第二章
維縞開発会社との会合に、この数はと眉をしかめる者が多くいた。
大体は兵士たちだ。
直属の部下たちは、文句ひとつなかった。
平原に置かれたバスタブに浸かりながら、集められた彼らを前にして鼻歌混じりの命令だとしてもだ。
そのような態度をしていたのは決して傲慢さの表れではない。まして、パフォーマンスでもない。
この男は、常にこうなのだ。
あまりにも自然体なために、異様な風景も緊張感に欠けているとも思われずに済んでいた。
マテリア・フレームに跨って進む彼は、並みのプレート・メイルよりも防御力のある強化繊維でできたコートの前を開けて、目部下に尾のような者が頂点から後ろにぶらさっがったフードをかぶり、革のズボンをはいている。
白い肌に引き締まった痩身は高く、表情は涼しい。
二十四歳で、緊張感の感じられない柔和な容貌をしている。
赤汽隊隊長の汽示那だった。
彼は紅愚から連絡を受けていた。
イカヅチのメンバーと電影師が二人、この先で待っていたと。
普通なら紅愚に任せて、気にしないところである。
だが、汽示那の異様な想像力は、二人の組み合わせから一気にどのような存在であるか気づかせて、警戒の必要があると告げていた。
「二人と接触する前に、前衛を展開させる。決して見失うことのないように。本隊はこのまま前衛と合流する、左翼は街道からはずれなかがら、二人の後方に。右翼は街道を迂回して側面に移動させろ」
命令を下す。
相手がたった二人の少年少女と聞いた部下たちは、さすがに本格的な接敵の対応に、驚いた。
普段から奇行が多い隊長だが、何がどうしたのか。
二人しかいないというところにも、彼らが不思議に思ったところだった。
維縞と赤汽隊が組まれるのを阻みたいなら、もっと数がいて当然だろう。
暗殺者だとしても、紅愚に任せて軍兵を使うまでもないではないかと。
珂露はマテリア・フレームが展開するのに気づくと、足元にもう一体の影を出現させた。
紅愚はいつの間にか姿を消していた。
「あー、あんな程度の奴相手に手間取るとか、瑞稀さんも鈍ったなぁ」
やれやれと言いたげに、瑞稀は珂露の傍に戻ってきた。
少年は、不機嫌そうに口を閉じていた。
実際、怒りが沸いていた。
汽示那の暗殺が仕事内容だったが、明らかに別の意図で彼らが派遣されたことに気づいたからだった。
このまま逃げてもいいが、赤汽隊と一度ぶつかる必要がある。
「……沙深のド変態が。戻ったらただじゃ済まさねぇぞ」
思わず、小さく憎々し気な声をだしていた。
炎が小さくなったとはいえ、車のそばにいるのは目立ちすぎるので、岩の陰に二人は身をかくしていた。
とにかく、一撃を与える。
珂露はただそれだけを考えていた。
彼から伸びた三体目の電影が、大きく広がり、中からマテリア・フレームに乗った完全装備の機兵たちが出現した。
強化繊維のコートに、短めのライフルを構えた五百機の五列縦隊と、その後ろに五列横隊である。
何本もたつ赤い旗には、輝く黄金の文字で楼詞宮の文字が塗り染められていた。
突然、出現した機兵をみて、赤汽隊の前衛には緊張が走った。
「まさか、楼詞宮兵の正規軍!?」
誰ともなく驚きの声が上がると、前衛の兵士たちの隅々まで伝わった。
一斉に鬨の声が上がったかと思うと、楼詞宮兵は地を揺るがしながら、いきなり真っすぐに赤汽隊前衛に向かって 襲歩で駆けだした。
前衛もライフルの射撃で応じる。
何発も弾丸を暗いつつも、縦隊が前衛の隙間にねじ込むように突入し、すり抜けざまにライフルの射撃を見舞う。そのすぐ後ろから横隊の塊が銃剣付きのライフルを構えてぶつかってきた。
百機の赤汽前衛の陣内を二百の楼詞宮兵縦隊がかき混ぜるように駆けまわり、とどめに三百機の横隊が衝撃力で一気に崩す。
前衛はあっという間にバラバラに乱れて、戦力を失ってしまった。
すぐに、汽示那のところに報告が来る。
彼はうなづいて、先行させた両翼を戻させて、本隊は陣形に陣形を組ますことなく、そのままの行軍速度で兵を進めさせた。
前衛を一撃で粉砕されたはずなのにである。
さすがの部下たちも訝し気に困惑したが、大人しく従った。
指示を終えた汽示那は涼しい顔である。
楼詞宮兵が本隊に突撃してくるのではないかと恐れていた兵士たちは、いつまでもその様子が無いので、だんだんと落ち着いていった。
実際、珂露は赤汽隊と本気でぶつかる気はなく、存在を示しただけですぐに兵を撤収させていた。
汽示那の予想通りな展開だが、彼は別段誇るわけでも無く、ただ、のんびりと維縞開発会社との会合場所に向かった。




