第42話:広島、胎動
二〇二七年、四月。広島――。
瀬戸内海の潮風が吹く街に、鉄と油の匂いを纏った新聖地が誕生した。『秋吉会館・広島支部』。壁面には、伝説となった三浦義一と、新エース安道 嵐のパネルが掲げられている。
「……見てみろよ佐野。あのパネルの嵐さん、マジで空気が歪んで見えるぜ」
「……佐藤、騒ぐな。パネルにまでマブイの残滓が写り込む男だ。視線だけで殺されるぞ」
佐藤と佐野。広島の喧嘩場を荒らしまわった「バネ」と、古流武術の書物を読み漁る「理」。対照的な二人が、世界一の門を叩いた。
「おらぁ! ガキども、挨拶がねえぞ!」
出迎えたのは、かつてアメリカの怪物を沈めた「野獣」田所だった。指導者となった今も、その身体からは日拳の戦場仕込みの殺気が消えていない。
「挨拶代わりに一撃入れろ。呉の老舗が造ったその『オンド・プレッシャー』、扱いきれるか試してやる」
広島支部に配備されたのは、重工業の街が産んだ超高トルク型義肢。繊細な制御を捨て、「一撃の重さ」に特化した瀬戸内の荒くれ者たちの結晶だ。
「出力を三〇%に絞れ。そのトルクは、未熟な骨を内側から噛み砕くぞ」
遠野の警告を、佐藤はニヤリという笑みで跳ね返した。
「へへ、三〇%じゃ風も吹かねぇ。一気に五〇%……いや、六〇だッ!!」
――キィィィィィィィィィンッ!!
過負荷でオイルが焦げる匂い。佐藤の回し蹴りが、田所の重厚なガードを「物理的な質量」で押し潰した。衝撃波が道場の鉄壁を震わせ、ボルトが悲鳴を上げる。
(……重い。だが、これだ。これこそが俺の探してた『旋風』の種だ!)
その頃、東京。嵐は新アーマー『絶空』の内部で、遠く広島から届く微かな「地響き」を、マブイの共鳴として感じ取っていた。
「木村さん。……広島が、揺れてる。新しい龍が、産声を上げましたよ」
『絶空』が目指す静寂の極致。
『オンド』が目指す地響きの暴力。
二つの異なる「正解」が、再び世界の空手を解体しようとしていた。
(第三部へ続く)




