きな溜息を吐き出し、
「最後に被害が出たのは、四十年も前らしいわ。聞く話じゃある年からまったく出なくなったって。今じゃこの辺で、言うことを聞かない子供への脅し文句みたいなものになってるわね。」
また一つ、どうでもいい知識を入手したところで、帯刀の自宅まで辿り着いた。古い日本家屋ではあるが、所々改装された跡が見受けられる。
「ただいまー、帰ったよ爺ちゃん。」
帯刀が玄関を開けながら声を掛けると、奥から帯刀のお爺さんが現れた。
「おお、婭里寿! 何ともないか?」
見た目とは裏腹に軽やかな足取りで出迎える。そんな彼は私達を家の中へ案内し、帯刀が事前に連絡していたのか、夕飯を用意してくれていた。
「入江伶奈です。夜遅くにすみません。」
私が挨拶をすると、隣にいた咲も同じように頭を下げる。
「緒方咲です! よろしくお願いします!」
何をよろしくお願いするのだろうか。しかしお爺さんは、本当に嬉しそうにしている。
「なぁに、遠慮せんでいい。婭里寿が初めて連れてきた友達だもんなあ。最近はうちでもお前さんらの話ばかりだ。」
これにはさすがの帯刀も、顔を赤くして反応した。
「爺ちゃん! 余計なこと言わないでよぉ!」
取り乱す帯刀を余所に、私達は大笑いしたのだった。
夕食をご馳走になり、帯刀は何かやることがあると言うので、私と咲で風呂を借りることになった。シャワーで体を洗い、浴槽にまったりと浸かる。咲も浴室に入ってきて、シャワーを浴び始めた。
「いやあ、足が痛えー。咲は大丈夫ー?」
しかし彼女は小さく返事をするのみである。水の流れる音が耳の奥で反響し、気まずさを助長させる。
「もー、また落ち込んでるの? ……今日うまくいったのは咲のおかげだよ。ありがとね。」
体を洗い終え、咲も浴槽へと入る。
「どうだった? 最近。学校は順調?」
私の言葉に彼女は吹き出す。なにかと思っていると、
「本当さ、伶奈ってオカンくさいよね。」
と笑っている。
「誰がオカンだ。」
そう言って私がチョップをかます。気まずい空気は何処へやら、いつもの二人へと戻っていた。
「しかしよくわかったね。私達の居場所。」
私の質問への回答は簡単だった。
「いや、どこに行くかは聞こえてたから。今日の夕方謝ろうと思って家行ったんだよ。そしたら出掛けてるって聞いたから、まさかと思って。」
最高のタイミングで現れたのは、偶然だったらしい。
「あ、刀は? 拾ってきたんでしょ?」
そう言うと、咲は思い出したように話し始めた。
「ほら! あのポスト覚えてる? 森の中の。あそこに突っ込まれてたんだよ。使えそうだと思って持ってきたの。」
まさかそんなはずが。だが咲がこんな嘘をつくような人間ではないことは、私がよくわかっている。
「おらお前ら、そこに座れ。」
ここで突如、風呂場の戸が開く。そこには半袖短パンに、桶を脇に抱えて仁王立ちする帯刀の姿が。とりあえず言われた通り浴槽を出て、浴室の床に体育座りになる。
「まず咲ちゃん。貴女は大したことないから安心していいわよ。」
何がなんだかわからないうちに、咲は桶の水を杓子で一杯、肩にかけられた。これといって何ともなさそうで、私も咲も安心する。
「さて、問題は伶奈ね。穢れが酷いから痛いと思うけど、我慢しなさいよ。」
言葉の意味を理解する前に、桶から直接水をぶちまけられた。
「いぎゃあああああ!!」
数十秒して、意識がはっきりしてくる。ショックで気を失っていたらしい。ふと自分の体に違和感を感じ目をやる。
身体中に赤黒い斑点が浮き出ており、その箇所がジリジリと痛む。顔も頭もヒリヒリして涙が出そうだ。
「だ、大丈夫なの?」
咲はいつの間にか帯刀の後ろに回り、心配そうに見つめる。ここで帯刀は大きな懐中電灯を取り出し、黒くなった箇所に光を照射する。思ったよりも強い光。帯刀が明かりを脚に向け照らすと、光が当たった箇所から黒い斑点が消えてゆく。
数分ですべての斑点を取り除き、
「よし、これでオッケー。」
などと軽い言葉を残し戻っていった。
とりあえず風呂に入り直し、体を温める。
「すごかったね、今の。堕閫童磔に触ったからかな?」
咲は私の斑点があった場所を撫でたり、つまんだりしながら興味津々で聞いてくる。反撃に、人差し指で眉間をぐりぐりしてやった。
「そろそろ上がろ。帯刀にも色々聞きたいことあるしさ。」
その意見に咲も同意し、二人で脱衣所に戻り服を着る。汗ばんだ下着が不快だが、それも仕方あるまい。廊下に出ると、ちょうど帯刀に鉢合わせた。
「あ、私ので良かったら、服貸すわよ? 部屋こっちだから来て。」
後をついて行くと、二階への階段が。階段を上がり二階の廊下へ出て、左側に進む。所々床が軋む音に風情を感じながら、突き当たり手前まできたところで、帯刀は部屋の扉に手を掛けた。中に入ると彼女は適当な服と下着を出し、
「とりあえず休憩してて。私もお風呂入ってくる。」
そう言って部屋を後にしたため、再び二人きりで取り残される。ありがたく帯刀の衣服を着てみたが、少し肉がはみ出しているではないか。痩せねば……
「結構広いね、アリスの部屋。」
彼女の言う通り、私や咲の部屋の二倍程度あるだろう。室内は普通に女の子らしい部屋だ。私の想像していた、ヤバそうなグッズや人形の代わりに、大小様々なクマやウサギなんかのぬいぐるみがたくさん置いてあった。
「こいつら、可愛いねえ……」
そう言うや否や、咲はぬいぐるみの群れに埋もれはしゃいでいる。私は真ん中に配置されたテーブルの辺りに座り、部屋主の帰還を待った。
「帯刀の両親は出かけてるのかね。」
ふと思って咲に話しかけてみる。
「学校通うのにここにいるとかじゃない? 見た感じお爺ちゃんと二人暮らしって雰囲気だよね。」
そうなのだろうか。どことなく静かなこの空間に、私は一人、物寂しさを感じていた。
それから数十分。
「おまたせ。」
簡潔な言葉を放ちながら、部屋主は戻ってきた。咲は未だにぬいぐるみに埋もれていたが、帯刀はその姿を見ると、同じようにぬいぐるみに突っ込んでいった。
「ふふーん、かわいいでしょ!」
お気に入りのクマを自慢している帯刀を微笑ましく見守っていると、段々と眠くなってくる。今日は、本当に……
衣摺れの、音? そこで私の意識は覚醒し、一気に夢から引き戻される。部屋は真っ暗。いつの間にか布団に横になっており、左を見ると帯刀と咲が布団の中で眠りについていた。衣摺れ音は廊下から聞こえており、行ったり来たりを繰り返しているようだった。しかし不思議と恐怖を感じることもなく、私は二人を起こさないよう気を付けながら、扉の前まで歩いて行く。私がノブに手をかけたとき。
……おかしい。唐突に違和感が襲ってきた。なんだ、何がおかしいのか。……そうか、足音がしないのだ。床が抜けるほどではないが、かなり軋みが酷い場所があった。それを抜きにしても、衣摺れの音以外に何もしないのはおかしい。よくよく聞いても、衣摺れ音は廊下を行ったり来たりしている。私は意を決して覗いて見ることにした。
音の主が遠ざかったタイミングで、扉をゆっくりと開きみる。窓からの月明かりで、微かに黒い布のような物が見えた。しかしそれは、すぐに角を曲がって消えてしまう。
「何? トイレ?」
驚いて振り返ると、帯刀が半身を起して眠い目をこすっている。
「いや、なんでもない。」
適当に誤魔化して布団へと戻り、帯刀に布団まで運んでくれた礼を言う。
「あー? あー、別にいいわよ。……ああ、ありがとう。なはにすら……」
帯刀は頭が回っていないらしく、その後の言葉は何を言っているかさっぱりわからない。話し終えると体を倒し、夢の中へと戻ってゆく。同じように私も寝そべって目を閉じたのだった。
顔に何かを感じて起き上がった。障子から淡い光が差しており、もう日が昇っていることを教えている。顔に感じた違和感は、自分の髪が絡み付いていたからだ。時計を見ると、午前七時前。
「あ、伶奈おはよー。」
どうやら咲も目が覚めたらしいが、それ以上に帯刀の寝相の悪さに目がゆく。
「こいつ、逆さまになってるじゃん。悪戯してやろ。」
面白そうなので、帯刀を起こしてみることに。咲は苦笑いを浮かべている。とりあえずぬいぐるみを何体か乗っけるが、起きる気配はない。デカいクマを取り出し、そのクマで頭に向かいヒップドロップを繰り返していると、さすがにもぞもぞ動き始めた。
「うぅぅぅ、助けてぇぇぇ……」
寝ぼけてはいるが、一応起きたらしい。しばらくすると帯刀は立ち上がって、部屋を出て階段を下りて行ってしまった。
「朝、弱いのかもね……」
咲の言葉に相槌を打ちながら、布団を畳み自分の服に着替える。顔を洗いたいなと思っていると、帯刀が部屋に戻ってきた。
「おっす、洗面所使う? お風呂場のとこだから。」
お言葉に甘えて洗面所を使い、それから身支度を整え朝食を頂いたく。そのあと、帯刀の部屋に集合する運びとなった。
「どれ、それじゃあ昨日の件について、色々整理してみましょうかしら。」
帯刀がお菓子やジュースを用意し、場は和やかな雰囲気で始まる。手始めに根本的な質問。
「結局さ、堕閫童磔ってなんだったの? あのドロドロが本体だったってこと?」
クッキーを咀嚼しながら帯刀は話し始める。食べ終わってからにしなさいとツッコミたくなったが、そこはぐっとこらえる私。
「まあそうね。本体というか、アレが異形よ。そして伶奈がヤツの体から取り出したあの赤ん坊。あの子は堕閫童磔が堕閫童磔になる元凶となった子。」
そうして彼女は、自分が調べた内容と出会った時の感覚から、堕閫童磔が何モノだったかを説明してくれた。
「堕閫童磔はおそらく、人間の愛憎に興味を持ったんだと思う。そして一人の赤ん坊を取り込み、その子の愛憎を何百倍にも増幅させた。人間の魂っていうのは、その人の持つ想いによって力を増すの。無理矢理一部の感情を肥大化させたらどうなるか、あとは見ての通りよ。」
あの子も私と同様に、あのドロドロに呑み込まれたのだろう。歪な姿に成り果てた多羅女の赤ん坊を思い出してしまう。そして昨日私の体に付いていた黒い斑点……恐ろしくなって考えを停止させる。
「堕閫童磔は手始めに自身の母を殺した。それが後に、錐馬の多羅女と呼ばれる怪物の元になった女性ね。次に堕閫童磔は、自分と同じ、母親に強い恨みを持つ赤子の霊を見つけては取り込み、その母親を呪い殺す。死んだ母親は多羅女に呑まれる。これを繰り返した結果が、あの巨体よ。」
私は煎餅を頬張り、軽快なリズムを刻ませながら聞いていたが、一つ疑問が浮かび帯刀に質問する。
「でもさ、母親達には自分の意思で赤ん坊を殺した人もいるんでしょ? それならなんで多羅女を側にいさせたの?」
すると彼女は、唸りながらこう言った。
「……たぶん、そうじゃないわ。」
意味を考えようとしたが、彼女が先に説明を始める。
「堕閫童磔は愛憎を増幅させたの。憎しみだけじゃないのよ。あの赤ん坊達は愛を強く求めたんじゃないかしら。赤子にとって母親は必要不可欠でしょう? 特に昔なら尚更のこと。だから彼女達を留めて子守をさせてたのよ。」
何も言えずに黙って頷く。
「彼女達には、それがわかっていたのかもしれないわね。どれほど自分が必要とされているか。そして赤ん坊達も堕閫童磔に触れていることで、とてつもない苦痛を味わっていたはず。貴女は一回飲まれたから分かるでしょ? あの中がどんなか。」
確かに堕閫童磔の内部は、異常なほどに圧迫感があった。
「私、アイツに飛び込んだ後さ、夢みたいなのを見たのよ。全部女に殺される夢。そのうち怒りが込み上げてきて、いつの間にかママに殺意を抱いてた。」
帯刀は私の話を興味深そうに聞いている。
「ある知り合いの声が聞こえてきて、それで正常に戻ったんだけどね。あの中の異様な感覚は忘れられないよ。」
二人は黙って私の話を聞いてくれた。
ここで咲が別の質問を投げかける。
「ねえ、捕まえた異形はどうしたの? 前も聞きそびれて気になってたんだよね。」
これには私も興味があったが、彼女が言わなければ忘れていただろう。
「アイツらをどうこうする力は私にはないわ。だから向こうに返すの。元々向こうにいた連中だから、一方通行で帰すことができるわ。もちろん貴女達に同じことをしても、異形の世界には行けないから安心しなさい。」
そう帯刀は言うが、ヤツらは私達に恨みを持って逆襲しに来るのではないのか。それを帯刀に伝えると、
「その辺は問題ないわ。大体の異形は私達人間と感性が違うから、ヤツらは自身の行為に罪悪感もないし、私達の行為に怒りもしない。特に今回みたいな話が通じないヤツは大丈夫よ。」
とのことなので、深く考えるのはやめた。
「そういえば帯刀、私を何かが守ってるって言ってたよね? あれはなんだったの?」
彼女は飲み物を一口飲み、一息ついて頭を掻きながら話し始める。
「まあ、そうね。貴女から感じたのは四つの力。一つはあの御守りね。多分錐馬神社のものじゃないかしら。」
神社の名前は聞いてないが、私が御守りを貰った場所で間違いないだろう。
「へぇー、すごい! なんか神社を移転させたらしいんだけど、結局小さな祠になったみたい。」
どうやら帯刀は祠のことを知っており、反対に咲は神社がなくなったことを驚いていた。
「神社移転には結構な反対があったのにね。結局無理矢理どかしちゃったんだ……たしか神社があったのって、あの林の近くのだったよね。」
あの辺りには、最近開発された住宅街が存在する。しかし昔神社で遊んだ記憶はあったが、あの場所だったのか曖昧でわからない。
「そうなの? 私は元の神社の方は詳しく知らないのよね。さて、話を戻すわよ。二つ目は、そうね……なんと言うか、貴女の体を内側から守っていたというか。たぶん私が呼吸できなくなった時に、貴女が平気だったのはそのおかげね。」
内側、ようは体内からの作用? 何か飲み込んだりしただろうか。昨日食べた物といえば……朝ごはんの目玉焼きとベーコン、あとは先生の家で焼いた魚くらいだろう。
「三つ目、これは優しくて安心するような気配だったわ。おそらく貴女の精神を守ってあげてたんだと思う。」
ふと浮かんだのは、母と喧嘩した日のこと。私は二人に、謎の声と会話したことを伝えた。
「そっか……やっぱあれ伶奈だったんだ。ごめんね、何にもしてあげられなくて……」
喧嘩したときの叫び声が、咲にも聞こえていたみたいだ。まあうちの問題なのだから、咲が落ち込むこともないだろう。
「ふふ、気にしないでいいよ。またなんかあったら、咲を頼らせてもらうからさ。」
彼女は笑って頷き返す。帯刀は私達が話し終えるのを見計らって話し始めた。
「伶奈に話しかけたのがなんなのか……興味が湧いてきたわね。後で文献漁ってみようかしら……さて、四つ目なんだけど、気付いたのは私の家に帰ってからなのよね。なんと言うか、それは貴女の存在を隠していたんだと思う。」
隠す? ……そういえば西野邸から逃げ切った後は、昨日の夜まで多羅女にも堕閫童磔にも出会っていない。これも何者かが私を守ってくれていたのだと思うと、呑気にしていた自分が恥ずかしい。
「てゆーかさ、伶奈を守ってたのって同じゃないの? 四つ全部違うわけ?」
咲の問いに短く唸りを上げてから、帯刀は自身の感じたことを話し始めた。
「違うわ、全部。そうね、まず御守り以外からは妖魔の気配がするのよ。それぞれが独特な気配を放っているわ。それに彼らはただの妖魔じゃなくて、強力な土地神の類い。……うわぁ、貴女一体何者なのよ……」
自分で話した内容と私にドン引きしている。失礼なやつだ。
「そ、そんな凄いことなの? つーか引くな。その顔やめい。」
私は帯刀のほっぺを摘んでぐりぐり引っ張ってやった。
「うー、やめなさーい! とにかく! 普通連中は私達に干渉することはほとんどないの。それが三体も同時に。……こんな話聞いたことないわ。」
こんな話をされても私達二人は、ボケーっと間抜けな顔を返す他にできない。
「妖魔って、妖怪のこと?」
さりげない咲の言葉に思わず同調する。聞き流していたが、内心気にはなっていた単語だ。
「んー、そうね。でも漫画なんかに出てくるのとは少し違うわね。なんと言うか、精霊みたいな。土地神と呼ばれることもあるわ。普段は身を潜めてるから、会おうと思って会える者達じゃないの。」
帯刀は熱くそれを語るが、私にはあまりピンと来ない。
「へぇー。そういえば昔は、よく変な生き物と遊んだりしてたかも。」
彼女はアホみたいな顔して驚いている。一方の咲は、
「あー、伶奈って昔から、突然いなくなったかと思えば、遠くの遊び場で一人遊びしてたりとかあったもんなぁ。その時の言い分も意味不明だったし。」
などと言って立ち上がり、帯刀のぬいぐるみを取り戻ってくる。その間に帯刀は正気に戻ったらしく、飲み物を一口飲んで話し始めた。
「伶奈が変な現象に巻き込まれてるのは何となくわかってたけど、まさか相手がそうゆー連中だとは思わなかったわ……」
そういえばこの間も、似たような話をしていたことを思い出す。あの時ははぐらかされたが、聞き出すなら今しかない。
「前も言ってたよね? なんでわかるのさ。ねぇ、教えてよ。」
私は身を乗り出し、帯刀に迫る。彼女が目を逸らした先には、目をランランと輝かせる元気っ子が、興味津々で待機していた。
「う、うーん……仕方ないわねぇ。貴女には印というか、なんというか……目印がついてるのよ。多分貴女が危機に瀕した時に、すぐ助けられるように付けたんだと思う。」
お菓子を手に取り一息つく帯刀。私達は何も言わずに、話し始めるのを待つ。
「最初は守護霊の類いかと思ったのよ。でも今回の件で違うことがわかった。印を付けたのは、今回貴女を守った連中と近い存在の妖魔じゃないかしら。でも件の三体ではなさそうなのよね。」
なんだかわからないが、一体誰がそんなことをするのか。私が何かしたのだろうが、原因となりそうな記憶はない。
「印って何が目的で付けるの? 妖魔がつけた目印って言われると、なんかいいイメージないんだけど。」
咲は少し顔をしかめて言う。
「そうね、基本的に彼らや彼らの土地を荒らしたりした人なんかを、逃がさないように使うみたい。印自体はそれぞれ違って、物理的なアザだとか傷だとかもあるし、目に見えない印もあるらしいわ。でも本来は他の存在と共有したりはしないのよ。それを共有してまで貴方を守る理由はわからないわ。」
こんなことを言われても、大切にされてありがたいな、と呑気に構えてた。ふと時計を見たときに、母親の顔が浮かんでくる。今頃何をしているだろうか。……無性にお手洗いに行きたくなってきた。
「ねぇ帯刀、トイレ行きたいんだけど。」
私は帯刀に案内され、一階のトイレに入った。家の見た目と違い綺麗な洋式トイレで、室内は清潔感のある雰囲気である。
用を済ませ、戻ろうとしたとき。帯刀のお爺ちゃんが掃除をしているのを見かけて、ふと気になり近寄った。
「おお、伶奈ちゃん。うちのことは気にしないで、ゆっくりしていきなさい。」
そう言って腰を叩くお爺ちゃんに、私はある質問をしてみた。
「帯刀のご両親は出かけているんですか?」
お爺さんは顔をしかめ、首を振りながら溜息をつく。まずいことを聞いてしまったらしく、私は挙動不審になるしかなかった。しかしお爺さんは、優しい口調でこう話してくれた。
「いないんだよ……そうだな、詳しい話は、あの子がそのうち話してくれるかもしれんな。それと、あの子はずーっと一人だったろうから、仲良くしてやってくれ。どうか、この通り。」
深く頭を下げる彼を諭しながら、帯刀の境遇について頭を巡らせていた。
部屋に戻ると、二人でぬいぐるみに埋もれながら、何か話している。
「でた、なーさん。」
帯刀よ。突如起き上がり、迫真の真顔を向けながらそのあだ名で呼ばないでいただきたい。
「な、何だよ……気持ち悪いな。つーかそのあだ名で呼ぶんじゃねー。」
余ったお菓子をつまみながら、私は腰を下ろす。
「これから何しよっか。家でのんびりするのもいいけどね。」
私の問いかけに、帯刀が反応する。
「気分転換に散歩でも行かない? 別に何かあるわけでもないんだけど。」
悪くない提案だ。咲は既に準備体操みたいなことをしており、私の返答待ちといった具合になっている。
「いいよ、行こう。面白そうだし。」
私はゆっくりと立ち上がった。




