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からくり空手  作者: 水前寺鯉太郎
第2部

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41/84

第41話:旋風、世界の果てへ(継承と始動)

 二人の拳が交わった瞬間、音が消えた。

 次に来たのは静寂で、その静寂が破れた時、ソウル・ドームは「死の恐怖」から解き放たれたかのような、深い安堵を伴う拍手に包まれていた。

 三浦とビリーは、黄金と白銀の光が溶け合った「点」で繋がったまま立っていた。

 

 「勝者――両者、引き分け!!」

 

 どちらへも向かわなかった優勝旗。だが、格闘家たちは知っていた。システムという名の檻が、今、一人の老いた達人の「無」によって粉砕されたことを。

 「……見事だ、ビリー殿。あなたの光が、私の空を照らしてくれた」

 「……だらしねぇな、爺さん。あんたの『空』……俺もいつか、覗きに行かせてもらうぜ」

 

 閉会式。三浦は嵐をリングへ呼び、長年の癒着で血の滲んだ補助筋肉をすべて脱ぎ捨てた。剥き出しの老いた肩に、嵐を呼ぶ。

 「嵐くん。……空手家としての三浦義一は、今日ここで死にました」

 三浦は、アンディへの敬意が染み付いた古びた道着を、嵐の肩へと掛けた。その重みは、三浦の四十年分の孤独と、アンディへの鎮魂歌レクイエムそのものだった。

 「機械に魂を売らず、過去に縛られもせず。君だけの『空』を見つけなさい」

 

 ……季節が変わった。

 秋吉道場の壁には、後藤から届いた一通の「手書き」の手紙が貼られている。《魂の重さの計算式を、まだ探しています》。インクの滲みは、支配者が初めて味わった「敗北」という名の人間性だった。

 

 道場の奥で、嵐が新機体『クロオビ・絶空ゼックウ』を纏う。

 漆黒のフレームに刻まれたアンディのクロオビの残影が、三浦の鼓動と同じ「一秒一打」のリズムで脈動している。

 「よし。……行くぞ、みんな」

 

 嵐が放った正拳。

 火花も、排気音もなかった。ただ、一瞬の真空が道場の埃をすべて吸い込み、世界を「無」で塗り替えた。

 

 叔父が言った。風になれ、と。

 師が言った。空になれ、と。

 

 安道 嵐の旋風は今、世界の果てを目指し、静かに、しかし力強く吹き始めた。

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