第45話:白いライセンス、白い拳
『からくり空手』
第45話:白いライセンス、白い拳
広島支部の更衣室は、新品の木の匂いがした。
佐藤が受け取ったばかりのカードを、蛍光灯にかざした。白い。ピカピカに白い。名前の横に「からくり空手ライセンス:白」という文字と、通算成績「0勝0敗」の数字が刻まれている。
「佐野、見ろよ。これが俺たちのスタートだ」
「……当たり前だ。新人は全員白から始まる」佐野が自分のカードを丁寧に道着のポケットに収めながら言った。「まず10勝で黄。30勝で緑に白線。段階を踏んで積み上げるのがセオリーだ」
「100勝で黒、か。気が遠くなるな」
「黒で終わりじゃない」佐野が続けた。「その先にブロンズ、銀、銀星、金、金星——そして最上位がプラチナだ。四天王に認可された者だけが持てる、世界に4枚しかない」
佐藤が口笛を吹いた。「プラチナか。そんなもん、俺たちが生きてる間に見られるのかね」
「さあな」
廊下を、嵐が通りかかった。
「あ、嵐さん!」佐藤が声をかけた。「嵐さんのライセンス、何色ですか? 世界のワールドカップ決勝まで行ったんだから、もう金とか金星とか——」
嵐は足を止め、道着のポケットからカードを取り出した。
白かった。
「…………」
佐藤が固まった。佐野が目を細めた。
「去年はトーナメント形式だったからな」嵐は特に気にした様子もなく言った。「公式戦の勝利数は5勝だ。白のままだよ」
「お、俺たちと同じじゃないですか!」
「色は後からついてくる」嵐はカードをポケットに戻した。「大事なのは、その色に恥じない空手ができるかどうかだ」
嵐が道場へ向かおうとした時、佐野が静かに問いかけた。
「……嵐さん。最終的に、どこを目指しているんですか。プラチナですか」
嵐の足が、一瞬だけ止まった。
「……叔父さんのアンディは、プラチナだった。四天王認定を受けた、4人のうちの1人だ」
それだけ言って、嵐は道場へ消えた。
佐藤と佐野は、しばらく無言だった。
「……つまり」佐藤がゆっくり言った。「嵐さんの目指してるところって——」
「同じ場所に立つこと、だろう」佐野が答えた。「叔父上と」
道場では、田所が新入生たちを並ばせていた。
「いいか! お前たちの白いライセンス、今日から汚れ始める。汗と血と、負けた悔しさで染まって、初めて色がつく。——わかったか!」
「「はい!」」
佐藤は自分の白いカードを、もう一度見た。さっきまでは「ピカピカで嬉しい」と思っていた。今は少し、違う見え方がした。
この白さは、これから何色に変わるのだろう。
「佐藤」佐野が隣で言った。「まず10勝だ」
「……おう」
二人は道場へ飛び込んだ。田所の怒号が、広島の朝に響き渡った。
監督席で、三浦が杖を突きながらその様子を見ていた。秋吉館長が隣に座った。
「……いい顔をしていますね、あの二人」
「ああ」秋吉が静かに頷いた。「嵐もあんな顔をしていた。第1話の頃は」
三浦は微笑んだ。「……白から始まる。それが、空手というものです」




