表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくり空手  作者: 水前寺鯉太郎
第3部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/84

第43話:二つの龍、広島の風

 広島・宇品港。錆びた鉄と重い潮風が混ざり合う埠頭に、『秋吉会館・広島支部』が屹立していた。

 道場開き。本部の新大将・木村が、青白い放電を繰り返す『隼Mk-II』の首を鳴らす。

 「三浦さん。……広島の鉄を、本部の速度で焼き切らせてもらいますよ」

 三浦義一は静かに杖を突き、一瞥で道場のざわめきを静止させた。その隣で、安道 嵐の『クロオビ・絶空』は、音もなく凪いでいた。

 「始めッ!!」

 先鋒戦。佐野の『ボルシチ・ギア』が、サンボ由来の螺旋で畑中の速度を「解析」し、マットへと沈める。広島の重厚なトルクが、東京の洗練を上書きした瞬間だった。

 だが、副将戦。田所の咆哮が道場を揺らす。「おらぁ!! 広島の鉄はそんなに柔いのかッ!?」野性の突進が新人たちを蹂躙し、格の違いを見せつける。

 「……さて。最後だ。行け、嵐」

 三浦の静かな声が大将戦を告げる。木村が「問路もんろ」の構えで指先を嵐の眉間に向けた。「お前が三浦さんの『空』を継いでから、一度も本気でやり合ってなかったな」

 「木村さん。空手とは、自分を『空』にすること。……そして、からの器は、周囲を飲み込む『穴』になる」

 嵐が、一歩踏み出した。

 刹那。道場全体の気圧が急激に低下し、観客の鼓膜が悲鳴を上げた。

 安道流・空:『真空バキュームゼツ』。

 「――ッ!? 酸素が、……引き寄せられる!?」

 木村の身体が、嵐の引き手が作り出した負圧によって前方に叩きつけられた。物理的な吸引力 F = \Delta P \cdot A。回避も防御も意味をなさない。世界が安道 嵐という名の「穴」に吸い込まれていく。

 蒼い閃光が、道場の闇を切り裂く。

 「面白い。……それでこそ、俺が認めた大将だッ!!」

 木村の不協和音ディソナンスの連打が、真空を切り裂く「音の壁」となって咆哮する。

 

 広島の地に、新しい伝説の産声が轟いた。

 だが、その背後。三浦の杖が板間を叩く。

 「……甘いな。二人とも。――世界の風は、もっと冷たいぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ