第33話:背後の死神(アサシン・ストラングル)
「副将戦――始めッ!!」
三浦の号令が消えるより早く、木村の視界から「物質」が消えた。ブラジル代表オズワルドの『ブラック・マンバ』が放つ死の静寂。
(どこだ……センサーが空を掴んでやがる!)
刹那、木村の首筋に氷のような指が触れた。逃げ場のない完全な背後拘束。オズワルドの腕から黒いマブイが流れ込み、『隼』の装甲がどす黒く腐食し始めた。
(届かねぇなら……届く形に作り直すだけだッ!!)
ギヂィィィィッ!! 木村はマブイを右肩の関節ボルトへ逆流させた。過負荷による爆破脱臼。木村は自らの右腕を内部から破壊し、解剖学的な限界を超えて真後ろへと跳ね上げた。正面を突くのが詠春拳の理ならば、背後を蹂躙するのは木村の執念だ。
安道流・空:『背理の連環拳』。
ドカカカカカカカカカカッ!!
背後へのゼロ距離連打。不意を突かれたオズワルドの顔面が歪み、締めが緩む。木村はその隙に、モーターの強引な巻き取りで肩を復位させた。筋肉が断裂する凄絶な音と木村の絶叫がドームを揺らす。
「影の中に隠れてりゃ安全だと思ったかよ……引きずり出してやるぜ、死神さんよぉ!!」
木村は独楽のように高速回転を開始。遠心力で自壊しかける機体を執念で繋ぎ、360度の処刑場を形成した。逃げ場を失ったオズワルドは、回転の暴力に飲み込まれ、防壁まで一直線に吹き飛ばされた。
【日本A 15 - 09 ブラジル】「――勝者、木村ッ!!!!」
木村は白煙を上げる肩を抱え、崩れ落ちた。「へへ、……だらしねぇ姿見せちまったな」
駆け寄る田所が、無言で拳を合わせた。日本、二勝二敗。因縁は大将戦へ。
三浦がゆっくりと立ち上がった。対するシルバ・ドス・サントスが踏み出すたび、マットが圧力による摩擦熱で赤熱し、メキメキと陥没していく。
「三浦さん……。あいつ、歩くブラックホールだ」
嵐の警告に、三浦は静かに構えた。三浦が「三戦」を組んだ瞬間、周囲の埃がピタリと空中で静止し、大気が物理的に凝固した。
「嵐。俺は今から、アンディさえも見なかった『空の先』へ行く。……見ておけ」
三浦義一、対、重力の化身シルバ。
ドーム中の空気が三浦の呼吸一つで真空へと変質する。
からくり空手、本戦第一回戦――究極の激突が、今、始まる。




