第47話:四天王の影
『からくり空手』
第47話:四天王の影
「秋吉の芽は、早いうちに摘んでおかねばなりませんからね」
黒いライセンスをかざした男が、佐藤と佐野の前に立った。後ろに四人。全員が黒——通算150勝以上の猛者たちだ。
「後藤道場・中国支部。聞いたことあるか、新人」
男が名乗った。石田という名だった。「俺たちは本部から、このリーグに『整理』に来た。秋吉の白い芽が黄色になる前に、ここで終わらせる」
佐藤が一歩前に出た。「……やってみろよ」
「強がりは結構」石田が続けた。「一つ教えておいてやる。お前たちの道場の看板——秋吉会館——その秋吉亮は四天王の一人だ。プラチナ保持者。世界に4枚しかないカードを持つ人間の一人だ」
佐野が黙って聞いていた。
「残りの三人が誰か、知っているか」石田の口元が歪んだ。「桑原洋己。からくり相撲界の頂点、桑原部屋の頭取だ。そして——後藤様。我が道場の主。日本最大のからくり空手道場を束ねる四天王だ」
「……四人目は」佐野が静かに言った。
石田が一瞬だけ表情を変えた。「……故人だ。若くして病気で死んだ足技の達人。アンディという」
佐藤の体が、固まった。
その名前が、空気を変えた。
石田が続けようとした時、後ろから声がした。
「その話、続けるか」
嵐が立っていた。腕を組んで、静かに。
石田が嵐を見た。胸元のライセンスカードを見た。白だった。それを確認して、石田は少し笑った。
「……安道 嵐か。去年のワールドカップ、見ていたよ。だが今のお前は白だ。俺の黒に、何が言える」
嵐は答えなかった。
ただ一言だけ言った。
「アンディは、俺の叔父さんだ」
石田が黙った。
後ろの四人も黙った。
佐藤がゆっくりと嵐の横顔を見た。嵐の表情は変わっていない。ただ、その白いカードを握る手が、少しだけ——本当に少しだけ——強く握られていた。
「……始めようか」嵐が石田に向かって言った。「新人二人の相手は、俺が先にやる。それでいいか」
石田の目が細くなった。「……白のくせに、随分と大きく出るな」
「色は後からついてくる」
それだけ言って、嵐はリングへ向かった。
佐藤が佐野に囁いた。「……佐野。嵐さんの叔父さんって、四天王だったのか」
「……そういうことだ」佐野は静かに答えた。「嵐さんが目指している場所が、どこなのか——分かったか」
佐藤はリングへ向かう嵐の背中を見た。白い道着。白いカードを持つ男が、四天王の空席へ向かって歩いている。
その背中が、今日初めて——本当の意味で「大きく」見えた。




