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からくり空手  作者: 水前寺鯉太郎
第1部

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第5話:連打の旋律(メロディ)

『からくり空手』

第5話:連打の旋律メロディ


 「いいか、嵐。空手において、距離は命だ。だが――」

 秋吉道場の板間の上で、木村が軽やかなステップを踏む。彼の纏うからくりアーマーは、極限まで装甲を削ぎ落とした軽量型。その代わり、関節部には高精度の超小型モーターが幾重にも組み込まれている。

 「――俺の詠春拳に、距離なんて概念はねえ。触れた瞬間、そこがお前の終着駅だ」

 秋吉の合図と共に、嵐は『クロオビ』の電源を入れた。第4話での覚醒を経て、漆黒のアーマーは以前よりもスムーズに嵐の呼吸に応える。だが木村は、嵐が構えを完成させるよりも速く、懐へと潜り込んでいた。

 「速っ――!」

 正拳突きを放とうとした瞬間、木村の手が嵐の手首に吸い付いた。

 詠春拳の極意、黐手チーサオ。相手の腕に触れ、マブイの動向と筋肉の弛緩を察知して攻撃を封じる技術だ。嵐が力を込めれば、木村はその力を受け流し、同時に最短距離から拳を叩き込む。

 「一、二、三、四……おい、数えてるか?」

 雨垂れのような速度で、拳が胸板に、肩に、顎に着弾する。一撃の重さはない。だが、正確に『クロオビ』のフレームの結節点を叩く振動が、マブイ回路を撹乱していく。

 「くそっ、離れろ!」

 強引に振り払おうとすると、木村は柳のようにしなり、さらに深く潜り込んでくる。

 「お前のマブイは『単発』なんだよ。一発打って、次の一発。その間の空白が、俺には滑走路に見えるぜ」

 嵐は焦った。「質量の一撃」を放とうとするが、至近距離で腕を絡められたままでは、拳を加速させるための助走が作れない。

 (叔父さんなら、こんな時どうしたんだ……!)

 脳裏をよぎる、アンディの空手。華麗な蹴り技で知られていたが、その本質はリズムの支配にあった。

 「……リズム」

 嵐は、木村の連打の音に耳を澄ませた。トトトトッ、と刻まれる一定のテンポ。木村は一定の波形でマブイを送り込み、高速の連打を実現している。

 嵐は目をつぶり、『クロオビ』の出力を最小限まで絞った。「諦めたか?」と笑う木村の拳が、胸を打つ寸前――嵐の『クロオビ』が、一瞬だけ逆位相の振動を放った。

 「……なっ!?」

 木村の指先が、チェストピースに触れた瞬間、弾かれた。嵐は木村の連打のリズムを、自らのマブイの脈動で相殺したのだ。わずかに生じた、動きの淀み。そこへ、嵐は踏み込んだ。

 腕を引かず、触れた状態からマブイを一気に爆発させる——寸勁すんけい

 ドォォンッ。

 至近距離から放たれた衝撃波が木村を捉え、数メートル後ろへ滑るように吹き飛んだ。

 「……はぁ、はぁ……」

 嵐は膝をついた。慣れない操作に、右腕の回路が警告を発している。木村は床に手をついて立ち上がると、不敵に笑った。

 「やるじゃねえか。俺のテンポを盗んで、自分の拍子に変えやがった。アンディの甥っていう看板は、伊達じゃねえらしい」

 木村は構えを解き、鋭く目を光らせた。

 「合格だ、嵐。だが、忘れるなよ。ミルカラスの左ハイは、今の俺の連打より速く、重い。あいつに触れさせる暇すら与えられないかもしれないぜ」

 道場の隅で、秋吉がじっとその様子を見つめていた。

 「技術は覚えた。次は、その技術を支える『信念』の番だな」

 ミルカラスとの決戦まで、あと二週間。嵐の修行は、いよいよ格闘の本質へと踏み込もうとしていた。

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