第34話:重力の檻、空(くう)の翼
「大将戦――始めッ!!」
号令が落ちた刹那、アリーナの空気が物理的な質量を伴って凝縮した。シルバの『太陽の王』が漆黒の磁場を放射。照明の光さえもが湾曲し、マットを支える鉄骨が「ミシミシ」と悲鳴を上げた。
「三浦。父から奪った栄光を、この重力の底で粉砕してやる」
重力加速を得た黄金の脚は、質量を持った隕石。旋回するたびに破壊エネルギーが指数関数的に増大していく。三浦は『三戦』で微動だにしないが、足元のコンクリートは放射状に砕け散っていた。
【日本A 00 - 04 ブラジル】
シルバが全出力を解放した旋回蹴りを放つ。三浦は眼を閉じ、迫る死を「拒絶」するのをやめた。怒り、渇望。その全てを『空』の器へ流し込む。
「……重すぎる愛は、自分を縛る鉄格子のようになりますな」
三浦が羽毛のような踏み込みで一歩踏み出した。シルバの加速しきった踵に、三浦の掌が吸い付く。
「弾かない……、吸い付いてくるだと!?」
三浦はシルバの運動エネルギーを神経系を通じて同期。行き場を失った重力波がシルバの義肢へ逆流し、『太陽の王』は内側へ爆縮、アルミ缶のようにひしゃげた。
「自分を空にすれば、重力もただの風と同じです」
三浦が右拳を伸ばした。加速も排気もない、絶対的な「静止」の一撃。
ドォ、ン……。
音が消えた。重力が霧散し、アリーナに不気味なまでの「軽さ」が戻る。シルバの巨体がゆっくりとマットへ沈んだ。
【最終スコア:日本A 15 - 04 ブラジル】「――勝者、三浦ッ!!!!」
劇的な逆転。だが、嵐の視線は貴賓席の後藤から離れなかった。後藤は無表情に、愛おしむように自分の腰の「黒帯」に指を滑らせた。その瞬間、嵐の右腕『昇龍』が本能的な恐怖で「防御姿勢」を勝手に取り、機体の冷却液が赤く変色(酸化)して隙間から「血の涙」となって溢れ出した。
掲示板が切り替わる。準決勝第一試合。
【日本代表(秋吉会館) VS 後藤グローバル第一選抜:後藤 零】
「奴はシステムを作るために、一度自分の拳を殺した男だ」秋吉が呟く。
後藤が去ったあとのアリーナは、後藤のマブイに侵食され、音が伝わらない「無響空間」へと書き換えられていた。
嵐は、自分の激しい鼓動だけが響く静寂の中で悟った。
管理者の仮面を脱いだ後藤は、この世の誰よりも「空手」を、そして「人を殺すこと」を愛している怪物だということを。
準決勝、開戦まであと一時間。安道 嵐の旋風は、この「死の静寂」を突き破れるのか。




