第38話:縦拳の衝撃、連環の壁
「副将戦――始めッ!!」
木村の『隼Mk-II』が青白い放電と共に爆ぜた。迎え撃つ進藤は「波動立ち」のまま動かない。漆黒の面の裏、古い道場のステッカーが、システムに魂を売った男の「未練」を木村に突きつける。
「お前の拳は、軽い」
進藤の縦拳が音を置き去りにし、木村の鼻先を掠めた。
【秋吉A 02 - 10 後藤1選抜】
木村の連環拳が進藤の装甲に吸い込まれる。進藤の『黒鋼』は衝撃を吸収するたびに不吉な紫に発光し、蓄えられた熱量を拳に乗せ、木村を蹂躙していく。
(規則正しいから、シンクロされる。なら――俺の空手は『不協和音』だ!)
木村はあえて関節ボルトを緩めた。腕が振れるたびに金属が肉を削り、ボルトが皮膚を突き破って飛び出す凄惨な光景。打撃の間隔をミリ秒単位でずらし、解析不能なノイズの嵐を放つ。
「なっ……蓄積回路が逆流を!? 捌ききれん……ッ!」
不規則な振動に進藤のアーマーが悲鳴を上げ、継ぎ目から高圧の火炎が噴き出した。
「全部食わせてやるよ。内臓がひっくり返るほど酷ぇ音だぜッ!!」
木村の右拳が音の壁を突き破り、面の継ぎ目へ刺さった。
ビシィィィィィィィィン!!
鼓膜を焼くような金属の絶叫と共に、漆黒の面が粉砕された。
【秋吉A 15 - 13 後藤1選抜】「――勝者、木村ッ!!!!」
木村は膝をつき、風が触れるだけで激痛が走る右拳を見て狂おしく笑った。日本代表、三勝一分。秋吉会館の勝利が確定。だが、ドームの熱気は一瞬で氷点下へ凍りついた。
貴賓席から後藤が立ち上がった。一歩踏み出すごとにアリーナの照明が順に消え、後藤の周囲に「闇」が収束していく。彼のアーマー『ゼロ・エントロピー』は、白い繊維が脈動する「繭」のように全身を覆っていた。
「……三浦さん。あいつ、空気が消えていく……」
嵐の戦慄。右腕のない三浦は、全細胞を石に変えるような静止で、ドーム中の湿気を一箇所に引き寄せていた。
大将戦。「からくりの神」後藤、対、「空の化身」三浦。
後藤がリング中央で立ち止まり、冷酷に告げた。
「ここからは、計算の必要はありません。……どちらが世界に『存在』を許されるか。それだけの事だ」
伝説の幕引きが、今、神話へと変わる。




