第24話:15点の攻防(ポイント・タクティクス)
ソウル「K・マブイ・ドーム」。そこは武道の聖地ではなく、マブイを切り売りする「計算」の祭壇だった。
四隅に浮かぶホログラム・スコアボード。十五点先取。ダウン三点。クリーンヒット一〜二点。後藤グローバルが提示したこの冷徹なルールは、格闘家の魂をただのデジタルデータへと格下げしていた。
「田所。奴らの計算を、お前の『意地』で噛み砕いてこい」
秋吉の言葉を背に、田所は『ビースト・防』の格子状バイザーを落とした。
「数字で測るなら、その物差しごと叩き割る」
「始めッ!!」
韓国の先鋒アンの『スカイ・ダンサー』が、高周波の駆動音と共に爆発した。微細なスラスターで「無重力のステップ」を刻み、田所のガードの隙間に稲妻のような回し蹴りを叩き込む。
――不快な電子音。
【日本 00 - 02 韓国】
アンは深く踏み込まない。触れた瞬間に逆噴射し、安全圏へ「逃走」する。点数を積み、時間を食う「解剖学的逃走」。
「逃がさねぇよ、お利口さん」
田所は日拳特有の「波動立ち」で重心を垂直に落とした。アンが再びポイントを掠めに来る。田所は避けない。あえて面を晒し、蹴りを正面から受け止めた。
衝撃を、日拳仕様の吸収材が「熱」へと変換する。アンの脚が離れるコンマ数秒のラグ。野獣がその首筋を掴んだ。
「捕まえた」
そのまま自重を乗せた体当たりでアンをマットへ引き摺り下ろす。日拳の「投げ」。
――不吉な処刑音。
【日本 03 - 02 韓国】「ダウン!!」
逆転。田所はポイントなど見ていない。退路を正面から塞ぎ、最短距離の「直突き」を心臓へ叩き込む。
――ドォン!【05 - 02】
――ドォン!【07 - 02】
「計算が……狂う! こいつ、ルールを守る気がないのか!」
アンの瞳が恐怖に染まる。残り一分。
「終わりだ。数字の檻から出してやる」
田所が最後の一歩を踏み出した。アンの捨て身の二段蹴りを「胴」で呑み込み、バイザー越しに獲物の喉元を射抜く。
安道流・空:名もなき直突き。
ドォォォォォォォォォォォォンッ!!
アンの最新鋭バイザーが内側から粉砕され、彼は防壁に激突して動かなくなった。
【日本 15 - 05 韓国】「勝者、田所!!」
困惑混じりの喝采。田所は無言でバイザーを上げた。倒れたアンに手を差し出しそうになり――冷たく、その拳を握り直した。ここは屠殺場だ。
入れ替わり、韓国代表の次鋒・李が歩み出る。
その瞬間、遠野の『クロオビ・岩鉄』が異常を検知した。
「……館長。見えません」
あまりに強大なマブイが計器を白く塗り潰す(ホワイトアウト)。
「大地が……繋がらない。地脈が拒絶されている!」
李の周囲の空気が、物理的に押し出され「真空」と化していく。
計算機を飽和させる、圧倒的な「個」の出現。
ソウルの風が、真の絶望と共に、遠野を地から引き剥がそうとしていた




