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からくり空手  作者: 水前寺鯉太郎
第2部

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18/70

第18話:野獣 vs 荒鷲

『からくり空手』


第18話:野獣 vs 荒鷲

 秋吉道場の板間に、二つの「流儀」が向き合っていた。

 正面には秋吉館長とリ・シャオロン。その背後に香港からの四人。沈黙は重いが、剣呑ではない——むしろ、互いの力量を測り合う者同士の、静かな好奇心が満ちていた。

 「始めようか。先鋒同士、挨拶代わりだ」

 シャオロンの合図で前に出たのは、ジェロニモ。彫りの深い顔立ちと、全身に細いセンサーが張り巡らされた軽量型アーマー『インディアン・スカイ』。その立ち姿は空手でも柔術でもない——大地と空の間を生きてきた者だけが持つ、根のない自由さがあった。

 対する田所は、修理と強化を終えた『ビースト・改』を纏い、最初から全リミッターを解除していた。第10話の夜以来、彼は試合前に型を確認しない。ただ、相手を見る。

 「悪いが、今の俺は誰が相手でも喰うことしか考えてねえ」

 「……Good」とジェロニモが微笑んだ。「僕の先祖は、空と大地の間に生きた。だからどこでも戦える。野獣の牙がどれほどか、試させてもらうよ」

 「始め!!」

 田所が地を蹴った。最短距離、最大出力——第10話で染川に見せた突進そのものだ。ジェロニモの喉元を狙う正拳が、空気を裂く。

 しかしジェロニモはそこにいなかった。

 バク転。空中で体を半回転させながら着地し、その勢いを殺さずに連続キックを田所の装甲へ叩き込む。膝のバネとからくりモーターが同期した、ムチのようにしなる蹴り。装甲の継ぎ目を狙う精度は、まるで道場で田所のアーマー設計図を暗記してきたかのようだ。

 「この動き……空手じゃない。柔術でも、合気でもない」

 田所が追う。ジェロニモは逃げない——ただ、田所の動線の外側へと常にずれていく。一回転しての裏拳、流れ込むようなタックル、引き込みながらの首固め。一つ一つは知っている技だ。しかし繋ぎ目がない。終わりがない。まるで田所自身の力が、別の方向へ流れ出していくような感覚だった。

 (……こいつは、俺の野生を使って戦っている)

 「ウォォォォッ!!」

 田所が四足に近い姿勢で地を這い、ジェロニモの足元へ突進した。跳んで回避しようとするジェロニモ——それを読んでいた。空中で無防備になった腰を、からくり強化された両腕がガッチリと捕らえる。

 「捕まえたぜ、荒鷲……!」

 「……捕まえたのは、僕の方だよ」

 叩きつけられる直前、ジェロニモのアーマーが外側へマブイを爆発的に放出した。衝撃が霧散する。そのまま田所の首へ足を絡め、空中で三角絞めへと移行する。田所が床を転がりながら振りほどこうとするが、ジェロニモの体が水のように追いかけてくる。

 二人は同時に限界へ達した。

 田所の腕がジェロニモの胴を締め上げ、ジェロニモの足が田所の首を絞める。どちらも動けない。どちらも離せない。床が、ミシリと一度だけ鳴った。

 「……そこまで」

 三浦の声が、静寂を割った。

 二人は荒い息を吐きながら離れた。ジェロニモのアーマーには田所の爪痕が深く刻まれ、田所の装甲もジェロニモの蹴りで各部が凹んでいる。

 「……掴みどころがねえ奴だ」

 田所が悔しそうに吐き捨てる。しかしその目に、恐怖はなかった。

 「君のパワーと反応——まさにBeastだ。本番で当たるのが楽しみだよ」

 ジェロニモが右手を差し出した。田所は一瞬だけ迷い、それから無言で握り返した。

 観客席でビリーが腕を組み、小さく頷いた。「歪みねぇ引き分けだ」

 「次はどうする、秋吉」

 シャオロンが楽しそうに問いかける。

 「遠野、行け」

 秋吉道場の不動の盾が、重厚な足取りで前に出た。対してシャオロンが送り出したのはノリス——静かな男だった。構えを取る。それだけだ。

 遠野の『クロオビ仕様』が、警戒信号を発しなかった。

 高精度のマブイセンサーが、ノリスを「そこにいる」と認識できていない。遠野は眉をかすかに動かした。長年の格闘家としての勘が、一つのことだけを告げていた。

 ——これは、厄介だ。

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