第41話:旋風、世界の果てへ(継承と始動)
二人の拳が交わった瞬間、音が消えた。
次に来たのは静寂で、その静寂が破れた時、ソウル・ドームは「死の恐怖」から解き放たれたかのような、深い安堵を伴う拍手に包まれていた。
三浦とビリーは、黄金と白銀の光が溶け合った「点」で繋がったまま立っていた。
「勝者――両者、引き分け!!」
どちらへも向かわなかった優勝旗。だが、格闘家たちは知っていた。システムという名の檻が、今、一人の老いた達人の「無」によって粉砕されたことを。
「……見事だ、ビリー殿。あなたの光が、私の空を照らしてくれた」
「……だらしねぇな、爺さん。あんたの『空』……俺もいつか、覗きに行かせてもらうぜ」
閉会式。三浦は嵐をリングへ呼び、長年の癒着で血の滲んだ補助筋肉をすべて脱ぎ捨てた。剥き出しの老いた肩に、嵐を呼ぶ。
「嵐くん。……空手家としての三浦義一は、今日ここで死にました」
三浦は、アンディへの敬意が染み付いた古びた道着を、嵐の肩へと掛けた。その重みは、三浦の四十年分の孤独と、アンディへの鎮魂歌そのものだった。
「機械に魂を売らず、過去に縛られもせず。君だけの『空』を見つけなさい」
……季節が変わった。
秋吉道場の壁には、後藤から届いた一通の「手書き」の手紙が貼られている。《魂の重さの計算式を、まだ探しています》。インクの滲みは、支配者が初めて味わった「敗北」という名の人間性だった。
道場の奥で、嵐が新機体『クロオビ・絶空』を纏う。
漆黒のフレームに刻まれたアンディのクロオビの残影が、三浦の鼓動と同じ「一秒一打」のリズムで脈動している。
「よし。……行くぞ、みんな」
嵐が放った正拳。
火花も、排気音もなかった。ただ、一瞬の真空が道場の埃をすべて吸い込み、世界を「無」で塗り替えた。
叔父が言った。風になれ、と。
師が言った。空になれ、と。
安道 嵐の旋風は今、世界の果てを目指し、静かに、しかし力強く吹き始めた。




