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その町、異形につき注意  作者: りーぱーさん
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19/24

十九、噂の種

 意を決して扉を開けた。


「ママ、ただいま。」


 服を畳んでいた母は私を一瞥し、すぐ作業に戻る。


「おかえりなさい。お友達に迷惑かけなかったでしょうね。」


 意地悪く聞こえるが、おそらくは気まずいのを誤魔化しているのだと思う。私は荷物を置くと、思い切って母の後ろに座って抱きついた。


「私、ママの気持ちも考えないで、酷いこと言ってごめんなさい。」


 母の手が止まる。突如感情が込み上げて、涙を抑えることができなくなった。


「お母さんこそごめんね。伶奈ちゃんのこと何もわかってあげられなくて。ごめんね、ごめんね。」


 私も母も抱き合ってわんわん泣いた。自分がいかに恵まれているか、心から実感できる。


 双方が落ち着きを取り戻した頃。


「ママ、錐馬の多羅女って知ってる?」


 母はその質問に少し戸惑っている様子だった。


「お義母さんから聞いたことはあるけど。それがどうかしたの?」


 私は母に、多羅女に付きまとわれていたこと、その親玉に目を付けられたこと、そしてそれらから私を助けてくれたのが帯刀だということを話した。


「そうだったの。後でお礼をしなくちゃね。」


 そう言って私の頭を撫でてくれる。


「だけどあんまり無茶しちゃ駄目よ。私達にはあなたしかいないんだからね。」


 嬉しくなって再び涙が出てきた。


「そういえば昨日、変な夢を見たの。本当は話さないつもりだったんだけど。」


 そう前置きをし、話し始める。


「夢の中で、まだ産まれて間もない伶奈ちゃんをあやしてたんだけど。そしたら急に伶奈が苦しみ始めてね。赤ちゃんって何かあると泣くでしょ? それすらないから、びっくりしてすぐ助けを呼んだのに誰もいなくて。どうしようもなくてあなたの名前を呼び掛け続けてたの。」


 黙って母の話に聞き入る。


「しばらく名前を呼んでいたら、伶奈の顔が穏やかになったのよ。ちょうどオモチャが目に入ったから、遊んであげてたところで目が覚めてさ。」


 夢の内容自体はそこまで驚く内容ではない。


「ママ、その夢を見たのって何時くらいだか覚えてる?」


 少し考えたが、すぐに答えてくれた。


「夕飯作ってひと段落した頃だから、七時前くらいかしらね。」


 正直、堕閫童磔に飛び込んだのが何時なのかはわからない。しかし帯刀と待ち合わせたのが六時だとすると……


「まあ夢よ、夢。それより伶奈ちゃん、お菓子でも作らない?」


 その後は、最近の出来事や、部活での話なんかをたくさん話した。夢中になって、気付けば日は暮れている。翌日に備え、私は早めに就寝の準備を始めた。


 何事もなく夜を越え翌日。いつものように外に出ると、咲が待機している。そういえば一緒に登校するのも久々だ。


「早いねー咲ー。あーガッコしんどー。」


 文句を垂れながら通学路を歩いていたとき。あの祠がある通りに目がゆく。


「ごめん咲、ちょっと寄り道。」


 咲の返事も聞かずに、走って祠へと向かった。祠に到着すると、祠の扉を開けて御守りを戻す。そしてこの神社の主に感謝の祈りを捧げた。


「この間は悪かったね。」


 ビクッとして振り返ると、例のおばあさん。しかし雰囲気は前と違い、バツが悪そうにしている。


「妹がね、帰ってきたのさ。姪も。……童様(わらべさま)から救ってくれたんだねぇ。あの子達が言っとったよ。」


 彼女の言う童様とは堕閫童磔(だこんどうたく)のことなのだろう。


「だけども、あの森にはもう入らんほうがいい。あそこには怪物が住んどるんじゃ! だからあれほど神社を動かすなと言ったんだ。」


 少し興奮気味になってきたおばあさんをなだめる。


「でも、もし! もしあの怪物をなんとかできるなら。あの怪物を退治できるなら……」


 そう呟きながらおばあさんは戻って行った。私が呆然と立ち尽くしていたとき。


「伶奈? まだ終わらないの?」


 待ちくたびれた咲が迎えに来たので、ひとまず学校に向かうことにした。


 いつものように授業を済ませ、放課後に突入。クラスメイトの、


「なーさん遊び行かない?」


 という誘いを丁重に断り、別棟に向かう。ちょっと前なら喜んで付いて行ったんだけどなあ、と懐かしく思いながら歩いていると。


「伶奈ー、待って待ってー!」


 手を振りながら駆け寄って来る咲。数日でもやはりこれがないと寂しいものだ。


「おー、久しぶりじゃん。」


 少し皮肉めいた私の言葉にも動じることはなく、彼女は楽しそうにしている。


「二人で部活行くの久しぶりだねー! 婭里寿はもう行ったの?」


 私は数分前のことを思い出す。


「あいつはいつのまにか消えてるんだよね。」


 いつも帯刀は帰りのホームルームが終わると同時に、消えるようにいなくなるのだ。


 話をしながら部室の前まで来た時。一瞬だけ何かを感じて立ち止まった。窓の外。


 ……狩馬山が呼んでいる?


 頭を軽く小突かれ正気に戻った。


「聞くな、聞こえても絶対無視しろ。」


 帯刀が真剣な表情で呟く。


「ほら、入った入った。」


 帯刀に引っ張られ部室に入ると、咲はすでに椅子に座って待機していた。全員着席したところで、帯刀が話を始める。


「さて、活動も一段落ついたことだし、皆、何か不思議な現象を見たとか、バケモノを見たとか、そんな話はないかしら?」


 なるほど、情報収集か。そこで私は今朝の出来事を伝えてみる。


「あー、あの老婆。ふむ、とりあえずあの森はもっと調査する必要があるわね。老婆の言うバケモノと、私達が見た爪痕。そして神社の移転。関係ないとは言えないわね。」


 興味深そうに話す帯刀。他にも思い出した現象を話すことにした。


「私と咲が堕閫童磔に遭遇する前だったかな。たしか図書館に皆で行った日の夜。二人で御舘にあるボロ小屋に行ったんだけどさ。中にいるとき懐中電灯が急に消えたんだよね。その時、何かいたんだよ。暗闇に、何匹も。」


 やはり咲は知らなかったようで、面白い表情をしている。


「まさか、それはきっと"潜む者の巣"よ! 驚いたわ、私もまだ見たことないの。」


 興味深そうな表情でこちらを見つめる帯刀。


「何? 潜む者って。やばい奴じゃないの?」


 すると帯刀は鞄からファイルを取り出した。分厚いファイルをめくり、あるページで手を止める。


 ー 潜む者 ー


「私は昔、潜む者を調査したことがあるわ。潜む者、ヤツは異形よ。」


 帯刀の言葉に恐怖感を覚えた。私は妖怪のような存在だと思い込んでいたからだ。


「い、異形って……ソイツ、やばいヤツなの?」


 一足先に咲が質問する。彼女も気付かないうちに遭遇しているのだから怖くて当然だ。


「……ヤツらは暗闇に存在し、暗闇の中を這う者。今のところヤツらが人間に危害を加えた事例はないらしいけどね。私も昔、巣を探したけど、結局見つからなかったわ。」


 この返答に私は安心することができなかった。アレの薄気味悪さは尋常ではない。


「巣があるのは知ってたんでしょ? それはどうして?」


 私の質問に表情が曇る帯刀。


「私の恩師よ、ヤツが教えてくれた。潜む者達は世界中にいくつかいて、深い深い闇の中に巣を作るらしいわ。ただ……」


 帯刀は少し煮え切らないという感じだ。


「何よ、全部話して。」


 私の催促に彼女はゆっくりと口を開いた。


「潜む者の巣には別なモノがいるときがあるらしくてね。人喰いがいたこともあるから気を付けろって。」


 私が思っていたよりも、あの時は危険な状態だったらしい。だがあの帯刀でも巣を見つけるには至らなかったわけで、貴重な体験をできたのだろうと、呑気に考えていた。


 帯刀は再び鞄を漁り、地図を取り出す。


「どこ? 巣はどこにあった?」


 地図を見ながら咲と一緒に小屋の位置を探る。しばらく探していると、川沿いの道にそれらしい場所を発見した。


「周りの感じからして、たぶんここだと思う。」


 私が咲に相槌をうつと、帯刀は地図に赤ペンで印を付けていた。


「ふむ、ここにきて有力な情報を得られるとは。ありがとね。」


 素直に褒められ誇らしい気分になる。


「さて、他に何かあるかしら?」


 しばしの間を置き、咲が手を挙げる。別に手を挙げる必要はないだろう、などと適当なことを考えていた。


「あの屋敷の話なんだけど……」


 そう咲が切り出すと、帯刀は顔をしかめる。


「あれは特殊過ぎる。貴女はこれ以上あの屋敷と因縁ができないようにしなさい。じゃないと死んでしまう。」


 深刻に告げられ、咲は少ししょんぼりしていた。


「あ、そうだ。」


 二人の視線が一気に私に集まる。


「え、えと、図書館の噂とか聞いたことない?」


 私の質問に二人は少し考えていたが、特に何も思いつかないらしい。そこで私は、図書館で起きた不可解な現象と、その度に壊滅思想という本を目にしていたことを話した。


「へー……」


 考えている様子の帯刀。少し間を置き、咲が突然声をあげた。


「それ、図書室のオバケだよ!」


 これには私も、なんだそれと言わんばかりの表情をしていたと思う。しかし私が考えていることとは違うらしい。


「違うよ! 小学校の時に噂があったじゃん! ほら、図書室にでるオバケの噂。」


 そう言われてみればたしかあった気もする。しかし噂の内容はさっぱりだ。


「たしかね、夜になってから図書室に行くと、恐ろしい怪物が出るんだけど、それは図書室のオバケがイタズラしてるんだって話。」


 いかにも子供の噂話といった内容。納得できず不満気な表情をしていると咲は、


「さすがに違うかー……」


 なんて頭を掻いている。すると帯刀が、


「でもまあ、調べてみるのも悪くないんじゃない? 繋がりがなくとも、面白い話を聞けるかもしれないわ。」


 なんて言いながら背伸びを一つ。ちなみに帯刀も結局は何も思いつかなかったらしく、


「今度新島さんに聞いてみるわ。」


 だそうだ。


 とにかく私が思い出せる限りは話せただろうか。咲も特別これといった話はなさそうだ。


「おーけー、それじゃあこれからの活動について話し合いましょうか。」


 とりあえず私は帯刀に貰ったノートを取り出す。聞く体制が整ったところで、帯刀が紙に内容をまとめたものを説明する。


「まず調査候補を上げてくわよ。その一、神社と森の怪物。その二、潜む者。その三、図書館の怪。その四、小学校の図書室の噂話。」


 聞く限りだと私はすべてに関係があるため、二人の意見を先に聞いておきたい。


「咲、何か行きたいとこある?」


 私が問い掛けると彼女は目を輝かせて言う。


「私は小学校行きたいなー。久々に見に行ってみたいかも。」


 頷きながら帯刀の方を見る。


「ん、私は潜む者を調べたいわね。」


 彼女が潜む者を選ぶのは大方予測ができていた。あとは私次第といったところか。


「オッケー。図書館に私一人で乗り込むのはヤバそうだから、咲に付いていくかな。潜む者は帯刀に任せるわ。」


 帯刀は軽く頷き、咲も張り切っている。


「神社と森の怪物も軽く調べとくから、貴女達はそっちに集中して大丈夫よ。」


 さすがはベテラン。さて、これから面白くなりそうだ。


 それからササっと帰り支度を済ませて解散。帯刀と校門で別れ、咲と小学校に向かう。


「懐かしいね、卒業以来一回も行ってないし。あ、でも咲は部活で来てたっけ?」


 前に小学生の陸上大会選手に、咲が指導に行った話を思い出していた。


「懐かしーそれ! そんなことあったなぁ。でも校舎には入ってないよ。」


 私達が通っていた学校は、三沙乃(みさの)小学校と言う名前で、三沙乃は錐馬を含む四地区をまとめた総称である。ちなみに慶隆町には五つの小学校があり、それぞれの地区ごとに子供達は通っている。


「ふーん、それじゃあ私と大して変わらないか。」


 そんなことを呟いたあと、私は自宅の方に顔を向けた。


「うーん、服は制服のほうがいいかな……あとは良さげな言い分を考えておかないとね。」


 オカルト部が何かやらかしていたのだとすれば、噂が広まっていてもおかしくない。


「その辺りは伶奈! 任せた!」


 セリフも誇らしげな表情も、実に咲らしい。まあ、いいとは言っていないが。


 そんなこんなしている間に小学校へとたどり着く。


「とりあえず職員室か。あ、事前に電話したほうがよかったかな?」


 大事なことを忘れていた。急に押しかければ間違いなく迷惑だろう。咲もそれを聞いて苦い顔をしている。しかし立ち止まっていても仕方がないので、中に入ってみた。


 職員室を覗いてみたが、パッと見て知っている先生はいない。


「慶隆高校の生徒か? 何か用事か?」


 声を掛けられ振り返る。そこにいたのは、私達が五、六年の時に担任だった野本先生だった。


「おお? もしかして伶奈と咲か、久しぶりだなぁ!」


 見た目は少し老けていたが、すぐにわかった。彼ももう五十代であろう。


「野本先生久しぶりです。まさかまだ三沙乃にいるとは思わなかったですよ。」


 なんて咲が言うと、先生は笑いながら、


「はは、まあこの学校が好きだしな。それに通勤が楽でいい。」


 と地元出身の彼は冗談交じりに話す。先生の授業は評判が良く、担当した生徒の成績も上々であり、なおかつ生徒にも慕われるような人だ。


「それで、今日はどうした?」


 この一言で、昔話を始めて長引くという事態は避けられた。


「私らオカルト研究部ってのに所属したんですけど、今その部活で、地域の怖い話の出所や起源を調べてるんですよ。それでやっぱりそういう話は小学校とかがいいかなって。」


 彼は私の話を聞いて少し驚いていた。


「へぇー、あのオカルト部ねぇ。あんな事件起こしたからてっきり廃部になったんだと。」


 やはり知っているようだが、そこは無理矢理押し通す。


「その辺は私達も事情は知らなくて。今の部長も私のクラスメイトで、部員も私ら含め三人なんです。部長は慶隆の不思議な噂話を解明しようと活動してるんですよ。そういう話は小学校にもあるんじゃないかなって思って来たんですけど。」


 先生は納得の表情で頷く。


「そうだったか。まあとりあえず客間に行くか。」


 職員室隣の来客室で立派なソファに座り、先生が用意してくれたコーヒーを頂く。


「本題なんですけど、学校の怪談とか、生徒の間で噂になっているような話を探してるんですけど。」


 適当なタイミングで私が話を切り出す。先生は少し考えていたが、何か思いついたようで話を始めた。


「今の五年生で怖い話が流行っていたな。その中心で動いてる子なら、色々知っているかもしれん。」


 時間も時間なので、すでに帰宅した生徒も多いだろう。今日は先生と話して終わりか。そう思ったが先生は、


「あの子達ならまだいるかもしれん。見てくるからちょっと待っててくれ。」


 と言うや否や部屋を出て行ってしまった。


 無駄話をしながらしばらく待っていると、先生は一人の女生徒を連れてやってきた。おさげが似合う可愛らしい女の子だ。


「こんにちはー。」


 私は彼女に挨拶をしながら手を振ると、相手の緊張も少しほぐれた。


「こんにちは、西川綾乃(にしかわ あやの)、五年生です。」


 綾乃ちゃんは自己紹介をすると、先生がソファに誘導する。先生は仕事があるからと部屋を出て行った。


「綾乃ちゃん、突然ゴメンね。私は入江伶奈。そんでこっちは緒方咲、よろしくね。」


 咲も続けて、


「やっほー!」


 なんて言ってる。綾乃ちゃんは黙って頷く。


「あのね、私達学校の怖い話を調べていたの。綾乃ちゃんが詳しいって聞いたんだけど、知ってる話を聞かせてくれないかな?」


 緊張気味の顔だったのが一転、興味津々と言わんばかりな雰囲気に変わる。


「お姉ちゃん達も怖い話好きなの?! 私いっぱい知ってるよ!」


 目を爛々と輝かせているところを見ると、先生の推測は正しかったらしい。


「ホント?! 聞かせて聞かせて!」


 咲がそう返すと、彼女は知ってる噂や話を聞かせてくれた。


「まずね、下駄箱おじさん! 夜の八時に下駄箱を開けると、おじさんの頭があってこっちを睨んでくるって話!」


 いきなりヤバい奴が出て少し引いた。遭遇したくはない。


「次はね、えーと、トイレの花子さん。三階のトイレに一人で行くとね、一番奥の扉が閉まってるの。そこに行って、花子さんいらっしゃいすか? って言ってから三回ノックすると、扉が開いて花子さんがトイレに引きずり込むの!」


 地元オリジナルが加わってはいるものの、オーソドックスな話だ。曖昧だが、私達の頃と少し内容が違う気がする。


「あとはね、赤い足の女。夜の十二時になると廊下に現れる幽霊。足が真っ赤で、見つかると足を切り落とされるんだって。」


 名前通りの姿だが、やることがえげつない。しかしこれも、ありがちな話ではないだろうか。


「んーっと、あと靴べら様! 靴べら様を呼ぶ儀式で靴を捧げると願いを叶えてくれるの。でも叶ったことはないけどね。」


 ずいぶんと変わった名前だ。明確な方法もあるようなので、帯刀にも話してみよう。しかしなぜ靴べらなのだ?


「あと知ってるのは、図書室の黒い影。図書室で一人になると、黒い影が出てきて追いかけられるんだって。捕まると頭を食べられるんだよ。」


 これだ。図書室の話。しかし聞いていた話とはかなり違う内容だ。


「綾乃ちゃん、図書室に夜出るオバケの話知らない? 私が小学生の頃、そんな話があったんだけど。」


 咲の問い掛けに彼女は首を傾げている。


「その話は知らない。」


 どうやら咲が聞いた話は今の子供達までは伝わってないようだ。それか改変されて、黒い影の話になったのかもしれないが。


「私さ、図書館での噂も探してたんだけど、綾乃ちゃん聞いたことない?」


 彼女はそれを聞いて何かを思い出したらしい。


「知ってる。……あのね、これは秘密の話なの。」


 話すか否か迷っているようだったが、もう一押しすれば聞けそうだ。


「お願い! 秘密にするから聞かせて! ほら、咲も!」


 二人で頼み込むと、彼女はわかったと言ってこんな話しを聞かせてくれた。


「二つあるの。まず一つ目は図書館に出る髪の長い女! 図書館に行くといつもいて、黒くて長い髪が特徴の女。……実はね、私一回話しかけたことがあるの。そしたら、『あなたもおーてんきょうににゅーしんするの?』って言われて怖かった……」


 ……帯刀じゃねぇーか。しかしあのぶっちょさん、自分が怪談の一種になっていることなど知る由もないだろう。逆に帯刀じゃないとしたら、それはそれで怖い。それはさておきもう一つの話を聞こう。


「もう一つの話はお姉ちゃんから聞いたんだけど。図書館には読んじゃいけない本があるんだって。その本はいつもはないんだけど、知らないうちに出てきて、その本を見るとすごく読みたくなるって。だから本が見えたらもう二度と図書館には入っちゃダメだって言ってた。」


 これだ。間違いなくこれだ。遠回りのつもりだったが、急に確信的な話が飛び出してきた。


「……見えた後入ったらどうなるの?」


 私は少し緊張気味に話す。


「んー、そこまでは知らない。でも最後には頭がおかしくなるんだってお姉ちゃんが言ってた。」


 心臓が高鳴る。私はもう三度訪れており、前回は身の危険を感じるほどだったわけだ。……図々しい話だが、ここは綾乃ちゃんのお姉さんに聞いてみたい。


「ねぇ、綾乃ちゃん。もしよかったらお姉さんにも話を聞けないかな? 今日じゃなくてもいいからさ。」


 彼女の顔が曇る。聞いてみるとお姉さんは、最近ほとんど人に会っていないそうだ。


「聞いてみるけど、期待しないでね。」


 ひとまずはこれでいいだろう。一応彼女から聞いた噂話はすべてメモし、今日のところは退散する。


「今日はありがとね。明日もう一回来てみるから、その時どうだったか聞かせてくれる?」


 私が話すと、綾乃ちゃんは頷いて部屋を出ていった。それから野本先生に挨拶をして、小学校を後にする。


「しかしすごい収穫あったねー! まあ私の話は全然違うみたいだったけど……」


 案外気にしたみたいだったが、そもそも咲が話をしなければこの話は手に入らなかったわけで。


「咲、ケーキ買って帰ろうか。」


 笑いながら咲の手を引く。彼女は小さく、


「やったー!」


 と微笑んでいた。友達とは本当にいいものだ。

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