第47話:白の重さ、黒の意味
「最短ルートはダウン五回。……これが最も効率的に相手の尊厳を破壊する、後藤道場の理論です」
佐野がタブレットをなぞる。リング上、石田の黒いライセンスが不気味に沈んでいた。
「始めッ!!」
石田が放つ音速の直突き。彼はアリーナの磁気制御をハックし、嵐の機体の金属フレームを床へ強引に吸着させていた。だが、嵐の輪郭が数ミリだけズレる。
――ピィッ。
「ヒット、嵐! 一点!」
「避けると同時に、肘で石田の拳のベクトルを最小干渉で逸らした。……嵐さんは、石田の存在そのものを『無駄な熱源』へと書き換えているんだ」佐野の戦慄。
石田は焦燥と共に全出力を右拳に集約。嵐はあえてそれを胸板で受け、『絶空』を後退させた。
「クリーンヒット、二点!」佐藤が拳を握るが、田所は眉を寄せた。「……いや、わざと食った。石田の衝撃エネルギー E_k を装甲に蓄積し、反撃の『質量』に変えるためだ」
アリーナの防壁際。石田の最大出力が放たれた瞬間、嵐が呼吸を止めた。
ド、ゴォォォォォォォォォォォォンッ!!
「ダウン、三点!」崩れ落ちたのは石田だった。
カウンターではない。嵐は \Delta t(接触時間)を極限まで削り、自身の関節を「完全剛体」へと変質させたのだ。石田は自らの放った加速を、自身の肉体でそのまま受け止め、自壊した。
【最終スコア:嵐 15 - 07 石田】
「もし、試合以外の『整理』をするつもりなら。……俺が、あんたたち全員をここで『白』に戻してやる」
嵐の瞳が、計測不能な「虚無」を放つ。石田のセンサーが未定義の熱源を検知し、バイザーが真っ赤に染まった。それはかつてのプラチナ、アンディが持っていた「システムを拒絶する色」だった。
「分かった。……試合だけだ」
佐藤と佐野がそれぞれのリングへ向かう。佐藤の『オンド・プレッシャー』はリミッター解除の過負荷により、関節から不吉な「黒い煙」を吐き出していた。対角に立つのは、感情を抹消された一五〇勝の亡霊。
「始めッ!!」
広島の焦げた朝。新星たちが、真実の色を掴むための地獄へと、その身を投じた。




