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Part2「HUMAN SYSTEM」

 (間違いないわ。アマッドネスに襲われて、女にされた上に意志を奪われ「奴隷女」と化している)

 ここでふと酷い怯え方のまりあたちが気になった。

(名前すらして女性のようだけど、同世代の同性に様までつけるかしら? でも逆に「おびえている」なら「感情」はあるということで、奴隷女ではなさそうね)

 なぎさたちが手にかけられたわけではないと結論付け、安堵した自分に今度は驚いた。

(今日知り合ったばかりなのに、まるで昔からの友達を心配しているかのよう。なんで?)

 その時は「人が人を案ずるのに不思議もない」と考えた。


 授業が進みお昼休み。

 食堂の位置を案内してもらうことにした聖奈。

 学年もクラスも関係なく人が集まる食堂なら、情報収集にはもってこいだった。

「いいわよ。それじゃお弁当は食堂で食べましょ」

 詩穂理に頼んだがまりあが了承した。

 あげく四人でついてきた。

(これが女子の連帯行動か。トイレまで一緒に行くのって本当なのかしら?)

 自身も現在は一介の女子高生だが、ちょっと不思議に思う聖奈。


 当然だが昼食時間の食堂は人でいっぱいだった。

 聖奈は食事を乗せたトレイを持ちながら、空いているテーブルを探しているがなかなか見当たらない。

 だが見知った顔はすぐにわかる。声をかけられた。

「セー……聖奈さん」

 本名に近い名前にした意味がいきなり出た。

 ジャンス……ここでは「順子」があやうくセーラと呼ぶところだった。

「ジ……順子。あなたもここで?」

「うん。あ。一緒にどうです」

 空きがあった。

「ありがとう」

 礼を言って落ち着きかけたが、案内してくれた詩穂理たちが気になる。

「こっちは外で食べるから」

 あまりの混雑ぶりに弁当組の彼女たちは遠慮した形だ。

「ごめんね」

 自然にそういう言葉が出た聖奈。

「お知り合い?」

 順子の傍らの少女が声を発した。

 実はその頭の上が気になっていた。何しろ「ネコの耳」なのだ。

(……アマッドネスならもっと化け物じみているわね。どうも普段のくせで)

「紹介するね。ミケさん。こちらはたかい……高石聖奈さん。昔からの知り合い」

 策士のジャンスだが、さすがになじんでない偽名はぼろが出かかる。

「聖奈さん。こちらはクラスで一緒の里見恵子さん」

「さと『み』『け』いこで『ミケ』だにゃ」

 そのメガネの少女は語尾までおかしかった。


 そのままランチタイム。そしてしゃべらせる。

「うーん。そうだにゃ。二学期になってからは生徒会が凄いにゃ」

 噂話の好きな少女だった。いろいろと情報を提供してくれた。

「なんか会長に逆らうと数日後には言いなりになってて。それが男子だとなんと女の子になっちゃうんだって」

(やはり)

 黙考する聖奈と順子。

「あれ? 信じてないにゃ? それ本当なんだよ」

 もっともな反応だ。こんな「突拍子もない話」だけにスルーと勘違いした。

 だがスルーどころか二人の頭はフル回転していた。

「ねぇ。もっと聞かせてくれる。ミケさん」

 順子がにっこりと笑って、先を促した。


 一方、こちらも案内されていた麗華ことブレイザ。

「あらぁ。見ない人だわ。もしかして転校生?」

 リボンの色が緑色。学年が違うかと麗華は考えた。

 初対面だし、見た感じも年上なので態度をおとなしく。

「初めまして。糸井麗華と申します。今日転校してきたばかりですの」

「まぁ。これは丁寧に」

 その栗色の髪の糸目の少女は、母性を感じさせる豊かな胸をゆらして挨拶をした。

「私は栗原美百合くりはら みゆり。三年生よ。それじゃ」

 あいさつ代わりに抱き着かれた。

(え? え!? えっ!)

 まさか初対面の女性に抱き着かれるとは思ってなかった麗華は驚く。

「はぁ……」

 知っていたあすかはため息をつく。

 彼女にとって雰囲気の柔らかすぎる美百合は、気をそがれて苦手な相手だった。

 上級生ということもあり、怒鳴りつけたい思いを堪えて代わりにため息が出た。


「えーと……転校生さん」

(名乗ったのに?)

 天然ぶりにまた驚く麗華。

「頑張って。私たちはまだ成長の余地があるわ」

 目ではなく「胸」を見て言う。

「それにAAカップだと可愛いデザインの下着も多いから」

「…………ほっといてください」

 本来の男だったら胸が平らなのは何ともない。

 しかし変身して精神も女性化すると、その平たい胸元は途端に泣き所になるブレイザである。

(初対面の相手にまで……しかもカップサイズまで言い当てられるなんて)

 本気で泣きたくなってきた。


 放課後。まりあたちが校内の施設を案内してくれるとなり、それならばと麗華。順子も同行させた。

「えーと、実は小学校が同じで。まさかここでこうして再会なんてびっくりしてますぅ」

 口から出まかせなら順子ことジャンスだ。

 もちろん一応口裏は合わせてあるが、こうもよどみなく言えるのも特殊能力の一つではないかと。

「わぁ。なんかロマンチックですね」

 こういう乙女な展開に弱い美鈴が同意した。

「ですよね」

 純正女子と本来は男子の違いはあるが「女子力の高い者同士」で意気投合してしまった。


 二年生の教室は二階にある。その前の廊下で合流した一同はまず三階へと。

 音楽室。理科室などを案内する。

 そして図書室。

「まぁ。とても落ち着いたいい図書室ですわ」

 古めかしさがむしろ雰囲気を出していた。麗華はそれを言っていた。

「わかってもらえます? みんな近代的なのを好むんですが、こういう雰囲気はとても落ち着けますよね」

 穏やかで落ち着いた印象の詩穂理が「理解者」を得たということか興奮気味に麗華の手を取る。

「最近は電子図書とかもはやりですけど、やはり紙の手触りというのは捨てがたいと思うんです。汚れとかも本の歴史ですし」

 彼女には珍しくまくしたてる。

「あの……槙原さん?」

 麗華に言われて我に返る詩穂理。

「はっ? ごめんなさい。私ったら」

 ほほを染める。高校生とは思えないレベルの美貌と巨乳。

 しかしこの時はとても可愛らしく詩穂理が見えた。

 麗華は微笑んだ。

「それだけ本というものに思い入れがある証拠ですわ。本を読むだけでなく、それを自分のものとして初めて『教養』ですが、貴女は多分教養もおありと見受けましたわ」

「そんな。私なんてまだまだです。糸井さんこそ気品を感じます」

「麗華でよろしくてよ。わたくしもあなたのことをお名前で呼ばせていただきますから」

「いえ。苗字にさん付けは私なりの親愛の印ですので。でも私のことは名前でいいですよ」

(意外に頑固そうですわ。でも、語り合ってみたいものですわ。こういう教養のある方との時間は有意義でしょう)

 麗華は詩穂理を気に入った。

 そして詩穂理も麗華のことが気になりだした。


 一階に行くと家庭科室がある。

「美鈴はここを使う家庭科部の部員なんです」

 得意ジャンルだからか美鈴には珍しく得意げに言う。

「美鈴さんのお料理はとても美味しいんだから」

「へぇ。それはぜひ一度ご賞味させていただきたいですわ」

「ほんと!? ねぇ。それなら今度何かレシピおしえて。彼にごちそうしたいの。彼ってば体がとても大きくて、たくさん食べるから美味しくてボリュームのあるもの」

 本来は男の戦乙女たちであるが、設定として順子と麗華は彼氏持ちということになっていた。

 いうまでもなく男よけ。

 順子は一つ年上の岡元三郎を。逆に一歳下の森本要を彼氏ということにしているのが麗華。

 困ったのが聖奈。そういう男子がいない。

 結局彼氏なしということにした。


「わぁ。それじゃ今度おしえてあげますね」

 ますます意気投合する順子と美鈴。

 にやにや見ているなぎさとまりあ。

「ふっふーん。そりゃ得意よねぇ」

「何たって大地君も大きいですものね」

 クラスの巨漢のことだと一発で理解した。

(なるほど。大柄な彼氏持ちという共通点があったのね)

 納得してしまった順子である。


「ところでまりあさんたちはお料理は?」

 言われた瞬間にまりあは目をそらした。しかも真後ろに。

(あ、だめだな。こりゃ)

 一瞬で事情を察した聖奈。


 今度は離れに行く。

 講堂。体育館。道場など案内する。

「道場まであるのですか? しかも二か所」

「ああ。剣道とかで使うのと、柔道とかで使う畳の道場の二つがね」

 体育会系となるとなぎさの出番。案内も任された。

「なぎささんは武道のほうは?」

「あたし? やったことはないよ。形だけ教えてもらったことはあるけど、殴り合いは趣味じゃないよ」

「なるほど。でもそこに互いを高めあうという思いがあれば、それは研鑽であり、暴力でないとご理解いただきたいですわ」

「あ。ちょっとわかるかな」


 さらには

「じゃーん。ここが温水プール。あたしもたまに全身トレーニングとして使わせてもらってるんだ」

 なぎさに限らずあらゆる運動部がトレーニングの一環として使っていた。

「すごい。ここ天井がガラス張り」

 聖奈が驚く。

「うん。太陽光も取り入れたいということらしいよ」

「藻が発生したりして」

 順子のツッコミ。

「ちゃんと消毒してあるんだから大丈夫だよ」


 一通り回って今度は三人だけで情報交換する戦乙女たち。

「やはり生徒会ですか?」

「怪しいみたいね。何か勢力を伸ばしているようだし」

「だとしたら明日はうってつけみたいですよ」

「?」「?」

 怪訝な表情の聖奈と麗華に順子は説明した。





 二日目。火曜日。講堂で生徒総会があった。

 特別なものではなく定期的なもので九月はこの日だった。

 聖奈。麗華。順子も編入したクラスの一員としてこれに参加していた。


「それではこれより生徒総会を始めます」

 細身の少年。髪もどこか女性的な長さの生徒会役員が司会として宣言する。

「始めに生徒会長のお話」

 少女が立ち上がる。

 特徴としては広い額。極端に前髪が少ない。

 反面後ろ髪は長く背中に達している。それを太編みにしている。

 勝気そうな……人を上から見下した表情だった。

 生徒会長は大男の副会長にエスコートされてマイクの前に。

「おはようございます。生徒会長の海老沢瑠美奈です」


 後に分かるが海老沢瑠美奈えびさわ るみなは日本でも有数の大手企業のトップの「令嬢」だった。

 そしてまりあも実は「お嬢様」で、実家がライバルというのもあって、この二人のいがみ合いは定番だった。

 ところが二学期に入った直後に異変が起きた。

 完全にまりあは「下僕」同然の扱いになった。

 どういうわけか全面降伏。まったく逆らわない。いや。逆らえない。

 なぜか直接の関係がないはずのなぎさ。詩穂理。美鈴も屈していた。

 だから異様に生徒会を恐れていた。


「皆様もご存じのとおり我が生徒会の人間が、何者かに襲われるという事件が頻発しております」

 ざわめく講堂。

「しかも男子生徒はことごとく女性化するという痛ましい事態」

 さらにざわめく。ここで栗生が小太りの男に目くばせする。

 その男は準備していた「少女たち」に合図する。

 真新しい女子制服をまとった7人もの「少女」が壇上に現れ、瑠美奈の背後に並び立つ。

「彼女たちはかつては私と意見をたがえるものでした。しかし、自身がこのような目にあったからか、今では信頼できる仲間になってくれました」

 ここで瑠美奈の傍に三人の少年が歩み寄る。

 「少女」たちを壇上に送り出した小太りの男。それをさして

「新書記・手越凱てごし がい

 ついで司会をしていた少年をさして「新会計。栗生翠くりゅう つばさ

 最後にエスコートしてきた大男。

「そして新副会長・世良二郎。この新たなる腹心たち。それに私を加えた四首脳をリーダーとする生徒会は、このような理不尽な暴力には屈しません。生徒の皆さん。どうか私たちをご支援ください」

 いい終わるとポツリポツリと拍手がわいてくる。

 不承不承という感じがありありだ。


「なーにが『暴力には屈しません』よ。要約すれば『生徒会長に逆らうとこういう目にあうぞ』ってアピールじゃない」

 本来の清良としての人格もあり、反感を感じていた聖奈。

 総会解散後それぞれの教室に戻りがてら感想を口にしている。

「さて。単純に考えるとあの新しい三人の男子役員がアマッドネスで、反対するものをすべてああしてしまったというところでしょうが……どうしてあの生徒会長に従っているのかが謎ですわ」

 右手の人差し指を顎に当てて思案顔の麗華。

「うーん。決めつけるのは危険だけど、ダミーなんじゃないかなと。意図してお飾りの上役をおいといて、自分たちから目をそらすと」

「陰謀を語らせると妙に説得力あるのよね。ジャ……順子は」

「ひっどぉーい。なんですか? それ」

「あはは。ごめんごめん」

 笑ってごまかす聖奈。


 退屈な授業が進む。

 しかし戦乙女たちはアマッドネス出現に備えて神経を張り巡らせている。

「偽装女子高生」のほうは、精神の女性化という特性が生きて、意外に問題なかった。

 いや。ある意味では問題ありすぎであった。

 あまりに心地よいのである。

 和を尊ぶ女子たち。

 転校生である三人に友好的にしてくる。

 それに合わせるが、そのふわふわした空気が心地よすぎた。

 戦いに来たはずなのに、むしろ和んでいた。


 わずか二日。しかし完全に女子として扱われて一日を過ごし、演じているのと、周囲の影響でいつも以上に深いところまで女子化しているのを感じていた。

 そしてそれを嫌がっていない自分に驚いている。





 放課後。道場で対峙するあすかと麗華。

 単に付き合っての部活見学のはずだったが、あすかの誘いに乗ってこうして『手合せ』となった。

 ちなみにたまたま通りかかった裕生。そして詩穂理が「見学」を申し出た。

 麗華に許可した手前もあり断れず、裕生たちの見学も許された。

 詩穂理のほうは興味なしどころか立ち去りたいという思いがにじみ出ている。

 頭脳明晰な彼女だが、運動面はさっぱりである。

 ましてや格闘技となるとなおさらだ。

 それでも真面目な彼女は「付き合うからには」と正座をして見学していた。


 麗華の道着は借り物。「能力」を使えば変換できたが、普通の女の子にはできないこともあり、素直に借りた。

「よろしくお願いいたしますわ」

「いくぞ」

 いうなりいきなり顔面めがけての正拳突き。とてもではないが「女相手」の攻撃ではない。

 それを見きって最小限の動きでかわす麗華。

 あすかが攻撃の後で防御に回りきれていないところに、お返しとばかりに頬をめがけて軽く右の甲を払うようにふる。

 体勢が崩れている。わずかな力で十分にバランスを崩せるという意図。

 しかしさすが黒帯のあすか。こちらはさらに捌いて攻撃を仕掛ける。

 だが麗華も軽くしていたのが功を奏し、体は流れていない。

 体勢を低くすると、そのまま足を払いにかかる。

 飛びのいて後退するあすか。

 約2メートルの間合いで互いの視線がぶつかり合う。

 だが、どちらからともなく笑みがこぼれる。


「やはりな。見た目や言葉遣いに騙されるけど、あんた『武人』だな」

 間違っても女子に対する評価ではない。

 だが麗華はそれを賛辞と受け取った。

「空手は門外漢ですが、剣を少々嗜みますの。そのおかげですわ」

「剣道三倍段か。だか素手でこれなら黒帯も狙えるんじゃないか? どうだ糸井。女子空手部に入らないか?」

 何のことはない。スカウトが目的だった。

 今のもテストだ。

「光栄ですわ。ですがお稽古事が多くて、部活動は無理ですの。ごめんあそばせ」

 嫌味に取れなくはないセリフであるが

「そうか。それは残念だな」

 体育会系の良い点が出た。引き際がいい。

「だが気が変わったらいつでもこい」

 やはり少しは未練があるようだ。


(ふう。こんなことをしてしまうなんて)

 実際の話、彼女の任務の上では無意味な行為である。

 しかし女子として通学を始めたからなのか。

 なんとなくだがむげに断れず。

 女子空手部を見学しているうちに、その気になっていた。

(しかも楽しかっただなんて……本来ならわたくしは男で、女子相手に拳を向けるなどあってはならないことなのに。それなのに「女同士」の『部活』が楽しくて)

 ちらりとあすかを見る。微笑んでいた。

(思えばこんな風に部活を楽しむなんて初めてかも。いつも周囲の期待に応えようとしてばかりで。こんな風に楽しむためだけなんて初めて。それに……女の子同士というのも悪くなかったですわ)

 そう。麗華はわずか二日で「女の子としての学園生活」になじみ始めていた。


 突然拍手が鳴り響く。

 驚くとそれは見学の裕生だった。

「いやぁ。お見事だったぜ」

 自分に向けられたものだろうと麗華は察した。

「糸井だっけ? あんたスタントマンに興味ないか?」

「スタントマン? あの映画で危険なシーンを代行する?」

「ああ。オレの親父が元スタントマンで。もっとも『スーツアクター』というのが近いが。オレも目指しているんだ」


 事情は分かった。しかしどうして自分に声を?

「あんたの動きなら十分いけると思うんだ。なかなか女であれだけ動けるのもいないし、男が女役をやるにもやはり女にはかなわねえところがあるから、めぼしい奴には声かけてんだ」

「風見。そんなだから綾瀬には煙たがられるんだぞ」

 あすかのツッコミ。

「あいつも抜群の運動神経だしな。だが糸井のほうがもっといいかも」

 どんなジャンルであれ高評価されば悪い気はしない。つい話に乗ってしまう

「わたくしの方がよいというのはどの点でですか?」

「胸。スーツ着ると邪魔になるはずなんだが、あんたならその心配もないだろ」

 麗華は思わず刀を手に仕掛けた。

「もう。ヒロ君たら。失礼でしょ」

 だが先に詩穂理が制したので矛先を収めた。

 正直助かったという思いの麗華。

 しかし詩穂理に笑みはない。

 元々ややきつめの顔立ちだが、それが敵意すら感じられた。

(あー。ヤキモチ焼かれちゃったみたいですわね)

 麗華はそう解釈した。

 その間に詩穂理と裕生は出て行った。

 詩穂理が裕生を引っ張っていったのだ。


「あいつもなんか変わったな」

 あすかが言う。

「どちらがですの?」

「女のほう。槙原だ。元々硬い女だったが、最近は何かとげを感じさせる」

(確かに、昨日の時点では知的な印象しか受けませんでしたが)

 とはいえどいくら理知的な女子でも、自分の彼氏が他の女にデレデレしてれば愉快なはずもない。

(それだけのことですわね)

 深く考えず「よくある話」と麗華は片付けてしまった。








 そのころ、順子は池袋にいた。

 一度帰ってから着替えて。

 女子相手とはいえど待ち合わせ。可愛らしい服で決めてみた。

 花柄のフリルを多用したワンピースである。

(割と戦い以外でも変身することはあるけど、こうして本物の女の子と歩くなんて初めて)

 珍しく緊張していた。

 本来は男子ゆえに女子相手で緊張したのとも違う。

(うまくやれるかな?)

 この策士が珍しく疑念を感じていた。


「おっまたせー。おーっ。順子ちゃん可愛い」

「あ。恵子……さん?」

 確かに恵子の声だった。

 しかしショートカット。白いシャツにパンツルックだった。

「えへへへ。デートということで決めてきたぜ」

 男言葉でしゃべる。

「恵子さん。それって」

「男の子に見える? 一見メンズだけど全部レディースなんだよね。もちろんかつらだし。そしてナベシャツで胸潰してきました」

 本来男である順が順子として女子化。

 本来女子である恵子が男装していると、逆転カップルだった。


「この格好で『スマート本』を漁りに行くと『入ってくんな』って目で先客の女子がこっち見るんだよね。そこでいつもより高い声でしゃべると女だってわかって。その反応が面白くて」

(悪趣味……)

 ちなみに「スマート本」はもちろん電話ではない。

 スマートな本……薄い本……同人誌である。

「今日は『女づれ』だからなおさら引っかかりそう。さぁ。俺たちのイチャラブ見せつけてやろうぜ」

(まぁいっか。女扱いも本望だし。なんか面白そう)

 腹黒キャラは伊達じゃないジャンス。

「わかったわ。ダーリン」

 甘えてみせる。

「おーっ。乗りいいね。それじゃ行くよ。いざゆかん。BLの海へ」

(ええええ? いくら女の子になりたいといっても、それはちょっとレベル高すぎ)


 結果として、二時間後に順子は演技ではなく「本物の腐女子」と化していた。

 これも女子化の弊害ということか。


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