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からくり空手  作者: 水前寺鯉太郎
第3部

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46/67

第46話:初陣、泥まみれの初星(はつぼし)

『からくり空手』

第46話:初陣、泥まみれの初星はつぼし


 広島支部の設立から一ヶ月。中・四国地区の「昇級公式リーグ戦」が、広島県立総合体育館グリーンアリーナで開催された。

 四国や山陰から集まった血気盛んなからくり空手家たちが、受付にずらりと並んでいる。胸元のライセンスカードが、黄、緑、緑に白線——それぞれの積み上げてきた色を主張していた。

 「うわっ、人がいっぱいだ。佐野、あっちの奴ら緑+白線だぜ。強そうだなぁ」

 佐藤がからくり義肢の膝をガクガクさせながら周囲を見渡す。

 「落ち着け、佐藤。地区予選レベルなら、データ上は僕たちの勝率は8割を超えている」

 佐野は冷静にタブレットで相手の戦績を分析していたが、その指先はわずかに震えていた。

 「広島支部、先鋒・佐藤。リングへ!!」

 相手は山口県の道場から来た、通算9勝のベテランだ。黄色ライセンスまであと一勝という位置にいる男が、佐藤の白いカードを一瞥してせせら笑った。

 「秋吉会館の新人か。なんだ、真っ白じゃねえか」

 「始め!!」

 佐藤は得意のスピードで突っ込んだ。しかし相手は海千山千だ。直線的な動きを見切り、重厚な受けから鋭いカウンターを返す。

 佐藤がマットに転がった。

 練習とは違う何かが、胸の中に広がっていた。ポイント制の非情さと、観客の視線という重圧と——自分の白さを笑われた、あの瞬間の熱さだ。

 客席で嵐が腕を組んで見ていた。田所が隣から声をかける。

 「嵐。助言はしないのか」

 「必要ない。あの白さを汚すのは、あいつ自身だ」

 マットの上で、佐藤が立ち上がった。泥で汚れた白い道着。相手の嘲笑。自分の不甲斐なさ。

 (白だよ。真っ白だよ。……でも、嵐さんの白とは、意味が違うんだよ!!)

 佐藤のからくり義肢のスラスターが、制御を無視した出力を叩き出した。

 「食らえぇぇぇッ!!」

 隣のリングでは、佐野が別の戦いをしていた。

 相手の関節の隙間、マブイの瞬き——それらを「点」として捉え、最小限の力で制圧していく。感情はない。計算だけがある。

 「……チェックメイトです」

 佐野のサンボ流の投げが、相手をマットに沈めた。

 そして佐藤も、ボロボロになりながらも最後の一撃を叩き込み、レフェリーの腕が上がった。

 【佐藤:1勝0敗】【佐野:1勝0敗】

 試合後。二人は並んで自分のカードを見た。

 色はまだ白いままだ。しかし「1勝」という数字が、そこに刻まれていた。消えることのない、初めての証だ。

 「……やったな、佐野」

 「ええ。あと9勝です」

 顔を上げた先に、男たちが立っていた。胸元のライセンスカードが黒く光っている。通算150勝——黒帯格の猛者たちだ。後藤道場の地方支部から派遣されてきた集団だと、一目で分かる空気をしていた。

 その中の一人が、二人の白いカードをちらりと見て言った。

 「秋吉の芽は、早いうちに摘んでおかねばなりませんからね」

 佐藤の手が、カードを握りしめた。白いカードが、汗で滲んだ。

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