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からくり空手  作者: 水前寺鯉太郎
第2部

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32/84

第32話:深淵の牙(グラウンド・インパクト)

 東大陸・新羅(シンラ)のコロシアムのマットは、二頭の怪物を飲み込む地獄の底へと変貌していた。

 パグ獣人である嵐の放った鉄槌は、ダックスフンド獣人・ジョージの背部を震わせたが、ジョージは衝撃を支点に変え、長い胴体の蛇のごときうねりで嵐の太い首を捕らえた。

 

 南大陸からくり柔術:『大蛇の三角絞め(アナコンダ・トライアングル)』。

「ぐ、……あ、が……ッ!!」

 頚動脈への無慈悲な圧迫。マブイを吸い取る漆黒のスキンが、嵐の意識を急激に刈り取っていく。視界の端から闇が広がり、コロシアムの歓声は水底の泡の音へ遠ざかった。

(境界線が消えた。なら……通れるはずだッ!)

 嵐は逃げるのをやめ、首を絞めるジョージの腕に、己の異形となった「有機からくり右腕」を一点の針として押し当てた。獣の神経とからくりの駆動系を反転。全マブイ出力を打撃ではなく、数万ヘルツの生体破壊振動へ一点集中させる。

 安道流・空:『浸透・針(シン)』。

 ――キ、ィィィィィィィィンッ!!

 ジョージの腕を導線として、破壊の波が逆流する。

「バカな……! 僕の『締め』を、……増幅器(アンプ)に……ッ!?」

 ジョージの人工筋肉が逆共鳴を起こし、内側からボロ布のごとく弾け飛んだ。嵐の有機からくり腕の指の骨もまた、過負荷で生々しい音を立てて砕け散る。

 締めが緩む。嵐はジョージの胸倉を掴み、上下を入れ替えた。跨った嵐は、感覚の消えた右拳をただの鉄塊として叩きつけ続けた。

 ドォン、ドォン、ドォンッ!!

 板間が砕け、ジョージの装甲が粉砕される。

【ジャパウ 15 - 08 南大陸】「――勝者、安道嵐ッ!!!!」

「はは……兄さんが、お前の肉を腐らせる……」

 ジョージは呪詛を吐きながら気絶した。嵐は砕けた指を左手で強引に固め、パージして剥き出しになった半裸の肉体と、真っ赤に過熱した有機からくり腕から血の混じった蒸気を上げながら、執念で立ってリングを降りた。

 副将戦。リングに上がったジョージの兄、ペルービアン・ヘアレス・ドッグの獣人、オズワルド。彼が被毛のない肌から放つ漆黒の『デス・マブイ』により、リングサイドに飾られた花が一瞬で黒く腐り落ちた。コロシアムの蒸気ネオンが不気味な紫色に歪む。

「……木村さん。あいつ、……生きてないような匂いがする」

 嵐の警告。だが、サイトハウンド獣人の木村は不敵に笑い、自らの『燕(ツバメ)』の装甲をすべてパージした。猟犬の細くしなやかな筋肉と、剥き出しのからくりフレーム。

「毒だろうが何だろうが、腐る暇もねぇ速度で噛み千切るだけだ」

 

 猛毒のマブイが網膜を焼き、木村の極限の視覚センサーが壊れ、世界がモノクロに染まる。

「色のねぇ世界の方が、敵の『重心』がよく見えるぜ。……行くぞ、死神」

 

 秋吉流・最速の猟犬。猛毒の海を切り裂く、命懸けの超短時間決戦が幕を開ける。

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