Part3「金曜日のライオン」
三日が経った。
目覚ましで起きる清良。
「よしっ」
目を覚ますといきなり変身した。それも直接「蒼空学園」の制服姿だ。
「おっはよう」
まだ大して時間が経っていないはずなのに、姿のせいで女性的に感じる「聖奈」の態度。
「おにい…お姉ちゃん。なんだか張り切ってない?」
妹・理恵が疑問をぶつける。
「そ、そんなことないわよ」
早々と女言葉が出てきた。
「……もしてして、女子高生として過ごすのが楽しいの?」
「べ、別に。そりゃみんな優しいし、雰囲気柔らかいし、日々平和だし、なんか女の子も悪くないかなぁ……なんてこれっぼっちも思ってないからっ」
白状しているも同然である。
さらには登校したらしたで
「まりあさん。一緒にお弁当食べましょ」
すっかり女子高生として溶け込んだ聖奈。
変身すると女性人格になるのも手伝い、あっという間に打ち解けていた。
そしてその柔らかい間柄が心地よく思い始めていた。
思えば『高岩清良』としては喧嘩の日々。
女子化したセーラに至っては異形たちとの戦い。
こんな風に安らいだ関係はなかった。
(このまま卒業までここにいてもいいかな……)
そんな事すら感じてしまうほど、居心地のいい場所だった。
「あら。みなさんも今から?」
「糸井さん。はい。そうです。ご一緒にいかがです?」
麗華の問いかけに答える詩穂理。
隣のC組である麗華は、合同の体育の授業で一緒になることもあり詩穂理と面識が出来ていた。
麗華は詩穂理の知識と教養に一発で惹かれた。
「そっちはどう?」
放課後。聖奈。麗華。順子は集まって情報交換をしていた。
「ええ。昨日はあすかさんと手合せいたしました。さすがに空手では一日の長がありますわね。でも今日は剣での勝負。これは負けませんわよ」
「誰があんたの部活の話を聞いてんのよっ」
珍しくブレイザがボケてセーラが突っ込んでいた。
「まぁいいわ。そっちは?」
「はい。昨日はミケちゃんと池袋に出て。あんな世界もあったんですねぇ。男の子同士の恋の物語」
うっとり陶酔した表情の順子。ものの見事に染め上げられ設定抜きで腐女子化していた。
「見てください。これ」
裸の男子が絡み合うカバーイラストの小説だった。
「うふふふっ。す・て・き」
芝居している様子ではない。本気で腐女子化していた。
また「嫌悪感」を抱かないあたり、精神の女子化もかなり深い。
ため息をつく聖奈。
「はぁ……あんたたちわかってる? あたしたちはここに女子高生しに来たわけじゃないのよ」
「わかってますわよ。でも」
「なんだか夢みたいで」
元々女性化願望のあるジャンスは分かるが、ブレイザまで染まったのは意外だった。
「まぁ気持ちはわかるわよ。戦いの日々に比べたらあまりに心地よすぎるわ」
「心地よすぎて戻りたくない気分ですわ」
本来の伊藤礼は生徒会長で重圧もすごい。
文武両道の模範生徒とまで言われている。
それがここでは「ただの女の子」である。
安らぎを感じても無理はない。
これでもし「恋」までしたらもう戻れないのではないか?
それほど甘く危険な時間だった。
「どうして……薫子さんはあたしたちを女の子としてこの学校に行かせたんでしょうね?」
順子が不意に言う。
「どうしてって……そりゃ調査のためでしょ?」
「それはもちろんですけど、なんでこんなに意識の変わりそうなことをと思って」
「言われてみればそうですわね」
ブレイザも単なる調査と思っていたようだ。
「思うんですけど……あたしたちはちょっと折り合いが悪いですよね」
「だから女の子にしたというの?」
「女の子は人とうまく折り合いつけようとしますからね。それであたしたちにそれを学ばせたくてとか」
「なるほど。だとしたらこの生活も無駄ではありませんわ」
「無駄じゃないかもだけど無理よ。あたしたちには本来の暮らしがあるのよ」
誰が聞いているかわからない。「本当は男」というのは口にしない聖奈。
「確かに心地よいわ。でもそれにおぼれるわけにはいかない」
表情を引き締める。
「一刻も早く真相を突き止めないと」
「あ。こんなところにいた。聖奈さん」
テニスウエアのまりあが探しに来た。
「まりあさん。あれ? もうそんな時間」
「そうよ。今日はテニス部の体験入部でしょ」
((はぁ?))
順子と麗華は唖然とした。お前は今、何を言った?
どっぷり女子高生生活にはまっているのを見て呆れていた。
まりあはその空気に気が付かないのか、笑顔で続ける。
「体育の時間で聖奈さんが動けるのは見てたもの。きっとうまくいくと思うわ」
「えー。でもあたしテニスは初めてなのぉ」
「もちろん教えてあげるわ」
「よろしくお願いするね」
「それじゃ行きましょ」
「はーい」
ぶりっ子声で返事をして聖奈はまりあについて行ってしまった。
後に残される麗華と順子。
「……何であんな人にお説教されたのかしら?」
「聖奈さんもばっちり女子高生ライフを堪能してますね」
いつの間にかすんなり偽名が出るようになってきていた。なじんでいるからか?
「さて。わたくしも道場に行かねば。今日はあすかさんと剣で勝負ですわ」
「あ。あたしも。家庭科室で美鈴ちゃんにレシピ教わるんだった」
三人ともものの見事に「謳歌」していた。
家庭科室。
こちらも体験入部という形の順子。
部活の特性もあり女子ばかりである。
「黒一点」なのが大地大樹。
この部にいる妹・双葉のために見学と称して付き添っている。
そして順子にとっても用のある人物だった。
「わぁ。転校生ですか?」
金髪のツインテール。そして縦ロールまでブレイザと同じ少女がいた。
「初めまして。アンナ・ホワイトです」
「あたしは風見千尋です」
短いおさげ髪が二つ。
聖奈がいたら風見裕生との関係性に考えが及んだであろう。妹なのだ。
「…………大地双葉です」
見た感じ穏やかに思えたセミロングの少女。
(あれ? この子になんでこんな態度取られているの?)
順子には心当たりがなかったが
「始めるぞ」
美鈴を通じて知り合いになった大樹が順子に言う。
ますます面白くなさそうな表情になる双葉。
(あ。なんとなくわかっちゃった)
順子は事情を察した。
「フタバ。お兄さん好きなのはいいけど、そんな顔しちゃダメです」
「そうだよ。あんたお兄さんに近寄る女にみんなそんな表情するの?」
「千尋ちゃんだってアンナの騒動の時はあわててたじゃない」
「あ、あれは別に」
仲が良いのは分かるやり取りだった。
「はーい。そろそろ始めますよ」
この場の責任者。美百合の言葉で収まる。
今は料理作りの最中だ。
周りはみんな女の子。
それも家庭的な行為の最中故か柔らかい雰囲気が漂う。
(なんだかますますふわふわしてきたわ。ましてや今は本気で番長に食べてもらうためのお料理をマスターしてるところだし。ますます女の子っぽいわね)
そしてそれが決して悪い気はしていない。
元々願望のある彼女である。悪い気がするはずもない。
「あら。お上手ねぇ」
家庭科部部長。栗原美百合が柔らかくいう。
「あ。そうですかぁ。ありがとうございますぅ」
「本当よ。お家でいつもしているの?」
「はい。やっぱり女の子ですもの」
実は完全な嘘でもない。
自宅でも積極的に家事を手伝う。
その際に女装して『女の子』の気持ちになっているのだ。
だから現状と精神面では違いがない。
ただ今は本物の女の子である。
調理が終わり試食となる。
「あら。美味しい」
ほめる美百合。珍しく糸目が大きく見開かれているから、その驚きのほどがわかる。
「美鈴も食べていい?」
好奇心を押さえられず、美鈴は試食を申し出る。
もちろん断るはずはない。
「ほんとだぁ。とってもおいしい」
「ありがとー。あまりやったことないものだったから不安だったのぉ」
満面の笑みの順子。
「でも、今回は女子だけじゃだめなのよね」
順子は取り皿にいくつかとり、見学していた大樹の元に歩み寄る。
「あの、試食してもらえます?」
30センチ以上もの身長差があるあいてゆえに『自動的に』上目遣いになる。
見様によってはアプローチをかける女だ。
恭兵のように端正な顔をしているわけではない。
むしろいかついので女子に妬まれる心配はなかったはず。
だが、殺気めいたものを順子は感じた。
(あはは。これが話に聞くブラコン少女か……)
事前に注意されていた大地大樹の妹。双葉。
彼女が並はずれたブラザーコンプレックス故、あまり刺激しないようにと美鈴が注意していた。
(ごめんね。でも男の子の舌で確かめてもらわないとダメなのよ。いつもなら自分で味を見るけど、今はあたしも女の子だし)
「ん」
ホントにしゃべらない男。大樹がちょっと唸って箸をとる。
口にいれ、味わって、飲み込む。
「ああ。いい出来だ」
「ほんとですか?」
思わず抱き着いてしまう。
「「あーっ」」
声が上がる。それも「二人」だ。
(え? 今の美鈴さんの声?)
おとなしい少女と思っていたがこんな声を?
振り返るとおよそ彼女らしからぬきつい表情で順子を凝視していた。
(あ…ははは。やりすぎたみたーい)
そっと大樹から離れる順子。それで少し殺気が収まった。順子は反省する。
(考えてみれば妹さんをダシにして、あたしが大地君に手をよださないようにけん制してたのね)
やはり本物の女の子のヤキモチは違うなと、妙な感心をする順子だった。
四日目。この日も動きはない。
普通に授業が進む。現在は体育。
この学校では男女でわけない時もある。
今回はそれでソフトボール。半ばレクリエーションとしてのものだ。
クラスを男女混成チームで紅組と白組の二つに分ける。
聖奈は紅組のセカンドを守っていた。
ショートは優介。センターに恭兵がいる。
そのアクシデントは白組のまりあが打ち損じたときに発生した。
ふらふらと打球が上がる。
後ずさりながら打球を追う聖奈。
さらにショートの優介も追っている。
ところがさらにセンターから恭兵も突っ込んでくる。
誰も取れなかった。
揃って打球に意識が行き過ぎ、周辺が見えていなかった。
寸前でそろいもそろって気が付いて、あわててブレーキをかけたが勢い止まらず。
三人で転倒した。
しかも優介が聖奈に覆いかぶさり「押し倒した」形で、さらにそれを恭兵が「聖奈を背中から抱きしめる」ように受け止めていた。
「あーっ」
バッターランナーのまりあがヒットにもかかわらず、塁を離れて倒れている優介の元に駆け寄る。
さらにもう一人。白組陣営から血相を変えてなぎさが飛び出してきた。
「優介から離れてよっ」
「聖奈。あんたまさかキョウ君と」
好きな相手のけがを心配したわけではなかった。
むろん転校生である聖奈を気遣ってもいない。
この場面ではむしろ「敵視」していた。
友好的な態度が嘘のように怒っていた。
「お前はなにを言ってるんだ? ぼくが女を抱きしめるはずがないだろ」
立ち上がりながら優介が言う。
この時ばかりは優介の性癖がことを鎮めた。
「そ、それはそうかもだけど……いやなの。わたし以外の女の子とこんな密着」
「なぎさ。お前もここ最近変だぞ? 僕がこんな程度したくらいで」
ここでも恭兵の『女癖の悪さ』がことを鎮めた。
確かに故意ならばもっとすごいことになってそうである。
「い、いいから離れてよっ。聖奈のお尻がキョウ君のその……大事な部分にあたってるのよっ」
顔を真っ赤にして言うなぎさ。
「えっ?」
実際は外れているが、確かに角度によってはそう見える。
それを察した聖奈はもっと赤くなって離れる。
(よかった……男の子に抱きしめられてときめいたりしてなかった。ギリギリのところでまだなりきってはいないわね)
聖奈……むしろ清良は安どした。
それゆえなぎさとまりあの態度の異常さを「女の子のヤキモチ」程度に捕らえてしまった。
そう。「女の子のヤキモチ」で済ますには、あまりにも負の感情が強すぎた。
金曜日。ついに動きがあった。場所は食堂。
昼食のトレーを持って移動するまりあが、あまりの混雑に誤って生徒会長の海老沢瑠美奈とぶつかった。
「貴様!」
三人の生徒会役員を従えていた瑠美奈。
そのうちの一人。巨漢の世良が激昂する。
「ご、ごめんなさい」
おびえて謝罪するまりあ。
確かに非はあるが異様な怯え方だ。
それをいきなり平手打ちする世良。
「きゃあっ」
地面に這いつくばる形になったまりあ。
「誠意が足りないわね。謝るというならもっと誠意を見せなさい」
冷たい口調で言う瑠美奈。
「ど、どうすれば?」
「貴女いつも私の額をからかっていたわよね。笑うくらいだからさぞかしあなたの額は立派なんでしょう」
これは聞いていた。
「そのご立派なオデコを床にこすり付けて謝りなさい」
「なっ!?」
いくら遺恨があり、そしてぶつかった非があるとはいえど非常識な要求だ。
「嫌ならいいんだぞ。お前ら全員、強制的に瑠美奈様のしもべにするだけだからな」
栗生のこの言葉を、単純に生徒会のメンバーにされ、下働きをさせられると解釈したものが大半。
「ふっ。今の心は消し飛び、自分が何をしてるかもわからぬままになるかな」
まるで自分が優位であるかのように手越が言う。
「ぐっ」
まりあは屈辱をかみしめつつも、膝を床に着け、額を床にこすりあわせて謝罪した。土下座だ。
「も、申し訳ございませんでした」
あまりの異様さに誰も言葉がなかった。
高々ぶつかっただけ。それも不可抗力てここまでするかと。
しかし生徒会に逆らうと、自分たちもあの強制性転換をされたものたちのようになりそうで、誰もまりあの味方にはつかなかった。
「おーっほっほっほーっ。いいざまね。まりあ。あなたは達はこの三人がいる限り逆らえない。ずっとそうして地に這う虫けらのようにしているといいわ」
一人瑠美奈の気持ちよさそうな高笑いだけが響く。
代わりに聖奈が怒った。
「ちょっと。あんまりじゃない。彼女は謝ってんのよ」
芝居とか作戦ではなく心からまりあのために怒っていた。
「聖奈さん……」
知り合って間もない彼女が、自分をかばってくれたことに感動するまりあ。
「いくら非があるとはいえどこれはやりすぎよ」
ここで「作戦」になる。
「これがこの学校の生徒会なの? まるで恐怖政治じゃない」
手越の眉がびくりと動いた。
「生徒会批判とはいい度胸だ……貴様。見ない顔だが転校生か?」
「2年D組。高石聖奈よ」
餌はまかれた。後はつられてくれるのを待つ。
放課後。聖奈は意図的にぐずぐずしていた。
そして下駄箱で穿き替えると、校門へと抜けるグラウンドには向かわず、裏門から抜けようとする。
思い切り遠回りである。だから人気もない。
まさに「襲ってください」という状態である。
むろんこんな見え見えの罠にのっかるバカもない。
ただし、それは普通の人間ならだ。
自らを人類の進化形と信じているアマッドネスにしたら「罠」でも「挑発」でもなく「自殺行為」にしか見えないだろう。
聖奈の態度もまさに「はねっ帰り娘」だったので尚更だった。
聖奈には「嫌な予感」がビンビンにしていた。
「いつもの感触」……アマッドネスがいるのを察知している。
この狭い校内だ。麗華と順子も間違いなく感じている。
そして笑いが出るほど「予想通り」に「奇襲」が来た。
「何者か」が突進して、体の鋭い部位を聖奈の背中に当てた。
だが予知されていれば奇襲にならない。
当たった勢いで飛ばされるが、むしろ間合いを取るために意図的に飛んだところもある。
襲撃者は得意げに言う。
「他愛もない。さぁ。お前も奴隷に……何っ?」
腕だけを怪物化させていた手越が驚く。
聖奈は全くの無傷だ。
「やはり来たわね」
聖奈は冷静に言う。
「貴様……確かに貫いたはずなのに?」
服も無傷だ。
「これは特性よ。魔力でできた布の鎧」
いうなり聖奈。いやセーラは通常のセーラー服姿に右に赤。左に青のガントレットというエンジェルフォームに姿を変える。
「お、お前は?」
「拳の戦乙女。セーラ」
「そしてわたくしが剣の戦乙女。ジャンス」
蒼空とは違うデザインのブレザー姿のブレイザが小太刀を手に現れた。
「あたしは射抜く戦乙女。ジャンス。おっと。ロックオンしてるから動かない方がいいよ」
ジャンパースカートの制服に着替えたジャンスが、変身アイテムでもある弓で狙いを定めている。
「くくくく。まんまとおびき出されたというわけか」
不敵に笑う手越。
「こちらは三人ですわ。そちらもお仲間を呼んではいかが?」
一網打尽というつもりのブレイザの発言。
「無用。どうやら貴様らが話に聞くミュスアシの戦乙女のようだな。だが三人もいらぬ。我一人で十分だ」
その姿が変貌してく。それ自体は見慣れている。ただ
「何? この姿?」
哺乳類でも鳥類でも魚類でも植物でも昆虫でもないフォルム。
「こいつはなんのアマッドネスですの?」
強いてあげると爬虫類が近い。いや。これはまさに……
「くっ。卑怯とか言ってられないわ」
ジャンスが耐え兼ねて光の矢を放つ。ところがそれは強固な皮膚に弾き飛ばされた。
一本の毛もない。その「爬虫類」は。
「くくく。我はステゴザウルスの能力を持つもの」
「恐竜!?」
三人の戦乙女は驚愕する。




