第44話:白いライセンス、白い拳
「佐野、見ろよ。……これが、俺たちのマブイの証明書だ」
佐藤はナノ強化セラミックのカードを掲げた。触れるだけで体温を奪う、無機質な白。その右肩には、装着した義肢のリミッターを解除するための後藤グローバル製マイクロチップが埋め込まれている。「白」のライセンスでは、呉の超高トルク型『オンド』の出力はわずか15%に固定される。文字通り、システムに牙を抜かれた状態だ。
「プラチナ……生きる天災。……かつて南米のプラチナが、一蹴りでダムを崩壊させたっていう、あの都市伝説の住人か」
二人の背後に、音もなく白い道着が揺れた。
「……嵐さん!」
安道 嵐。ワールドカップを制したはずの男が取り出したカードは、二人と同じ「白」……いや、光を一切反射しない「無効(Null)」の空白だった。
「色は後からついてくる。大事なのは、自分の拳を裏切っていないかどうかだ」
嵐が通り過ぎた瞬間、二人の白いカードが「キィィィン」と共鳴し、微かな亀裂が走った。嵐の放つ計測不能な熱量に、カードのチップが耐えきれなかったのだ。
「いいか! その白いカードは、まだ死体と同じだ!」
田所が板間を踏み抜く。地響きが更衣室まで届く。「その白が、返り血を吸い、負けた悔しさで真っ黒に汚れて……初めて魂が宿る。システムに飼われるだけの犬になりたくなければ、今日ここで、自分の『白』を殺してこいッ!!」
佐藤は、自らの『オンド・プレッシャー』を強引に起動した。出力15%。だが、彼の内側の熱量が、システムの壁を内側から叩く。
「……佐野。まずは、この白を汚すことからだな」
「……ああ。システムが想定した『15%』の檻、ぶち破ってやる」
佐藤の放った最初の一撃が、道場の砂袋を裂いた。
出力制限のアラートがバイザーに赤く点滅する。だが、そのノイズこそが、2027年シーズンの、新しい旋風の産声だった。




