第35話:拳の純度、殺意の精度
「準決勝、第一試合――日本秋吉会館対後藤道場第一選抜!」
K・マブイ・ドーム。そこは今、生命を部品として解体する「実験室」と化していた。
先鋒、田所。対する谷岡の纏う『ゼロ・エッジ』は、空間に置かれた剃刀のような、冷徹な殺意を放っていた。かつてアンディと競った天才が、後藤によって「規格化」された成れの果て。
「始めッ!!」
田所の直突き。だが谷岡は掌を「置いた」だけで、数トンの衝撃を全方位へ放散し、無効化した。「放散だ。お前の拳は、既に空気に溶けた」
谷岡の拳は「作業」だった。解剖学的に効率よく神経節を断つ。田所の装甲の隙間から、鮮血ではなく「汚された冷却液」が噴き出す。
(冷てぇ……ちっとも、美味くねぇ!)
田所は『ビースト・防』の全エネルギーを内側へ逆流させた。装甲が肉を焼き、骨を軋ませる。谷岡が最適解を放つ直前、田所は砕けたバイザーの破片を、喉に詰まった血と共に谷岡の目へ吐き出した。
「なっ……演算外のノイズ……ッ!」
格闘動作ではない「ゴミ」と判断したシステムの0.1秒の澱み。田所は自爆を厭わぬ最大火力の頭突きを叩き込んだ。
ド、ゴォォォォォォォォォォォォンッ!!
【秋吉A 05 - 12 後藤1選抜】
谷岡の無機質な面に亀裂が入り、彼は生まれて初めての「恐怖」に目を見開いた。「へへ……あんたの拳、綺麗すぎて反吐が出るぜ」
田所はマットへ崩れ落ち、谷岡も精神的な損壊により再起動に失敗。
「両者戦闘不能。引き分け!!」
嵐が田所を抱き上げた。「嵐……あいつに、本物のメシを食わせてやれ……」
田所が意識を失う中、対面のベンチから次鋒・染川が立ち上がった。彼が歩くたび、骨に打ち込まれたボルトが肉を削り「ギチ、ギチ」と嫌な音を立てる。
「処理してこい」後藤の冷徹な声。
染川の放つ超振動に、周囲の空気がキィィィンと鳴り、嵐の右腕の装甲が勝手に共振してひび割れ始める。
「遠野への、忘れ物を取りに来た」
染川の瞳にあるのは、計算ではない。執念という名の猛毒だ。
安道 嵐。彼が向かい合うのは、かつて自分たちが負かしたはずの「絶望のアップグレード版」だった。




