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からくり空手  作者: 水前寺鯉太郎
第2部

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第31話:自由の反撃(フィロソフィー・リベンジ)

『からくり空手』

第31話:自由の反撃フィロソフィー・リベンジ


 「本戦トーナメント第一回戦、第一試合——アメリカ代表対後藤道場第三選抜!」

 リングに上がるアメリカ代表の五人に、後藤道場のような統一感はない。先鋒のカズヤは全身に柔軟な人工筋肉を這わせた柔術仕様。次鋒のTDNは無骨な日拳仕様。中堅のvan様は漆黒のプロテクターを纏い、立っているだけで周囲の空気が一段重くなる。副将のボブは上半身裸に近い格闘スタイル。そして大将、ビリー——「モノリス」の五機と向かい合い、不敵に笑った。

 「……一点の歪みもねぇ」観客席で嵐が呟いた。「だからこそ——」

 言葉を続けなかった。続きは、リングが答えるはずだった。

 先鋒戦。カズヤ対後藤田。

 後藤田の縦拳が、システムの最適解として放たれた。カズヤの次の動きを予測し——その瞬間、後藤田のバイザーに「予測値:三」という表示が出た。

 一つではない。三つ同時だ。

 カズヤの「流動性」が、後藤田のシステムに「これもあり得る、あれもあり得る、どれもあり得る」という状態を同時に認識させていた。一拍——システムが詰まった。

 その一拍に、カズヤの絞め技が入っていた。

 「あんたの突きは綺麗だ」カズヤが後藤田の首を絡めながら言った。「だが、マブイが籠もってねぇ。籠もってないから、俺の体が先に動ける」

 【先鋒:カズヤ勝利】

 次鋒のTDNは、大友の「一拍後の最適解」を「野性的な反応」で潰した。システムが計算を完了する前に、TDNの体がすでに動いている。大友のバイザーが粉砕された。

 中堅のvan様は、坂本のマブイ中和フィールドの前に立ち、一歩踏み込んだだけだった。その一歩の「重さ」が、中和フィールドの計算値を超えていた。数式で扱えない重さは、中和できない。

 副将のボブは、中岡の最適解を「力技」でねじ伏せた。最適解より大きな力は、最適解を無効にする。

 【先鋒〜副将:アメリカ12 - 03 後藤道場】

 「……後藤の規格化が、個性に押し負けている」秋吉が低く言った。「個々のマブイが規格外すぎて、サーバーが平均として処理できない。カズヤは流動性で、TDNは速度で、van様は重さで——それぞれが、システムの想定する『人間』の外側にいる」

 大将戦。ビリー対山口。

 山口はシャオロン戦での敗北から「思考遮断モード」に移行していた。感情を切る。迷いを切る。ただ最適解だけを実行する——それが山口の、敗北からの「学習」だった。

 「個人の哲学など、システムの前では塵に等しい」

 山口の突きが放たれた。速い。精密だ。しかしビリーは動じなかった。

 「——山口」ビリーが最小限のステップで躱しながら言った。「嵐に負けた夜、俺は初めて自分の哲学を疑った」

 山口の次の突きを、ビリーは受け流す。

 「疑って、悩んで、それでもここに立ってる。お前の突きには、その過程がない。悩みのない拳に、人の心は動かせねぇ」

 ビリーは山口の攻撃の流れに乗った——受け流すのではなく、山口の動きを「そうなるべき必然」として読み、その先に先回りする。山口のアーマーが発する電子のノイズを、自らのマブイで包み込み、次の動作を「選択」ではなく「結果」として感じ取る。

 ビリーの両腕が山口の巨体を捕らえた。

 山口のシステムが、初めて「拒絶反応」を示した。「計算が合わない」ではなく、「計算する前提が崩れた」という警告だ。

 山口の体が宙を舞い、脳天からマットへ落ちた。

 【最終スコア:アメリカ15 - 03 後藤道場】

 「勝者、ビリー!!」

 歓声が来た。熱狂ではなく、驚愕の種類の歓声だった。「あのシステムが負けた」という、信じ難いものを目撃した者の声だ。

 後藤がタブレットに何かを入力していた。動揺はない。「アメリカのデータは、まだ十分ではなかった」——そう処理しているのが、遠目からでも伝わった。3選抜の敗北は、後藤にとって「失敗」ではなく「データの追加」だった。

 ビリーがリング上から嵐を見て、親指を立てた。

 「次はお前の番だぜ。だらしねぇ戦いだけはするなよ」

 「分かってる」嵐は立ち上がった。

 第二試合。秋吉会館対ブラジル代表。

 シルバがリングへ向かって歩いてくるのが見えた。嵐は思わず自分の足元を見た。マットが——わずかに沈んだ気がした。

 ジャングルで倒したあの男が、重くなっている。

 嵐の『昇龍』が静かに鼓動した。

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