第21話:継承と止打(ストップ・ヒット)
『からくり空手』
第21話:継承と止打
「副将戦——始め!!」
三浦の号令が飛ぶより早く、木村と加藤の間で火花が散った。
木村の纏う『クロオビ・隼』の腕部モーターが、高周波の悲鳴を上げる。対する加藤は、一切の無駄を省いたオンガード・スタンスで、緑色のマブイを瞳の奥に静かに宿していた。第12話でシャオロンに敗れた時の木村を知っている。その木村が今、自分の前に立っている。
「加藤……! 嵐に負けた時のお前とは、マブイの質が違う。だが——」
木村が踏み込んだ。詠春拳の奥義、連環拳。最短距離を突く一秒間三十発の連打。並のからくり空手家なら防壁を築く暇もなく蜂の巣にされる速度だ。
「——僕のジークンドーは、あなたの詠春拳の理を、すべて知っている」
木村の拳が届く寸前、加藤の手が腕を叩き落とした。防ぐのではない——木村の連打の隙間に、加藤の突きがねじ込まれてくる。
止打。相手の攻撃が完成する瞬間に、その出端を捉えて迎撃する。木村が打てば打つほど、加藤のカウンターが装甲に火花を散らす。
(速い……! 詠春拳の理を知り尽くしているからこそ、俺の動きが読まれてる!)
焦りがマブイを乱す。加藤の「グリーン・マブイ」は、木村の思考を先回りし、神経系の電気信号を書き換えるようなプレッシャーを放っていた。
「だらしねぇぞ、木村! スピードで負けてどうする!」
セコンドのビリーが怒号を飛ばす。
木村は奥歯を噛みしめた。
(伝統を守るだけじゃ、この男には勝てねえ。叔父さんに憧れて、俺が辿り着きたかったのは——最速の、その先だ)
木村がアーマーの過負荷リミッターを自ら引き千切った。モーターが白煙を吹き上げ、マブイが青白く発火する。
「見てな、加藤。これが俺の、からくり詠春拳の答えだ」
連打が、物理的な限界を超えた。一本の腕が十本に見えるほどの残像——千手観音・マブイ残像波。加藤の「読み」を物量で上書きし、全方位から同時多発的な衝撃を叩き込む。
加藤の緑のマブイが、激しく揺らいだ。
「……素晴らしい! ならば、僕もすべてをさらけ出そう!」
加藤がマスクの出力を最大にする。彼は木村の残像の嵐の中に、わざと自らの身を投げ出した。避けるのではない——木村の拳の振動を逆利用し、自分の体そのものをマブイの伝導体に変える。
木村の会心の一撃が加藤の胸板を捉えた、その刹那。
加藤の最短距離の突きが、木村の顎を突き上げた。
相打ち。
木村の拳は加藤の装甲を粉砕し、加藤の拳は木村のからくりモーターを完全に焼き切った。二人の体が爆発的なマブイの反動で左右に吹き飛び、道場の壁に激突して動かなくなったのは——両者、同時だった。
「両者戦闘不能! 引き分け!!」
道場が静まり返り、それから割れんばかりの拍手に包まれた。
加藤はマスクを外し、腫れ上がった顔で木村を見た。木村も壊れた腕を抱えながら、ニヤリと笑う。
「……最速の向こう側……少しだけ、見えた気がするぜ」
「……ええ。木村さん、あなたの千手は計算外でしたよ」
戦績は一勝三分け。秋吉会館がリードしているが、勝負の行方は最後の一戦に託された。
観客席の嵐は、倒れた木村と加藤を交互に見ながら、拳を強く握っていた。先輩たちがここまで積み上げてきた——その重さが、『昇龍』を通じて全身に伝わってくる気がした。
「……さて。最後だ、秋吉」
シャオロンが立ち上がり、腰の『からくりヌンチャク』を軽く鳴らした。その顔に、初めて「本気の前夜」の色がある。
秋吉が一呼吸おいて、静かに言った。
「三浦。お前の『空』を見せてやれ」
三浦が前に出た。腫れた右腕——ノリス戦で外れ、まだ完全には戻っていない。しかし、その立ち姿に迷いはない。沖縄空手が数百年をかけて辿り着いた「浸透」の体現者が、ジークンドーの始祖が持つ「変幻」と向かい合う。
シャオロンが親指で鼻を弾いた。
道場の空気が、一変した。




